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第二の世界
お呼びでない
しおりを挟む「レイチェル様……あの……元気出してください」
次期王妃になるつもりがないのにまた面倒臭い問題が起こって落ち込む私を何とか元気付けようと励ましてくれているのは優しいウォレンだ。そしてその後ろにずっと笑いで肩が震えているナファリ。
ーーナファリめ。他人事だと思って
ギロリとナファリを睨みつけた私の代わりにカーヌがナファリに鉄拳を食らわしていた。
「まあ、王族の方々から好意的に見られるのは良い事ですよレイチェル様」
「そ、そうよね」
カーヌの言葉でとりあえず自分を納得させ、紅茶を飲む。花壇に大量に咲いているランカがさわさわと揺れてまるで踊っている様だった。
「ああそういえば」
優しく微笑んだカーヌが話し出す
「ここの花壇は正式にレイチェル様の物になったそうですね」
「え、そうなの?聞いてない」
初耳の情報が出てきた。
「はい。実はそうなのです。後程お部屋に帰ってからお渡ししようとは思っていたのですが王妃様から書簡が届いております」
アリネスが差し出した封筒を開くと
その花壇、気に入っているみたいだしあげるわね!勿論ちゃんと国王の許可も取ってあるから安心してね。
私の次のお茶会にその花壇のお花を持ってきてくれると嬉しいわ
ナーニャ
と書かれていた。
ーー軽っ!!え、待って。王城にある物って王族の持ち物よね?
王族が物を誰かにあげるのって下賜よね?え?あれって何か功績をあげた人とかにするものじゃないの?
1人混乱しているとノメルが小声で楽しそうに言う
「どんどん埋められてますねぇ」
「ん?何を………」
そしてそこまで言って気が付いた。
ーー外堀か……!
とりあえず今日はもう部屋に戻ろう。サランの事も気になるし。そう思ったがふと思いついた。
「ねえアリネス。ハサミ持ってない?」
まあ流石に散歩にハサミはないかなと思ったが、なければどこか近くで貸して貰いたいなと思って聞いてみた。
「ハサミですか?ございますよ」
ーーあ、あるんだ
アリネスからハサミを受け取って花壇に近づく
「ねえアリネス。この花壇、私が頂いたから好きにお花を摘んでも大丈夫なのよね?」
「そうですね」
そして私はランカの花を8本切った。そしてくるりと向きを変えてカーヌの元へと行く
「?」
不思議そうにこちらを見るカールの胸ポケットにランカの花を挿した。
「!」
驚くカーヌに続いてルル、ナファリ、ワカウィー、ノメル、ウォレンに挿し、アリネスには手渡した。サランは……渡すか正直ちょっと迷ってしまっている。性格悪いかな私。
「なんか、改めて言うのも恥ずかしいんだけど。いつもありがとう。私の周りにいるとバタバタする事多いかもしれないけどこれからも宜しくね。私、みんなに恥じない行いが出来るよう頑張るから、見てて」
すると私の言葉が終わると騎士のみんなはザッと一斉に立て膝の姿勢になった。
「!」
驚いて目をパチパチしているとカーヌが静かに口を開く
「レイチェル様に、絶対の忠誠を」
「「レイチェル様に絶対の忠誠を」」
カーヌの言葉の後にカーヌ以外の全員が復唱する。そして護衛騎士だけかと思いきやアリネスまで跪いている
ーーちょ、ちょっと感謝を伝えたかっただけなのになんか大袈裟な事になってしまった………
ひいぃ!と慄いている私はこの時知る由もなかった。
内容までは聞き取れずとも、私達のこのやり取りを見た王城の使用人達が見た事をどんどんと人に伝え、『その結果』が私の耳に入る頃にはすっかり定着してしまっている事に。
✳︎✳︎✳︎
「レイチェル様、最近我々レイチェル様付きの護衛騎士は別名がついたのをご存知ですか?」
いつのまにか護衛騎士全員の胸ポケット辺りに刺繍されたランカの花を愛おしそうに撫でながらルルが言う。
「ん?何それ知らない」
「『祈りの花の騎士隊』というのですよ」
「………え?」
「格好いいでしょう?」と微笑むルルを傍目に私の心は複雑だった。
ーーもっと人目がない場所でやればよかった………!
✳︎✳︎✳︎
後々の騎士達の呼ばれ方など知らず、皆に花を渡し終わった後私は王城の廊下を歩いていた。
ーーいつ見ても凄い装飾品ね………
盗難とか大丈夫なのかな、などとくだらない事を考えているとピリピリと耳に響く甲高い声がいくつも聞こえてきた。
「あらぁ~!レイチェル様偶然でございますね!御機嫌よう!」
「ま!本当ですわ。レイチェル様じゃございませんか」
「嬉しい!レイチェル様にお会いしたいと思っていましたのよ?私のこと覚えて下さってます?」
ーーうわー見たくないなー。見たくないなー。でも私の名前呼んでるしなー
左側から合流する通路に居たのはお茶会にも参加していたご令嬢達だった。
ーーあー、あれ確かお茶会でアリネスが要注意だって言ってた子達………
そう。確か名前が
「マーティファ様、ネロリダ様、ローマニエ様………御機嫌よう」
「「「御機嫌よう!」」」
重たそうなドレスを着てにっこりと微笑む3人のご令嬢達に口元が引き攣るのを必死に我慢する
ーーうわー。全然会いたくなかったー
さっき護衛騎士のみんなに恥じない行いを心掛けると言ったが、早速くるりと回れ右したくなった私はとりあえず「いかに早く話を切り上げられるか」の一点に頭をフル回転させた。
ーーみんな、こんな主人でごめんよ!
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