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第二の世界
肩車
しおりを挟む「ああ、茶は出さなくていい。オルにバレる」
茶器に手を掛けるとオルトスに声を掛けられる
ーーそれもそうか
「でも喉は乾くからレイチェルの分は入れてくれ。俺そこから飲むから。どうせそういうの気にしないだろ?」
「いやまあ、しないけども」
この世界の男女なら、そういうの気にしそうなのだが本当この男は自由だ。
「それで話なんだけどな」
その後オルトスが話してくれたのは現在の外の様子だった。
とりあえず1番気になっていたアリネスや護衛騎士達の身柄はワカウィーの実家であるズー家が全力で保護してくれたらしい。
それから私の殺害未遂が起きたあの日、正確には夜起きて日を跨いだのであの2日間。1つの棟の下に犯人の物と思われる血痕が大量に残っているのに対してその足取りは掴めず、もう1人の実行犯らしきモノは少しあるが何せその殆どが溶けて無くなっているので手掛かりが何もない。
それから最後に最近のオルのあの様子。おかしくなった切っ掛けは私が意識を手放す直前に聞いた地響きの様な音がしてからだそうだ。
ーーあの時の、気のせいじゃなかったんだ
しかも更に悪い情報が出てきた。何と驚いた事に地響き音の後からおかしくなったのはオルだけではない。むしろ王城内ではおかしくならなかったのがオルトスだけで他の人々は何故かやたらと私に執着する様な言動が男女関わらず見えるという。それこそ、私が顔も合わせた事が無いような人でも、だ。
「だからまあこの軟禁も強ち間違いでは無いんだよなあ」
面倒臭そうに天井を見上げてだらりとするオルトス。しかし逆に何故オルトスだけが以前と同じ様に正気で居られるのだろうか。皆執着に差はあれど以前と同じ様な様子の人は居ないらしいし。
ーーオルトスも何かの能力持ちなのかな
するとオルトスにが天井を見たまま小さく呟く
「こんな事になるなら、オルや王族にだけでも処置をしとくんだったな」
「………なんの?」
チラリと視線だけこちらによこしたオルトスは短いため息と共に身体を起こす
「多分、これは俺の仮説なんだが今回の件………このやたらと人がレイチェルレイチェル言い出した件な?
言いにくいがこれはレイチェル。お前の能力の影響なんじゃないかと思ってる」
「私?」
「ああ、地響きみたいな音との関係性はよくわからんがレイチェルの能力は『魅了』なんじゃないかと思うんだ」
「み、魅了?!」
「まああくまで仮説だよ。ただそう考えれば色々と辻褄が合うかなと思う部分が多いだけだ。第一レイチェルの能力がかなり高そうだって事はオルから前に聞いた事があったがそれにしたって今回のはデカすぎるんだ。そんな広範囲に能力を使う奴なんて聞いた事がない」
確かに、今話を聞いているだけでも王城内はおろか効果は弱いが街の方に影響を受けている人もチラホラといるらしい。いくらなんでも人間技ではない広さだ。
「そうそう、そう言えばな。王城にいたにも関わらず影響を受けていないのが数人いるんだよ。誰だと思う?」
「え、まさかのここでクイズなの?」
「はい時間切れーぶぶー」
肩を竦めて大袈裟に呆れてみせるオルトス
「理不尽な」
「まあこの世は大概の物か理不尽だよ。それから答えはな、レイチェル。お前の騎士達だよ」
「え……」
「騎士達の方の理由はまだわからん。
それからこれも俺の仮説なんだがな?レイチェルの能力を魅了だと思った理由が………えーっと、祈りの花の香りの方の性質覚えてるか?」
「あーなんか強力な媚薬になるとか言ってたあれ?」
「そうだ。媚薬って事はまあ厳密には違うかもしれんが惚れさせたりするだろ?それって違う言い方すりゃ魅了するって事にならないか?」
「魅了………」
「ああ。前からやたらとランカの花の成長にはレイチェルが関わってたし、ランカの花を成長させるめちゃくちゃ限定的な能力かとも思ったがそれなら魅了の能力をレイチェルが元々持っていて、その力に花の方が引っ張られて成長したって方がしっくりくるしな」
私が魅了の能力持ちで、ランカは私の能力に引っ張られて成長………
そんな事ある?とか言って笑い飛ばしたい所だが現に『能力持ち』が存在する時点で私の知っている常識で対処できそうにもないし。
というかもう色々といっぱい考える事がありすぎて頭が破裂しそうだ。
「おっ………と、そろそろ俺行くわ。まだ余裕はあると思うが念の為にもう帰るよ。あ、また来るから適当な茶菓子用意しといてくれ。暇だから口寂しくなるとか言っときゃオル辺りがわんさか用意してくれんだろ」
そう言ったオルトスはせっせと椅子を通気口の下辺りに持って行き鉤縄の様な物を取り出して器用に引っ掛けヨジヨジと登りだした。
「あの………オルトス」
「なんだよ今取り込み中だ」
「言いにくいんだけどさ」
「おい、こっちは必至に帰ろうとしてるんだ。話しかけるな」
「…………ぜんっぜん登れてないけど」
そして暫し訪れる沈黙
「………っさい!俺は身体を使うよりは頭を使う派なんだ!」
「………持ち上げようか?」
「………うん、頼むわ…………」
物凄く微妙な空気になりながら私が椅子に登ってできる限りオルトスを持ち上げた。流石に腕を伸ばし切れる筋力はないのでオルトスの方は鉤縄を持ちながら自分でも登るという形で何とかあがれた。
ーー流石に上の方は自力で行ってたけど、戻り方は何か考えた方が良いわね
オルトスの来ていた形跡が残っていないかチェックしながら考える
ーー明日は肩車とかどうかしら!
次の日、オルトスが来た時に提案するとまたドレスの上から脛を蹴られた。本当に酷い。
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