78 / 149
第二の世界
新たな発見
しおりを挟む昨日話をしていたが、早速今日から舞の練習が私の予定に組まれる事になった。
お茶会までは多少バタバタするが、お茶会以外の何も予定がなくただただ思うままに過ごすよりはいいと思う。
「ではレイチェル様。早速講師を紹介致します」
「ええ。お願い」
「………」
「?」
「私です」
ーー#変態__お前__♯かい
「うっ……そのじとっとした目も、レイチェル様のお美しいお顔だとひとしお………」
ーーだめだ不安しかない
「アリネス……本当に大丈夫?」
思わず聞くとハンカチで口元(に見えて鼻)を抑えているアリネスはすっと背筋を伸ばし「お任せください」と言ったが大丈夫なのだろうか。
少なくとも目の前で私のジト目で鼻血を垂れ流す女性に舞が教われるとは思えない。
「そんな顔をなさらないで下さい。一応戦闘の実践では役に立ちませんが、儀式や行事で舞うには問題ないレベルは会得しております」
「そうなの?」
「はい。一応師範です」
「おお!凄いじゃない」
「ええ。親に諦められるまでは無駄によい教育を受けさせさせましたので」
ふふんと胸を張るアリネスには悪いがしれっと重たい事を言わないでほしい。反応に困る。
「そ、そうなの……」
「はい。ですから私がまずお教え致します。そして私に教えられる事が無くなれば次は実践向きの舞を教えて頂ける講師の方をお呼びしますので。それまでは私がビシバシしごかせて頂きます」
早速スパルタ宣言をされたが頑張ろう。まずは初心者向けの物だと言って扇を渡される。
「では、始めましょうか」
「お願いします」
「では、一旦この辺りで休憩に致しましょう」
パンと扇を閉じたアリネスの言葉を聞いて思わず床に座り込む
「ふふ。大丈夫ですかレイチェル様」
すかさずタオルと飲み物を渡してくれるアリネスはピンピンしている。
ーー凄い体力ね……
結果から言うときつかった。それはもう既に足がパンパンで身体中筋肉痛になっているレベルで。
「さあ。少し休んだらまた再開致しますよ」
ーーお、おおおぅ………
にっこりと笑いながら話すアリネスが怖い。本当にビシバシだった。しかしアリネスも忙しい合間を縫って指導してくれているのだ。
集中して少しでも吸収しなければ。
「先程はざっくりとした動きをお教え致しましたが、次はもっと指の先、足の先、視線にも気を配り神経を集中させてみて下さい」
渡された扇で休憩が終わったのだと悟る
ーーが、頑張るわよ………
「お疲れ様ですレイチェル様。本日はここまでに致しましょう」
「あ、ありがとうございました………」
肩で息をする私に比べ、ずっと同じ様に動いていたはずなのに涼しい顔のアリネス。
ーー流石ね
ゼイゼイと息が苦しいがやはり充実感はある。
ーー明日も頑張ろう
アリネスに着替えを手伝って貰い軽くお風呂に入る。アリネスも一緒に入ってしまおうと言ったら自分は後で入るから良いと断られてしまった。
ーー流石に女の子同士でも抵抗あったかしら
お風呂から上がれば昼食の準備が整っていた。それを見た瞬間私のお腹から大きな犬の唸り声の様な音がなる
「お、お腹…空いたわね……」
アリネスを見るとこちらを見ながらぐっと親指を立てていた。
ーーなんか悔しい
昼食が終わり、一息ついてからはお茶会の準備だ。あっという間に夕方になり今日はここまでで大丈夫だというアリネスの声でペンを置く。
「つ……疲れた………」
「お疲れ様でございます」
真顔だが優しい雰囲気のアリネスを見て改めて感心する。
ーーもっと体力つけないと
「気晴らしにまたランカの花でもご覧になりに行かれますか?」
「うん。そうする」
今日の護衛はカーヌ、ワカウィー、ノメル、ウォレンだ。
そして前にアリネスに打診した『動きやすそうなので侍女服を着たい』は即却下され、代わりにドレスというよりは少し生地が多いめのワンピースが用意されていたので大人しくそれを着る。
ーー侍女服も着てみたかったんだけどな……
ふんわりと軽やかなスモーキーピンクの生地を見つめながら考える。
ーー今度こっそり侍女服着れないかな
その後アリネスにしっかりとバレて真顔で淡々と叱られる所まで想像できてしまい1人がっくりと項垂れる
ーー余り明るい未来は見えないわね
「レイチェル様。サイズは如何でしょうか」
気付けばアリネスが私の周りをくるくると回ってサイズ感を確かめている
ーーいつもドレスでここまでしっかり確認してたかな?
「うん。ぴったりよ。何ならいつも日中着ている様なドレスよりもサイズ感はいい感じよ」
するとアリネスは少し恥ずかしそうにもじもじとしながら何かを呟く
「なんて?」
私が聞き返すと上目遣いでちらりとこちらの様子を伺ってくる
「ん?」
「わ、私なのです」
「何が?」
「そのー……恥ずかしながら、そのドレスを作らせて頂いたのはわたくしなのです」
ーーえ?
『ドレスヲ作ッタノハワタクシ』?
「ええぇええ!」
驚いてアリネスとドレスを何度も交互に見る。すると「勝手な事をして申し訳ありません」と小さくアリネスの声が聞こえる
ーーいやいやいや!いつの間に!
基本ずっと私に付きっきりのアリネスは他の使用人達よりもずっと時間がないなずだ。なのに一体いつの間に作ったというのだろう。しかし色々気になることはあるが今は感動と感謝がどんどんと溢れてくる。
「アリネス!ありがとう!わざわざ作ってくれたのね。本当にありがとう!
可愛い物を見るだけが好きなんじゃなくて作る事もできるのね!素晴らしいわ!」
すると珍しく鼻血を出さずにただはにかんだアリネスは「はい」と嬉しそうに言う。
ーーアリネスが色々とまとも!!!
もう一度鏡の前に立ちくるくると回ってみる。何度見ても職人さんが作った様な丁寧さだ。一見シンプルなストンとしたタイプのドレスだが、使っている生地が薄いので何枚か重ねているらしい。少しだけふんわりとしている。そしてシンプルになり過ぎない様にか左胸の所に少し大きめの花のモチーフ。腰の辺りに分厚過ぎないリボンが付いている。
ーーこっちの道でも十分食べて行けそうなんだけど
新たなアリネスの能力をひたすら感動し、私はもう一度鏡の前のドレスを眺めた。
後ろでいつも通りに鼻を抑える侍女に気づかずに……
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~
なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。
そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。
少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。
この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。
小説家になろう 日間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 週間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 月間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 四半期ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 年間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 総合日間 6位獲得!
小説家になろう 総合週間 7位獲得!

オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる