異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第二の世界

新たな発見

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昨日話をしていたが、早速今日から舞の練習が私の予定に組まれる事になった。


お茶会までは多少バタバタするが、お茶会以外の何も予定がなくただただ思うままに過ごすよりはいいと思う。


「ではレイチェル様。早速講師を紹介致します」


「ええ。お願い」


「………」


「?」


「私です」


ーー#変態__お前__♯かい


「うっ……そのじとっとした目も、レイチェル様のお美しいお顔だとひとしお………」



ーーだめだ不安しかない


「アリネス……本当に大丈夫?」


思わず聞くとハンカチで口元(に見えて鼻)を抑えているアリネスはすっと背筋を伸ばし「お任せください」と言ったが大丈夫なのだろうか。
少なくとも目の前で私のジト目で鼻血を垂れ流す女性に舞が教われるとは思えない。


「そんな顔をなさらないで下さい。一応戦闘の実践では役に立ちませんが、儀式や行事で舞うには問題ないレベルは会得しております」


「そうなの?」


「はい。一応師範です」


「おお!凄いじゃない」


「ええ。親に諦められるまでは無駄によい教育を受けさせさせましたので」


ふふんと胸を張るアリネスには悪いがしれっと重たい事を言わないでほしい。反応に困る。


「そ、そうなの……」


「はい。ですから私がまずお教え致します。そして私に教えられる事が無くなれば次は実践向きの舞を教えて頂ける講師の方をお呼びしますので。それまでは私がビシバシしごかせて頂きます」


早速スパルタ宣言をされたが頑張ろう。まずは初心者向けの物だと言って扇を渡される。


「では、始めましょうか」

「お願いします」





















「では、一旦この辺りで休憩に致しましょう」


パンと扇を閉じたアリネスの言葉を聞いて思わず床に座り込む


「ふふ。大丈夫ですかレイチェル様」


すかさずタオルと飲み物を渡してくれるアリネスはピンピンしている。


ーー凄い体力ね……



結果から言うときつかった。それはもう既に足がパンパンで身体中筋肉痛になっているレベルで。


「さあ。少し休んだらまた再開致しますよ」


ーーお、おおおぅ………



にっこりと笑いながら話すアリネスが怖い。本当にビシバシだった。しかしアリネスも忙しい合間を縫って指導してくれているのだ。
集中して少しでも吸収しなければ。


「先程はざっくりとした動きをお教え致しましたが、次はもっと指の先、足の先、視線にも気を配り神経を集中させてみて下さい」


渡された扇で休憩が終わったのだと悟る



ーーが、頑張るわよ………


















「お疲れ様ですレイチェル様。本日はここまでに致しましょう」


「あ、ありがとうございました………」


肩で息をする私に比べ、ずっと同じ様に動いていたはずなのに涼しい顔のアリネス。


ーー流石ね


ゼイゼイと息が苦しいがやはり充実感はある。


ーー明日も頑張ろう



アリネスに着替えを手伝って貰い軽くお風呂に入る。アリネスも一緒に入ってしまおうと言ったら自分は後で入るから良いと断られてしまった。


ーー流石に女の子同士でも抵抗あったかしら



お風呂から上がれば昼食の準備が整っていた。それを見た瞬間私のお腹から大きな犬の唸り声の様な音がなる


「お、お腹…空いたわね……」


アリネスを見るとこちらを見ながらぐっと親指を立てていた。


ーーなんか悔しい






昼食が終わり、一息ついてからはお茶会の準備だ。あっという間に夕方になり今日はここまでで大丈夫だというアリネスの声でペンを置く。


「つ……疲れた………」


「お疲れ様でございます」


真顔だが優しい雰囲気のアリネスを見て改めて感心する。


ーーもっと体力つけないと


「気晴らしにまたランカの花でもご覧になりに行かれますか?」


「うん。そうする」


今日の護衛はカーヌ、ワカウィー、ノメル、ウォレンだ。
そして前にアリネスに打診した『動きやすそうなので侍女服を着たい』は即却下され、代わりにドレスというよりは少し生地が多いめのワンピースが用意されていたので大人しくそれを着る。


ーー侍女服も着てみたかったんだけどな……



ふんわりと軽やかなスモーキーピンクの生地を見つめながら考える。


ーー今度こっそり侍女服着れないかな



その後アリネスにしっかりとバレて真顔で淡々と叱られる所まで想像できてしまい1人がっくりと項垂れる


ーー余り明るい未来は見えないわね





「レイチェル様。サイズは如何でしょうか」


気付けばアリネスが私の周りをくるくると回ってサイズ感を確かめている


ーーいつもドレスでここまでしっかり確認してたかな?



「うん。ぴったりよ。何ならいつも日中着ている様なドレスよりもサイズ感はいい感じよ」


するとアリネスは少し恥ずかしそうにもじもじとしながら何かを呟く



「なんて?」


私が聞き返すと上目遣いでちらりとこちらの様子を伺ってくる


「ん?」


「わ、私なのです」


「何が?」


「そのー……恥ずかしながら、そのドレスを作らせて頂いたのはわたくしなのです」


ーーえ?


『ドレスヲ作ッタノハワタクシ』?


「ええぇええ!」


驚いてアリネスとドレスを何度も交互に見る。すると「勝手な事をして申し訳ありません」と小さくアリネスの声が聞こえる



ーーいやいやいや!いつの間に!



基本ずっと私に付きっきりのアリネスは他の使用人達よりもずっと時間がないなずだ。なのに一体いつの間に作ったというのだろう。しかし色々気になることはあるが今は感動と感謝がどんどんと溢れてくる。



「アリネス!ありがとう!わざわざ作ってくれたのね。本当にありがとう!
可愛い物を見るだけが好きなんじゃなくて作る事もできるのね!素晴らしいわ!」


すると珍しく鼻血を出さずにただはにかんだアリネスは「はい」と嬉しそうに言う。




ーーアリネスが色々とまとも!!!



もう一度鏡の前に立ちくるくると回ってみる。何度見ても職人さんが作った様な丁寧さだ。一見シンプルなストンとしたタイプのドレスだが、使っている生地が薄いので何枚か重ねているらしい。少しだけふんわりとしている。そしてシンプルになり過ぎない様にか左胸の所に少し大きめの花のモチーフ。腰の辺りに分厚過ぎないリボンが付いている。


ーーこっちの道でも十分食べて行けそうなんだけど



新たなアリネスの能力をひたすら感動し、私はもう一度鏡の前のドレスを眺めた。
後ろでいつも通りに鼻を抑える侍女に気づかずに……




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