異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第二の世界

久しぶり

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廊下に出ると眩しい程の日差しが差し込んでいた。


ーーこの世界にも四季はあるのかしら



すっと目を細めて空を眺める。何か細長い物が上に飛んで行った様な気がした。



ーーなんだろ、飛蚊症かな



とりあえず城の上へ上へと歩く。私が許されている行動範囲の1番上は城の中では3番目に高いらしい回廊までだ。1.2番目に高い回廊は王族だけらしい。


ーーそれ考えたらやっぱり私に色々許しすぎな気しかしないわね



廊下から外を眺めてみると今私がいる棟よりも低い棟の赤くて可愛いとんがり屋根がいくつか見えた。
そして城下は栄えており、色とりどりの民家の屋根が見える。


ーー素敵な眺めね


視線を少し先へやると沢山の山が見えた。そして丁度城の正面辺りに1番高い山があり、その山と城を繋ぐかの様に緩やかなカーブを描いている川があった。


「あの山の向こうは何があるの?」


「あれは『果ての山』と呼ばれており、あの山に登る事は禁じられております。なんでも厄災が降りかかるとか」


「え、曰く付き?」



アリネスの言葉に顔を顰めるとアリネスは少し笑う



「まあ、所詮あの山へと向かわぬ様子供に言い聞かせる為の方便です。国境があの辺りにあると聞いたことがあるのでその関係かもしれませんね」



ーーん?国境?



確かこの世界はひとつの国でできており、この国の王族がこの世界の王なのだと思っていたが違うのだろうか


「国境って事は、あの国境の向こうには別の国があるの?」


するとアリネスは首をかしげる


「ありませんよ?この世界にはこの国が全てです」


ーーんん?



よくわからなくなってきた。ひとまず視線をもう一度山へと戻す。緑が青々と生い茂っており、動植物が元気に暮らしていそうだ。
あれだけ緑が多いのならば暦では夏辺りだろうか。日本の夏に比べると随分と爽やかな暑さで湿気も酷くなく過ごしやすいのだが。



ーーやっぱり違う世界なんだなー



もしかすると『日本』に住んでいた私は前世の私で、今この国にいるのは転生した私なのではないか。そう考えもしたがやはりあの夏の暑さ、湿気、けたたましく響く蝉の声。
その全てを身体が覚えている。何より多少色彩は変わりはしたが顔やらのパーツがそのまんますぎる。
それに記憶が戻ってからはやたらと『たまかけごはん』が食べたくてたまらない。
熱々ご飯に卵、白だし、天かすをかけて食べるのが大好きだった。
確か周りの友人に「そこは醤油じゃないの?」と何度も言われたが、あの出汁の旨味と塩気が卵と白米によく絡んで最高だったのだ。そして天かすのサクサクアクセント!



ーーあ、やばいまた食べたくなってきた



ぶんぶんと頭を振って頭からたまかけごはんを消す。



「よし次!」



そのままうろうろと歩いていると迷った。まあそうなる気はしていたが迷った。


ーー部屋から祈りの花ランカの花壇までなら覚えたのに



とりあえずもうだいぶ日も高くなっているので一旦部屋に帰る為道を選ぶ役はアリネスにバトンタッチした。


「あ、ランカの花壇だけ寄りたいな」


「心得ております」


アリネスのさも当然かの様な返事ににやけながら歩くとランカが群生している花壇に着いた。



ーーやっぱり



日本での事を思い出してから改めてランカの花を思い出したが、色合いは違えどその見た目は鈴蘭そのままだった。
風に揺られるランカはわさわさと動き、まるで私達が来たのを歓迎してくれているかの様だ。



「部屋に少し持って帰ろう」



アリネスにまた鋏を借りてランカをいくつか採取し、お腹も空いたので帰ろうかという話になった。



『諦めないでね』



ふと声が聞こえた気がして振り返るとノメルがキョトンとした顔でこちらを見る



「今何か言った?」



しかし皆不思議そうな顔をして首を振る



ーー気のせいか




部屋に帰るとすぐに使用人の女性達が食事を運んできてくれた。
アリネスはすかさず中身を確認していたが特に何とも無かったのかテーブルに並べてくれた。
今日はキッシュとロールパンを中心にサラダやスープ、フルーツの小鉢が付いていた。



ーー食事は洋食なのよね




「いただきます」



キッシュはほうれん草にプチトマト、チーズに鶏肉が入ったボリューミーな物だった



「美味しそう」



ぱくりと口に含んだ瞬間少し舌がピリピリとした。



ーー唐辛子?ではない様な………?



断面を見ても唐辛子らしき物は見当たらない。ひとまずキッシュは置いておいてスープを口に含む




「?!」



飲んだ瞬間凄まじいエグ味が口の中を占める



口を抑えるとすぐにアリネスがタオルを渡してくれたので悪いとは思ったがそこへ吐き出した。



ーー渋柿とアク抜きをしてない筍を足したみたいな味だった………




一先ず口をゆすごうと立ち上がったがそのまま床にぺたんと倒れ込んだ


「あれ?」


「レイチェル様!」



アリネスとワカウィーが身体を支えてくれるが何だか目の前がぐらぐらする。



「足に力が入らない」



私の言葉にワカウィーは勢いよく私が食べていた昼食を見る


「毒でしょうか」


とりあえずこの場でいいから口をゆすげと言われ口元までコップを運ばれたが口が上手く動かなくなってきて沢山水を零してしまった。
そこからの記憶は朧げで、気がつけばまたベッドの上だった。



ーーもう真っ暗だ




「お目覚めになられましたか?」



声がしたので顔を動かすと女性が立っていた


ーーこの声は………




「サラン?」



私の言葉に一歩近づいてお辞儀をしたのはやはりサランだった。



「御無沙汰しておりましたレイチェル様。お側に参れず申し訳ありませんでした。」



「ううん。大丈夫よ。久しぶりねサラン。元気にしていた?それよりもアリネスは?」



するとサランは薄暗い中でもはっきりと分かるほどに顔を顰めた。



「レイチェル様、落ち着いて聞いてください。アリネスは裏切り者です」



ーーん?



「アリネスはレイチェル様を邪魔に思うご令嬢から遣わされたスパイで、ずっとレイチェル様を亡き者にするタイミングを狙っておりました。
わたくしが長きに渡ってレイチェル様のお側へ参れなかったのも全て、アリネスが裏で糸を引いていたのでございます。
そして本日アリネスはレイチェル様の食事に毒を盛り、さも驚いたかの様に振舞ってレイチェル様を時期王妃の座から引き摺り下ろそうとしました。」




サランの言葉が耳を滑って消えてゆく



「待って、じゃあ今アリネスは?」



「我が国にとって大切な方であるレイチェル様に害を成そうとしたのです。当然地下牢へと繋いでおります。勿論共にいた護衛騎士の女も一緒ですのでご安心下さい」



ーーは?



確かに食事を並べたのはアリネスだし、普通に考えれば怪しいと思うのかもしれない。
しかし私はアリネスを信じている。勿論あの時同じ部屋にいたワカウィーも。



ーー助けなきゃ



しかしどうすればいいだろう。
王族はもしかしたらアリネスが毒を盛った犯人だと思っているのかもしれない。
説得できないだろうか。 



「レイチェル様」


「何?」



サランは静かに言い聞かせるように言った





「ここから逃げましょう」




ーーえ?


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