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第一の世界
歌声と涙
しおりを挟む流れでレイチェルが歌ってくれる事になった。少し強引に歌わせる事になった気がするがどうしても聞きたかったので許してもらおう。
ラクナザス様はどうやら聴いたことがあるらしいがナルザルクは私と同じで初めてらしい。
というか本当にあの『生徒会室のナルザルク様』なのだろうか。
噂曰く「髪や瞳は色彩が濃く残念だが成績は優秀、人当たりもよく紳士的」らしいあのナルザルク様?レイチェルの召集を拒否してくれた時は確かに噂通りのイメージだったが先程から話している彼はどう見ても別人だ。
しかし前にちらりと学園で見かけた彼は『ザ・無難』と言う感じで特に何も思わなかったが、今目の前で笑いながら話す彼ならば良い友人になれそうな気がする。
何よりレイチェルも彼には気を許している気がする。
ふとレイチェルを見ると目を瞑ってゆっくりと数回深呼吸をしている
ーーどうしてかしら。本当に似ていると思うのに、今では全然違って見えるから不思議ね
明らかに緊張している雰囲気のレイチェルが可愛くて思わず笑ってしまう。私は例えレイチェルが酷い音痴であっても、きっと笑わない………のは約束できないがその歌をきっと何度でも聴きたいと思ってしまうのだろう。
私の知っているどんな曲よりも、素晴らしい歌に聴こえると断言できる。
ーー出会ってそんなに長く経った訳じゃないのに、どうしてこんなにこの子が大切なのかしら。不思議ね
そう思っているとついにレイチェルが決心したらしい。目を瞑ったまま彼女がゆっくりとその口を開くと、聴いたことのない旋律が耳に心地よく流れてきた
「きらきら………」
彼女の少し高い声が心地よく部屋に溶け込む様に広がっていく。思わず私も目を瞑りその歌声に耳を傾ける。
ふと、瞼が明るくなった様な気がして目を開けると目の前のレイチェルの髪が風もないのにふわりと舞い上がり、そして彼女自身も仄かに発光していた
「!」
驚いて立ち上がり咄嗟に手を伸ばすと見えない壁の様な物に阻まれた
「レイチェル!」
呼び掛けてみたが反応は無くゆっくりと歌い続けている。レイチェルの向こう側にはラクナザスが私と同じ様に壁に阻まれながらレイチェルに呼び掛けている。ナルザルクは驚いた表情をしているが必死に壁に切れ目がないかを探している。
一先ず2人の所へ移動できるか動いてみたが普通に動けた。どうやらレイチェルをぐるりと囲う様に見えない壁はできているらしい。
「ラクナザス様これは……」
私の問いかけにラクナザス様はこくりと頷いた
「パールが動き出した時と同じだ。あの時もレイチェルは光り、そして見えない壁に包まれていた」
「とりあえずどこかに切れ目がないか見てみたが無さそうだ。この光がどこまで漏れているか分からないが今過激派に攻められるのは不味い。とりあえずレイチェルが元に戻るまで各自戦闘準備はしておいた方が良さそうだな」
ナルザルクの言葉に私達は頷き槍を出した。レイチェルを見ると閉じていた目をゆっくりと開いたかと思えばどこか虚ろな表情で何も無い場所を見つめ出した。
「レイチェル………?」
きっと聞こえないだろうとはわかっていたが問いかけると、ゆっくりと彼女はこちらを見た。そしてその綺麗な瞳から一筋涙を流し、小さく「ごめんなさい」と呟いた。
「レイチェル?」
呟きの意味がわからず聞き返すと、ふっと全ての力が抜けた様にレイチェルは崩れ落ちた。咄嗟に手を出したがレイチェルの身体は素早くラクナザスによって抱き抱えられていた。
ーー前から思っていたけど、ラクナザス様はレイチェルの事をどう思っているのかしら
ふとそんな事が頭に過ぎる
ガチャ
部屋の扉が開く音に反応して槍を構えるとそこには大きな荷物を抱え真っ青な顔をした知らない青年が立っていた。
ーー過激派の者がもう来たの?!
素早くレイチェルとレイチェルを抱えるラクナザス様の前に出る。すると青年は荷物を放り出し素早くこちらへ向かってくる。
「止まれ!」
そう言いながら私とナルザルクが槍を突き出すのも気に留めずに青年は手を伸ばしながら「レイチェル」と呟いた。そしてその瞳には涙が浮かんでいた。
思わず怯んでしまったがレイチェルに近付ける訳には行かない。仕方がないが攻撃を……
そう思った瞬間後ろから声が聞こえた
「大丈夫だ2人とも!あれはパールだ。攻撃するな!」
ーーあれがパール?
いつもの真珠特有の光沢のある姿でも、髪の短い女性の姿でも、レイチェルの姿でもない。というか体格が違い過ぎる。
確かに先程ナルザルクに化けていたから体格が違っても姿を変える事は出来るのだろうがどうしてこのタイミングで姿を変えてきたのだろうか。
不思議に思っているとパールは私とナルザルクを素通りし、真っ直ぐにレイチェルへ向かいナルザルクからレイチェルを受け取ると強く抱きしめて泣き出した。
男性がはらはらと涙を流す姿に思わず驚いてしまったが、パールは私達が見ているのを気にも止めずに何かを呟いている。
よく聞こえないので少し近づいてみると
「ごめん、ごめん。負担になると思ったんだ。こんな事になると思わなかったんだ」
としきりに呟いていた。そして「守ってあげられなくてごめん」とも。
どういう事だろうか。守ってあげられなくて、という事は過激派がもうそこまで来ているのだろうか。もしそうなのであればすぐにでもここを出なければ。
そう思ったのは私だけでは無かった様で、後の2人も少し焦った表情をしていた。
「おい、しっかりしろパール!」
未だに「ごめん、ごめん」と繰り返すパールの肩を掴み呼び掛けたのはラクナザスだった。
「……?」
するとパールはゆっくりとラクナザスを見て言った。
「君は誰だ?」
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