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第二の世界
成分
しおりを挟む『ランカの花の成分』と言ってオルトスが取り出した小瓶には透明の少しトロリとした液体がはいっていた。
「成分って……精油とは違うの?」
私の問いにオルトスは嬉しそうに首を振る
「違う。香りの成分も入ってはいるがそれだけじゃない。全部だ。」
「それってそんなに凄いの?僕もうオルトスの研究内容聞くの嫌なんだけど。眠たくなる」
しかしヴォルフは全く興味が無い様でつまらなさそうに机に突っ伏している
「まあ聞け。凄いぞ!祈りの花は採集が容易ではない場所に咲く上に群生しないからな。今まで研究したくても中々できなかったんだが今回レイチェルのお陰でかなり色々な事がわかった」
「へえ、それで?」
机に頬を乗せたまま『一応』という感じでオルが聞くがオルトスは全く気にしていない。
「ああ!それがな!レイチェルの花には様々な作用がある事がわかった。まず最初に言っておくがランカは毒花だ」
「「え゛っ」」
ーーそんなのが王城にわさわさ群生してていいのか
すると楽しそうにオルトスは笑う
「それでな、その内容が凄いんだよ。ランカの成分には幻覚、溶解、全身に効く麻痺の成分もあるが香りの部分だけなら媚薬や惚れ薬にもなる。それも強烈な、な。」
ニヤリと笑うオルトスの言葉を聞いてガバッと勢いよくオルが顔を上げる
「おい待てお前、もしかしてそれ他の研究員奴にも……?」
「いや、こんな凄いもんは金を持っていない研究馬鹿共には教えたって宝の持ち腐れだから教えねえよ。それよりも貴族だ。金持ってる貴族にこれを渡しゃかなりの金になるだろうな」
オルトスの言葉にオルが焦る
「まさか、もう?」
するとオルトスは真剣な真顔でオルの顔を見る。静かな部屋でオルの喉がごくりと音を鳴らす。
「ぶっ!ははははは!まだだよ。まだ誰にも言ってねぇ」
オルトスはゲラゲラと笑うがオルはそれを見て顔を顰める。
「おい、こういう心臓に悪いのはよせ。僕は繊細なんだ」
「ぶっ!!繊細!!!」
更にゲラゲラとお腹を抱えて笑うオルトス
ーー私帰っていいかな
仲が良いのは結構だがこれ私がここに居なくても良い気がする。
「ねえ、私もう帰っても……」
するとオルトスは私の言葉が終わるのを待たずに片手で私を制す
ーー?
「さ、もういいだろオル。さっさと話せ。レイチェルはもう少しこのヘッポコを待ってやってくれ」
ーー一国の王子がヘッポコよばわり………
なんだか少し可哀想になってきた。そしてその間にもオルは「あー」や「んー」とよくわからない事をモゴモゴと言っては口を開け閉めしている。
「その……レイチェル、本当はもっと早くに伝えるべきだったんだけどね」
「はい」
「あー……実は君は『能力持ち』だ」
「ん?ああ、そうみたいね」
「驚かないね」
オルが少し首を傾げるが実際そうなのかも、という話は出ていたので改めて聞いた所で「ああやっぱり?」くらいだ。強いて言うなら『何の』能力なのかは気になるが。
「まあ、あのランカの生え方とか増え方見てたらそうかなって話にはなるよね………」
私の言葉にオルトスは背もたれにもたれ掛かりながら「まあそうだわな」とつまらなさそうにしている。
「そう。じゃあもしかしたらこれも分かってたかもしれないんだけど、僕達王族が君の事を保護し特別扱いしているのも君の能力があるからなんだ。その……君は並の人とは比べ物にならないくらい能力が高いというか強い様だし」
「そんなに言いにくそうにしないでオル。まあそんな所だろうとは思っていたわ。だから気にしないで欲しい」
しかしオルは首を振る
「いや、そのー……実は本題はここからなんだけど、君に能力があるのは前々から分かっていた事なんだけど、最近ではその強さもどうやら城で有名になってしまった。延いては前まで冗談で済んだ僕との婚約の話が再び出ている」
「えっ」
「それと、君を欲しがる所が出てきた」
「欲しがる?」
「ああ、君と僕の婚約の話が出ればレイチェルには『貴族』という肩書きがあった方がいいだろうとレイチェルを養子に迎えようと申し出る者達が続出している」
「えー」
「それだけじゃないんだ。どうやら君は龍神教から目をつけられている。遅かれ早かれそうなるだろうと予想していたアリネスの読みは当たっていたという事だ」
その言葉を聞いてアリネスを振り返ると、少し困った様に肩を竦めた
「アリネスはレイチェルが能力を持っているなしに関わらず教会が目をつけるのではないかと思い、余計な事をされる前に民衆やまだ君を知らぬ多くの貴族達を味方に付けようと考えた結果、舞をさせようと思った様だね」
ーー私の価値を高めてってあれね。
オルの言葉に頷くとオルも静かに頷く。
「まあ、僕との婚約云々は最終手段かな。今はお互い友達って感じだし、こちらとしては話した事もない様なご令嬢とくっつけられるくらいなら僕は君との婚約は全然構わないけどレイチェルは違うだろう?」
少しからかう様なオルには悪いが今は婚約やらなんやらは全然考えられない。
「まあ、そうね。教会とかいう所に引っ張っていかれて怖い思いをするならオルと婚約する方がいいのかもしれないけど私王子の妻なんて立場、ましてや王妃なんて無理だろうと思っているから現実的ではないわね」
私の答えにオルとオルトスは笑う。
「レイチェルはそれでいい」と。
「ま、ともかくランカの成分に関しては王族とレイチェルには言っておきたかったんだ。伝えられてよかったよ。
あ、ちなみに言うまでもないだろうがこれは勿論内密に頼むぞ」
オルはそう言って私の後ろに控える護衛騎士やアリネスに念を押すと、皆は静かに礼をした。
「よし、解散」
再びオルが脱走しないように服を掴むオルトス。思わず笑いそうになるのを堪えていたらわざと足を踏まれた。ひどい。
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