異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第二の世界

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「少し休憩なさいますか?」

アリネスの声で顔を上げ、んんーっと思い切り伸びをすると背中やら首からバキバキと可愛くない音が聞こえる


「そうね。丁度キリもいいし」


今日は例のお茶会へ向けて計画を立てている。席順や出すお茶会、お菓子の種類など決める事は多々あるが残念な事にその辺りの知識がさっぱりなのでかなりアリネスに頼っている。しかし全て任せる訳にもいかないので私にもできそうな所はやる様にしているのだ。



ーーこんなのを毎月やってる奥様方がいらっしゃるだなんてちょっと信じられないわね……


好きな人は好きなのでしょっちゅうお茶会やらダンスパーティーをやっているらしいが私には真似できなさそうだ


「あとどれくらい決める事はあるの?」


アリネスが淹れてくれたハーブティーを飲んでほっと一息つく。勿論アリネスも一緒にだ。


「そうですね。今日はかなり進みましたので、もう殆どないかと。後はこれを裏方の使用人達にも伝え、当日までに準備を整えていけばよいと思います」


「よかったー。なら大丈夫そうね」


「ええ。少し余裕を持って準備を終えられるかと」


優秀なアリネスのお陰でお茶会の準備はかなり順調だった。


「なのでレイチェル様。本日はこの後お好きにお過ごし頂いて結構ですよ。どこか行かれたい場所ややりたい事などございますか?」


アリネスに聞かれて1番に思いついたのはあの場所だった。


「そうなの?なら私護衛騎士のみんなと最後に見た祈りの花ランカを見に行きたいわ」

するとアリネスはこくりと頷き「かしこまりました」と言って少し席を外した。
きっと今日の護衛騎士達に伝えに行ってくれたのだろう。前に来た時は全員だったが、あの日以降は4人制だ。護衛騎士のみんなやアリネスは当たり前の様に毎日私に全員が付くと思っていたらしい。いくらなんでも働きすぎだ。
休みはどうするのかと聞けばどうしても必要になれば申し出るらしいが基本的に休みなんかいらないらしい。

それは絶対におかしい。そんな事をしていればいつかみんなが倒れてしまう。
なので無理矢理4人制にして残り2人はお休みだ。休日にしてゆっくりするなり、鍛錬場で鍛えるもよし。とにかく好きに過ごす様言ったのでそれぞれ順番に出勤して貰う事になっている。ちなみにヴォルフファミリーには事後報告した。
すると予想通り『ならば人数を増やそう』との旨が伝言で返ってきたので『今の方達ととても仲良くなったのでこの人達に守って貰いたい。余り人数が多くなると一人一人との関わり合いが薄くなってしまうのでこのメンバーでお願いしたい』と返事をした。

余りいい顔をしなかったらしいがまあ納得はしてくれたので無事4人制を取り入れられている。


ーーそもそも護衛騎士ってそんなに毎日くっついているものなのかしら


少し冷めてきたハーブティで喉を潤す


「見にいくのはいつぶりかしら?前に行ったのが散策の日だったから………」


「丁度一週間になりますね」


驚いて声のした方を見るとアリネスが戻っていた


「びっ……びっくりした。アリネス音もなく戻ってくるのは心臓に悪いわよ。もう終わったの?」


すると私の言葉を聞いたアリネスは突然立ち上がりこちらへ勢いよく近づいてくる


「へっ?」


訳もわからずただ真顔のアリネスを見ると彼女は「すぐに医者に診せなければ!とりあえずベッドでお休み下さい!」と言いながら私を寝室へと連れて行こうとする


「ちょ!ちょ!アリネス落ち着いて。どうして急に寝室へ行くの?」


するとハラハラとした様子のアリネスが発した言葉で私は暫く脳がフリーズした。


「その、レイチェル様はわたくしの行動のせいで心臓をお痛めになったのですよね?すぐにでも休めないと……」


ーーは………?


「待って待ってアリネス。例え、例えだからあれ」


「でしたらレイチェル様の心臓は無事でございますか……?」



逆にどうして先程の会話で本当に心臓にダメージを受けたと思うのか。もしかしてわざとありえない反応をして私を揶揄っているのだろうか。
そう思ってアリネスを見てみるが心の底から心配してくれてそうだった。


ーー揶揄ってるのかもなんて思っちゃってごめんねアリネス


心の中で謝りながらアリネスの肩に手を置く


「アリネス。聞いてね」


「はい」


「さっきのあれはびっくりしたわって意味の例えで私の心臓はあんなのでどうにかなるほどやわじゃないわ」


わざわざ言う必要も無かったかもしれないが、これから先もしアリネスが他の人の前で恥ずかしい思いをするのは可哀想なので上手く伝わるかは不安だったが一応伝えてみた。


ーー伝わったかしら?


するとアリネスはとても驚いた様子で目を見開いた


ーーやっぱり知らなかったのね……


「その。誰でも最初はわからないと思うの。だからアリネスは悪くないの。心配してくれてありがとう」


伝えてよかった。そう思いながらアリネスに微笑みかけるとアリネスは彼女の肩にかけられた私の手をそっと取り優しく握りしめた。


「レイチェル様………」


「なに?」



















「存じ上げております」



ーーん?



「何を?」


「先程のレイチェル様のお言葉が例えだと言うのは存じ上げております。」


「……え?」


「この一週間、レイチェル様はとても頑張って下さったのでお礼に少し笑わせて差し上げようと思い冗談を申し上げました」


「じょうだん……」


「はい。冗談です。あ、申し訳ありません。可愛いレイチェル様の反応を見たいという下心もありました。8割ほど」


































「あ、あ、あ、アリネスのバカあぁぁあ!!」



分かりにくすぎるアリネスの冗談にまんまと嵌められた私は叫ぶだけ叫んで寝室のベッドへとダイブし、恥ずかしさで真っ赤になりながらのたうち回った。

机の側には鼻血をぼたぼたと流しながら膝から崩れ落ちたアリネスが1人


「レイチェル様……万歳………」


と呟いていたが私の耳には届かなかった。


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