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第二の世界
騎士への道ー2
しおりを挟むそこで一度ウォレンはふぅと息をつく。
「レイチェル様、この様な話はお暇ではありませんか?」
しかし私はみんなの、ウォレンの事が知りたい。むしろもっと聞きたい。なのでぶんぶんと首を振り続きを待つ。
そんな私を見てウォレンは少しだけ笑った様に見えた。
ーー真顔は真顔でもアリネスと同じ様に表情が無いわけではないのよね
早くウォレンの表情も分かるようになりたいものだ。
また元の表情に戻ったウォレンは続きを話し出す。
「騎士を目指して再び訪れた王都は変わらず華やかで、活気に満ち溢れていました」
騎士は誰でもなれる訳ではなく、最低限のマナーや体力・知力があるかどうかの試験がある。
そしてその試験はコネがない平民のウォレンにとっては辛い物だった。
体力はそこまで苦労する事なく通過できたが知力やマナーがギリギリだった。
村で村長やその周りの『村で学があると言われている人達』に沢山教えて貰った筈なのに王都では失笑の対象だった。
悔しい。その気持ちを糧に騎士見習いとして合格してからは他人の何倍も努力をした。馬鹿にされない様、自分を誇れる様。
そんな日々の中、騎士見習い同士の雑談でこんな話が出る。
「将来どの様な方にお仕えしたいか」
他の皆は嬉しそうに王族や、有名な貴族達の名前を挙げる。
ーーどうしてわざわざ人に仕える?
自分は特定の人を守るよりも街全体を守れる様な、そんな働き方をしたい。そう思っていた。
ーー専属などにならず、騎士団を目指せば良い物を
嬉しそうに専属の護衛を目指している同僚達が不思議でならなかった。
騎士見習いの『見習い』が取れ、下っ端だが夢にまで見た『騎士』になれたころ、ウォレンはある事に悩む様になっていた。
それは自分の体型の事だ。
家族もそこまで大きくはなかったが平均くらいはあった。なので自分もその内、と思っていたがどうにも背が伸びない。身体もがっしりと太くならない。
いつまで経っても小さいままだ。
巷で噂になる様な眉唾物の方法や、食べれば背が伸びると言われている口が曲がる程すっぱい果物も、わざわざ鍛錬の合間を縫って探しに行って食べた。
なのに伸びない。
それが原因でからかわれる事もよくあったが元々表情を動かすのが得意では無かったのと、本当に悩んでいる事を何度も揶揄われる事でかなり怒りが溜まっていた。そしてある日思わず相手に辛辣な言い方をしてしまった。
しまったとは思ったが止まらない。結局喧嘩になり謹慎を喰らった。しかし揶揄ってきた相手はとくにお咎めもなく普段通りに過ごしていた。
一体何故か、と上司に聞けばめんどくさそうに「貴族だからに決まっているだろう」と返された。
愕然とした。
『騎士には貴賎など無く皆心穏やかで、日々互いを研鑽し合い仲良く暮らしている』など思ってはいなかったが、もう少しマシだと思っていた。
なのに現実は生まれが違うだけで処分も違う。平民と言うだけで陰口を言われる。挙句本気で悩んでいる身体的特徴までも馬鹿にされる。
こんな事があって良いのだろうか、本当にこれが騎士の正しい姿なのだろうか。そう何度も考えた。
しかし下っ端の自分がどう喚こうが相手にされない。幸い平民出身でも階級が上がれば馬鹿にする奴は減る。ゼロではないが確実に減る。そう思い毎日毎日馬鹿みたいに鍛錬した。
元々身体の大きさの割に体力はある方だと思ってはいたがどうやら騎士への道は自分へそこそこ合っていたらしい。
何とか階級を上げる事ができた。
そして階級が茶から黄、黄から緑へと上がるにつれ『専属の護衛騎士』への興味が出てきた。
別にこの人を守りたいという具体的な人物がいる訳ではない。
ただ『こんな自分でも必要としてくれる人が欲しい』『自分の命を投げ打ってでも守りたいと思える程の人と出会いたい』そんな漠然とした思いが自分の中で大きくなっていた。
階級が緑になってからはそれなりに護衛の依頼が増えた。一定期間の後依頼主が自分を『欲しい』と言い、こちらも了承すれば交渉はほぼ成立。晴れて専属となる。
しかし何度か向かった護衛では二度目に呼ばれる事も、ましてや『専属』として声がかかる事もなかった。
ーー別にあんな者達の事を守りたいとも思わないから、依頼がこなくても結構だ
確かにこちらの表情や態度も多少悪かったかもしれない。しかしこちらの姿を見るなりがっかりした様子、騎士こちらを人とも思わぬ様な見下した物言い。
そんな者達にどうして敬意を払えようか。
どの依頼主の元でも同じ様な扱いを受けたので最低限の仕事はこなし、後はさっさと帰った。
そうこうするうちに自分の元へは依頼が来なくなっていた。そして階級の昇級も止まり、周りからの誹謗中傷も相変わらずだった。
何もかもが面倒で、面白く無くて、どうでもよくなっていた頃。
気を抜けば虚無感に襲われそうで必死に鍛錬だけは続けていた頃。
目の前に自分となかなかいい勝負をしそうな無愛想で、表情を動かす気がさらさら無いように見える侍女服を着た女が現れた。
「あなた、私の主人の専属になる気はありますか」
突然現れた女はニコリともしないままこちらへ問いかけてきた。
変な奴にこれ以上絡まれない様その場を離れようとすれば女は声を張り上げる訳でもなく、ただぽつりと呟いた。
「頼まれるのではなく、自ら望んで誰かに仕える喜びを知りたくはありませんか」
ズシリと重い何かが自分の中で動いた。
ーー今まで何人も護衛をした。しかし誰とも合わなかった
護衛に敬意を払う主人など居ないのかもしれない。もし居たとしてもそんな素晴らしい方は階級が緑の自分ではなく、もっと騎士としても人としても優れた人物を選ぶのだろう。
そう思い始めていたから。
ーーでも、もしかしたら次の主人は違うかもしれない
いい加減、身の程を弁え希望を捨てねばならないのかもしれないが願わずにはいられなかった。
次は、次こそは、と。
ウォレンはゆっくりとこちらを見る
「そして、あなた様にお会いしました」
貴族では無いものの『王族の客人』という稀有な存在で、そこらの貴族では比べ物にならない程王族と親密そうな方。
そんな方が初めて会った只の騎士達に笑いかけ、自ら握手を望んだ。
ーー今までの人とは違うかもしれない
淡い期待を胸に新たな主人の護衛をする。6人の中の1人だが、主人の立場を考えればかなり少ない。
ーーもしや何か性格に問題があるのかもしれない
そう思い慎重に様子を伺っていると、突然「発言許可制度を無くす」と言い出したり、明らかに自分よりも身分が下の侍女に失礼な物言いをされているのに流していたり、挙句護衛騎士の1人を抱擁しだした。
面白い。
そして同時に、危うい。
見ていれば自分のこの国での立ち位置をあまり重要視していない様に見える。
そしてすぐに人を懐に入れる様にも。
これではいつ寝首をかかれるか分かったものでは無い。
ーーならば、自分が……
少しでも力になれるならば。そう無意識に思ってハッとした。
漸く出会えた。自ら『守りたい』と思える主人に。
「レイチェル様は私の希望なのです。今までの主人には見た目でまず顔を顰められましたが、レイチェル様はそうなさりませんでした」
真顔のまま真っ直ぐにウォレンはこちらを見て話す。
ーーワカウィーと同じ様に中性的で素敵だと思うんだけど
しかし本人からすれば背が低いのも、顔立ちが少々女性寄りなのも悩みの種なのだろう。
「突然こんな話をされても戸惑うかもしれませんが、私はレイチェル様がお許し下さるのなら生涯この身をあなた様の役に立たせて頂きたいと考えています」
「ウォレン……」
まだ若い(と思う)のに一生仕える宣言は早まりすぎではないだろうか。
しかし気持ちは嬉しい。それは伝えよう。
「ありがとうウォレン。そう思ってくれることが嬉しいわ。」
私の気持ちを汲み取ってくれたのか ふ 、とほんの少し微笑むと静かに頷いてくれた。
「そろそろ戻りましょうか」
辺りはすっかり暗くなり、気がつけば夕食の時間になっていた。
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