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第二の世界
ドストライク
しおりを挟む「先程は大変失礼いたしました………」
カラカラとティーセットを運んで来たアリネスが真っ青な顔で謝る
「いや、もうこちらこそごめんなさい。」
まさか抱き着くのがそんなに嫌がられるなんて思っていなかったからだいぶショックだが、きっと人前で白目を剥きながら立って気絶した彼女の方がショックだろう。本当に申し訳ない事をしてしまった。
気絶事件が起きた事によりかなり罪悪感が膨れ上がっている私は念の為に確認をする事にしてみた。
「それであの……お茶は本当にいいの?嫌じゃない?」
すると勢いよく首を振ったアリネスは「嫌だなんて!」と言った後にまたハッとなり「今回だけなので」と言ってまた準備に戻ってしまった。
ーー手伝い………はしたいけど余計な事はしない方がいいわね。割ったりすると怖いし
お茶の準備が整い、アリネスにも座って貰った。少し居心地が悪そうなアリネスは姿勢を正して私の言葉を待っている。
「えっと。まずは準備をしてくれてありがとう」
「いえ、仕事ですので」
キリッと真顔のアリネスが答える。
ーー何から話そうかしら
本当はアリネスの事を色々と聞いてみたいがきっと会って間もない他人から自分の事を色々と聞かれるのは不快だろう。
なのでまずは私の話を聞いてもらう事にした。とは言っても記憶がないので記憶が無い事、目が覚めてからヴォルフに連れてきて貰うまでの事しか話せなかったが。
話終わった後アリネスは
「そうですか。記憶を……」
といって少し辛そうな顔をした。
「でも全然辛いとかはないのよ。何というかそのー、知っている様な気がするのにはっきりと思い出せなくてもやもやする事は割とあるんだけど、覚えてないから悲しい、辛いっていうのはないから大丈夫」
すると少し微笑んだアリネスは「そうですか」と言った後一口紅茶を飲むと「お嫌でなければ、私の話も聞いて頂けますか?」
と言った。
「ええ、聞きたいわ」
そうしてアリネスは自分の事を聞かせてくれた。
元々アリネスは王城勤めではなかったらしい。ある有名な貴族の侍女として働いていたが少し問題があり、王城にいる王妃様に拾って頂いたのだと言う。
アリネスは小さい頃から表情を動かす事が苦手で、人と会話するのが余り上手くなかった。しかし彼女は1つ、大好きな事があった。それが『可愛い物や綺麗な物を愛でる』事。しかしその好みが偏っていたり、愛が異常に見えるという理由で周りからは気味悪がられ、両親にも「そんな似合わない物を集めて何になる」と言われ、次第に隠す様になったらしい。
ここへきてからは大好きな可愛い物集めも辞め、彼女はただ「王妃様に救って頂いた恩を返す」という気持ちだけでひたすら頑張っていた。そんな時第三王子が見知らぬ女性を城へ客人として連れ帰ったと言う。
第三王子の客人ならばもし出会った時に粗相をしてしまわぬ様顔を見ておかなければ。
そう思い陰から見た私の姿がもう好みドストライクだった。溜まりに溜まったフラストレーションも相まり、本来ならば別の侍女が付けられる予定だった所を侍女長に直訴。
自身の優秀さを熱烈にアピール。そしてほぼ気合いとごり押しで今のポジションを勝ち取ったらしい。
ーーお、おおおぅ。そんな事が。
私は「客人なんかに付けられて申し訳ないな」くらいで考えていた。
しかし今回の私付きの侍女決めは中々に倍率が高かったらしい。と言うのもこの国の王子達。3人いてそれぞれもう正妻を娶っても良い年齢にはなるのに全くその気がないらしく、3人でいつまでも遊んでいる。
勿論公務はこなすがなにせ兄弟仲が良すぎて他の女性達の入る隙がなく皆やきもきしているのだそうだ。
そしてこの国では生まれた順番は関係なく、純粋に国や民を動かす力がある者が次期国王となる為このタイミングでヴォルフに拾われてきた私は城中で次期王妃筆頭だと噂されているらしい。
ーー冗談じゃないんだけど
しかし私がどう思っていようが関係ないのが人の噂だ。今では噂が独り歩きをして『お2人はお互いを一目見て運命の人だとわかりその場で求婚、承諾した』という何ともぶっ飛んだ物になっているらしい。
ーーディ◯ニープリンセスか
もしこれが事実なら、そんな奴が次期国王になるのは物凄く心配になる。そして心の中でふと出てくる知らないワードにいちいち突っ込むのももう疲れたのでスルーする。考えない。
とにかく今はアリネスとこうしてお話できた事を喜ぼう。
後々わかった事だが私が抱き着いたあの時、彼女が白眼を向いて気を失った理由は「興奮が臨界点を突破しました」だそうだ。そしてこれも後々わかった事だが、私とお茶をしたその日の夜。私と一緒にテーブルへ着きお茶をした、その事実を思い出しながら眠った所次の日の朝アリネスの枕は鼻血でべっとりと濡れていたそうだ。
正直もう私といると彼女の生命の危機を感じるが、可愛い物好きを隠さなくてもいいと私が言ってからは一分一秒が楽しいらしく幸せなので絶対に私付き侍女の席は譲らないらしい。
私に変態の友人が増えた。
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