異世界めぐりの白と黒

小望月 白

文字の大きさ
上 下
115 / 149
第二の世界

方向音痴

しおりを挟む

何を言っているのだろうかサランは。
『逃げましょう』?
一体誰から?



私が混乱しているとサランは私の下半身にかけられている布団を勢いよく剥ぎ取る


「うえ?!」


驚く私に構わずサランは私の手を引っ張る



「いたっ」


「さあレイチェル様、時間がないのです。急いで!」


「ねえサラン、逃げるってどこに?何から逃げるの?」



寝室を出ると私がいつも昼食を取っているテーブルが見える



ーーアリネスとワカウィーを助けなきゃ



「とにかくレイチェル様は付いてくださればよいのです」


なんだかいつも以上に強引なサランの言葉に引っかかる



「待ってサラン」



引っ張られている腕に力を入れて踏ん張るとサランは少し面倒臭そうな顔をしてこちらを見る



「レイチェル様、今は説明している時間がなのです。わかるでしょう?」



まるで駄々をこねる子供に言い聞かせるように話すサラン。しかし何故かモヤモヤする。何となく、としか言いようがないが今は部屋の外に余り行きたくない。
というかサランが怖い。



「ねえ、あなた本当にサラン………よね?」



するとサランは一瞬ハッとした表情をして、少し考える仕草を見せる



ーー見た目はどう見てもサランなんだけど




「申し訳ありません。いくら急いでいたからと言っても、何も説明されなければレイチェル様もご不安ですよね」


そう言って不自然なほどにっこりと笑うとサランは私の手を離してくれた。



「実は、先程も申しました通りレイチェル様の存在が面白くないご令嬢が多々おられまして。そしてレイチェル様を次期王妃候補から引き摺り下ろそうとどうやら躍起になっているそうです。そして不味いことにレイチェル様の事を欲しがる者達も出てきたのです」


「欲しがる……?」



サランはこくりと頷く



「はい。龍神教教会です」



確かに私の事が面白くないと思っているご令嬢が何人もいる事や教会が何故だかはわからないが私を欲しいと思っているのも本当だろう。
前にアリネスやオル達が言っていた。
しかしこの情報はそこまで隠されている訳でもないので知ってる人は知っている。



「そしてその手先として潜り込んだアリネスは図々しくもレイチェル様の信用を勝ち取り、第一侍女としての地位を得ました。
そしてレイチェル様の命を刈り取る瞬間を虎視眈々と狙っていたのです。」



ーーそんな風には思えないんだけど


そもそも私を殺そうと思えばアリネス程ずっと一緒にいたのならいくらでも機会はあった筈だ。
サランの言葉に疑問しか浮かんでこないがサランは続ける。



「しかし今回の毒殺は失敗。そしてアリネスは次こそ確実にレイチェル様を亡き者に出来るよう暗殺者を遣わせる事にしたのです」


「あ、暗殺者?」



毒殺もそうだが、なかなかに物騒な話になっている



「そうです。私が偶然耳にした情報ですと今夜遅くにアリネスの用意した暗殺者がこの部屋へとやって来ます」


「でも、やっぱり私は……」


すると突然サランが怒鳴りだす


「いい加減にして下さいレイチェル様!あの女に何を吹き込まれたかはわかりませんがあれは敵です!要らないものなのです!レイチェル様は!私を!信用なさってください!」


そして私の返事も待たずに再び私の腕を掴むと、信じられない程強い力でグイグイと引っ張られる。部屋の外に半ば引き摺られるようにして出てみれば何と誰も居なかった。


「サラン、護衛騎士達は……?」



いつもなら交代で護衛騎士が見張りについてくれているはずだ。もし何らかの理由があって外したとしても誰も居ないのはおかしい。



「ああ、あの『祈りの花ランカの騎士隊』とかいうあれですか?」


サランは少し馬鹿にしたように鼻で笑う


「勿論、あんな欠陥品の寄せ集め隊など用済みですからね。解散でもしたのでしょう」

そう話しながらもサランはどんどんと進んでいく




ーー私の護衛騎士達が解散?そんな話聞いてない



それに私の騎士達は皆優秀で人としても其々に尊敬できる所がしっかりとある。欠陥品等1人も居ない。



「……どこへ行くの」



サランの言葉の数々に腹がたつのを必死に抑えて聞くと「口ではなく足を動かして下さい」と言われた。やはりサランが怖い。
先程から何度か振り解こうとしているのに一向に手を離してくれる気配がない。




「サラン、本当にどうしたの?」



私の言葉にサランは歩調を緩めずに小さな声で言った。



「私は……あなたの覚えていないあなたを知っています」



と。





「え?」



どういう事だろうか。
まさか日本での私を知っているのだろうか。しかしそれなら『あなたの覚えていない』なんて言うのは今更な気がする。日本の事はもうちゃんと思い出した。



ーーあ、私が日本の記憶が戻った事サランはしらなかったのかもしれない



しかし日本での知り合いならどうして今まで黙っていたのだろう。やはり王族の手前身分やら何やらがややこしかったのだろうか。


正解を教えてくれなさそうな背中を見ながら横を見る。窓から見える景色はまだ暗く、夜はまだまだ明けそうにないと思うと無性に不安になる。




ーーみんな無事かな







パタパタと早歩きで歩く2人分の足音がやけに大きく響いていた。























サランに引っ張られながら何度も角を曲がったり、抜け道のような場所を抜けたりしている内に必死に覚えていた帰り道が完全にわからなくなった。



ーーサランを疑う様で悪いけど……



少し様子がおかしく見えるサランにこのまま着いて行くのはどうも不安なのでせめて帰り道だけでもと思ったがこんなにシリアスな雰囲気の中でもポンコツな私の頭は全力で方向音痴を発揮していた。



ーーがってむ………


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜

ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。 年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。 そんな彼女の癒しは3匹のペット達。 シベリアンハスキーのコロ。 カナリアのカナ。 キバラガメのキィ。 犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。 ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。 挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。 アイラもペット達も焼け死んでしまう。 それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。 何故かペット達がチートな力を持って…。 アイラは只の幼女になって…。 そんな彼女達のほのぼの異世界生活。 テイマー物 第3弾。 カクヨムでも公開中。

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

アルカディア・クロニクル ゲーム世界にようこそ! 

織部
ファンタジー
 記憶を失った少年アキラ、目覚めたのはゲームの世界だった!  ナビゲーターの案内で進む彼は、意思を持ったキャラクターたちや理性を持つ魔物と対峙しながら物語を進める。  新たなキャラクターは、ガチャによって、仲間になっていく。    しかし、そのガチャは、仕組まれたものだった。  ナビゲーターの女は、誰なのか? どこに存在しているのか。  一方、妹・山吹は兄の失踪の秘密に迫る。  異世界と現実が交錯し、運命が動き出す――群像劇が今、始まる!  小説家になろう様でも連載しております  

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...