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第一の世界
敷地内
しおりを挟むナルザルクが、死んだ。
ラクナザスも、死んだ。
私を助けたから。私に関わったから。
それでも私は進まなければいけない。ここで泣き喚いて足を止める事は彼等と最後に交わした約束を破る事になる。
そんな事は許されない。私は何が何でも逃げ切ってみせる。
強く奥歯を噛み締めて誓う。
彼等との約束を守る、と。
「誘導、されたわね」
パールの言葉に顔を上げる。
「誘導?」
疲れた表情のサルティナが問いかける。
「ええ。まあわかっていてもそうするしか無かったから来たのだけど」
分岐点から暗殺者がでてきたのは左側の通路。つまり学園の外へと繋がる方からだけ。理事長室へと繋がる通路からは1人も出て来ず、しかも多少の牽制はしたと言ってもこの通路へと入ってからは追っ手が来ていない。
「きっと、理事長室で待ち伏せされているんでしょうね」
私の言葉にパールもサルティナも頷く。
しかし進まない訳にはいかない。
暫く歩いていたがふとパールが立ち止まり、壁に耳を当てて何かを確認し出した。そして「少し休憩にしましょう」と優しく微笑みながら言った。
「でも……」
ーー休んでいる暇は
そう言いかけて止まった。確かに、私達はかなり疲労が溜まっている。体力も気力も底をつき、正直これ以上動くのはかなり難しい。そしてサルティナも同じだろう。
私はパールの言葉に頷き床に腰を下ろした。するとサルティナも隣に崩れこむ様に座り込む。
「少しだけでも入れておいて」
そう言ってパールが取り出したのは携帯食。はっきり言って全く食べる気になれないが何か口にしておかないとこれ以上動けない。
そして私達は携帯食を1つずつ食べ、1つの水を半分こして飲んだ。
「2人とも1時間ほど寝て」
唐突に発されたパールの提案に思わず唖然とする。
「なっ……!流石にこんな状況で」
するとパールは首を振り「こんな状態だからよ」と言った。
「レイチェルもサルティナも。貴女達酷い顔色よ。肌は窶れて目は死人の様だもの。そんな状態じゃ逃げられる物も逃げられなくなる」
「うっ……」
それを言われるともう従うしか無くなってしまう。
「見張りは大丈夫よ。私がしっかりとやっておくから」
パールの言葉を聞いて私達は渋々目を閉じた。
「おやすみ、2人とも」
頭に優しく置かれたパールの手と掛けられた声をどこか遠くに感じながら私達は眠りについた。
話し声が聞こえて目が覚めた。
「おはようレイチェル」
目の前には先程と変わらないパール。そして少しすっきりとした顔のサルティナ。
「おはよう。サルティナはもう起きていたのね」
「ええ。私も今起きた所」
思った以上に疲れていたらしく、私達はあの後直ぐに眠ったとパールが言っていた。
軽く水分補給をして立ち上がる。
「さて、じゃあ出発しましょうか」
パールの言葉に頷き私達はまた歩き出す。
暫く歩いていると、急に空気が変わった様な気がした。
「気のせい?」
「どうしたのレイチェル」
私の呟きに直ぐ様パールが反応する
「気のせいかもしれないんだけど、何だか急に空気が変わった気がしたの」
「確かに、言われてみればそんな気がするわね」
サルティナも辺りを見渡す
「ああ、それはきっとここから学園の敷地内に入ったからよ」
『学園』その言葉を聞いて私とサルティナにピリッとした空気が流れる。
ーーせっかく、2人が命がけで街まで連れて行ってくれたのに……!!
ナルザルクとラクナザスの事を思うと怒りで手が震える。すると隣を歩いているサルティナにぎゅっと手を握られた。
私よりも背の高い彼女を見上げると、前をしっかりと見据えたまま「絶対に逃げ切りましょう」と言った。
「うん」
私も前を見つめながら、握られた手に力を込めて返事をする。咄嗟に手が使えないと危険なのですぐに手は離したが何故か見えない力の様な物を貰った気がする。
ーーありがとう
心の中で呟き、少しずつ近付いているであろう理事長室では誰1人欠ける事なく乗り切れる様祈った。
「少し傾斜が出て来ると思う」
相変わらずの薄暗い一本道でパールが小さく話し出す
「ここも隠し通路の内の1つなんだけど、何故かここの通路は一本道なのよ。逃げ道として準備するならいくつも道はあった方がいいはずなのに不思議だわ」
確かにそうだ。
元の世界でも身分の高い貴族や王族等の住居には彼等しか知り得ない秘密の脱出路があり、その通路もいくつにも分岐していたりするイメージがある。
しかし理事長室から洗礼の泉までの隠し通路はこれまで歩いた一本道。
先程暗殺者達が現れた所が唯一の分岐点だったがそこだけだ。少な過ぎる気がする。
まあこの通路以外にも理事長室から別の場所に出る隠し通路はきっといくつかあるのだろうから、もしかしたらそんなに深い意味はないのかもしれないけれど。
ーーでもこの道に逃げ込んでしまったら追いかけられたらすぐに捕まるわよね
そんな事を考えていると、本当に傾斜が出てきた。あとどれくらいだろうか。敵は何人いるのだろう。気付けば震えていた手を2人に気づかれない様必死に握りしめた。
「部屋に着いたらほぼ間違いなく敵がいるわ。だから2人は絶対に無理をせずになるべく戦闘は避けて」
足手まといにしかならない自覚はあるのでそうするつもりだ。私に出来る事はただ、相手に捕まらない事。それだけだ。
そして戦闘が得意でないサルティナも、私を守るために槍は出しておくといいが隠れている様言い含められていた。
私達が大人しく頷くとパールも頷き、また歩き出したがすぐに目的地へと到着した。
「このドアの向こうよ」
パールの言葉に私とサルティナはごくりと喉を鳴らした。
ーー絶対に、逃げ切ってやる
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