異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第一の世界

別ルート

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さてどうするか。
せっかく見つけたと思った秘密基地がどうやらナルザルクも知っていたらしい。
というか私が見つけた時に見られてたらしい。


ーー1人で、って言われたけど。前のディードレーヤの事を考えたらやめておいた方がいいわよね



結局あの図書館の後サルティナやリリアンナと一緒に講義を受けたが全然頭に入らなかった。


ーー次から次へと………


思い出したら現実逃避で眠たくなってきた


「レイチェル。夕飯ができましたが食べられそうですか?」

部屋でうんうん考えているとドアからひょっこりパールが顔を出していた。

「ありがとうパール。食べる。あとラクナザスに連絡を取ってもらえる?後でいいから」

「わかりました」

パールがリビングに向かったのを見送ってため息をつく

「のんびり暮らしたいだけなんだけど」




夕食が終わった後ラクナザスと通信をして今日あったことをざっくりと話したら盛大なため息が聞こえてきた

「ラクナザス?ごめんなさい。怒ってる?」

今までラクナザスにはここまで落胆した態度を取られた事がない。よっぽどやらかしてしまったのだろうか

「いや、違うよ。大丈夫。レイチェルは悪くないんだ」

そう話すラクナザスの声はやはり少し疲れていそうだった

「とりあえず明日のその『秘密基地』とやらには私も行こう」

と言ってその日の通信は切った。

「私も行きましょうか?」

パールが心配そうに聞いてくれるが「大丈夫」と笑って断った。元々1人でと言われているのにラクナザスを連れていくのだ。さすがに2人は何だか悪い気がする。


ーーもしナルザルク様が本当にラクナザスの友達でいい人だったら何かお詫びになる様なものが必要よね


丁度おやつ用のクッキーが切れていた所だ。明日の秘密基地には何かお菓子と紅茶でも持って行こう


そう思ってパールとチョコチップクッキー、ストロベリーチーズタルトを作った。飲み物は明日の朝でいいか。
この学園の時間割的には

9:00~10:30 1限

10:30~11:00 休憩

11:00~12:30 2限

12:30~14:30 昼休憩

14:30~16:00 3限


という具合だ。
しかも3日行って4日休むなんともやる気の感じられない学校だがこの世界ではこんな物らしい。在学率が高く、外に仕事を持つ人も多くいるこの学園ではずっと学校に拘束する訳にもいかない。なのでこの時間内で自分の興味のある物を受講したりはするがとりたくなければ取らなくても特に罰則なども無い。


ーーつくづくここが元の世界とは違う場所なのだと実感する瞬間ね


寝支度をして布団に入りながら考える

「とにかく明日は余計な事を喋らずにできるだけボロを出さないようにしないと」

そう決意して目を閉じた















朝。とりあえず普通に学校に行って授業を受けた。どうすればボロを出さずにいられるか。とりあえず曖昧にニコニコしておけば乗り越えられるか?等をダラダラと考えていたらあっという間に放課後になってしまった。

手元には昼食の時に持ってきたクッキー達。
夕飯に響くといけないのでタルトは持って帰って貰える様にパールが包んでくれた。ラクナザスとナルザルクの分で2人分。
とりあえず人目につかなさそうな所でラクナザスと待ち合わせをしてから秘密基地に向かう事になっている。


「ああレイチェル。ごめんね、待ったかい?」

ラクナザスが急いだ様子で来てくれた。

「大丈夫。私も来た所よ。じゃあ行きましょうか」

秘密基地に着くまでに作戦会議をする

「じゃあレイチェル。大まかな事は私に任せてくれたらいいから」

とりあえずラクナザスが色々と話してくれる事になったので私は無難にニコニコしておく事になった

「あ、念の為に確認したいんだけど」

「ん?」

「ラクナザスとナルザルク様はちゃんとお友達なのよね?」


そう聞くとラクナザスは笑い出し「そうだね。ちゃんと友達だと私は思っているよ」と言っていた。ならきっと変な人ではあっても悪い人ではないのだろう


「確かここを曲がって奥に進んでいって………」


私が案内するのに前を歩いていると後ろから「へぇ、こんな奥の方までは来たことがなかったな。よく見つけたね」と言う声が聞こえてきた。

「そうなの!こう、こっちに素敵な場所がありそう!って言う直感がね!」

そう言うとラクナザスは「直感なんだね」とクスクス笑っていた。直感は大事だと思う。
そうこうしているうちに例の植木部分に来た。

「それでね、ここをこう潜っていくの」

「!!!!ちょ、ちょっとレイチェル!」

ハイハイスタイルになって進もうと思った瞬間、少し焦った声のラクナザスに腕を掴んで立たされてしまった

「え、なに?この先なんだけど」

「まさかと思うけど、さっきみたいなポーズで入っていかないといけないのかな?」

ちょっと眉毛が下がって情けない顔のラクナザスが聞いてくるが仕方ないじゃないか。
でも確かに貴族のラクナザスは地べたにハイハイする事なんて抵抗しか感じないかもしれない

「でも他に入り口はないし……」

そう呟くと何かを少し考えていたラクナザスがため息混じりに「わかった」と言い出した


「じゃあ、私は後ろを向いて待っているからレイチェルは先に行ってくれる?後から私も行くよ」


ーーおお、ハイハイを決心してくれたみたい


「わかった。じゃあお先に」

ラクナザスが後ろを見張りだしたのを横目に見ながら穴を進んでいった。

ーーやっぱりわくわくする!!


ハイハイで進むと秘密基地に着いた。この『誰も知らない特別感』が何とも言えない。
……がっつりあと2人増えるけど

「………レイチェル、そこ少しずれて貰ってもいい?」


しまった。ずっと入り口に突っ立っていたら後ろのラクナザスがつっかえてしまった


「あ、ごめん。わかった」

横にずれるとラクナザスが出てきて立ち上がり、秘密基地を一目見て「こんな場所があったんだね」と楽しそうに目を細めた


「でしょう!わくわくするわよね!」


そう言うとラクナザスは「そうだね」と言いながら私の頭をポンポンと優しく叩いた

ーーはしゃぎすぎたかしら?



「随分とその子を気にかけているんだね」


突然声が降ってきた。慌てて上を向くとザッと言う音と共に見事な着地を決めたナルザルクが降ってきた。

「う、上から飛び降りたの……?」

思わず口に出してしまった。確かに枝は1つ1つしっかりしていそうだし登りやすそうな木ではあるけれど、降りてくるならせめて枝を伝ってきて欲しい。上から降ってきて着地失敗すると捻挫どころか下手をすれば骨だって折れる高さだ

「また会ったねレイチェル嬢。でも護衛付きだなんて信用されてないねぇ」

楽しそうにラクナザスを見ながらナルザルクがこちらへ近づいて来る。
どうすればいいかなと思いラクナザスの方を見上げてみると呆れた顔をしていた。

「どうせ私が来る事も想定していたんだろう?さっさと要件を話せ」

「要件?伝えた通りだよ。レイチェル嬢と仲良くなりたいんだ」

呆れた様子のラクナザスに飄々としているナルザルク。本当に友達なのだろうか

「あっ」

「どうしたのレイチェル」

「私余り多くはないけどお菓子を持ってきたのよ。せっかくだから食べない?」

「ああ、だから荷物が多かったんだね」

本当は待ち合わせで合流した時にラクナザスが荷物を持ってくれようとしたのだが、流石に今日の荷物は重たいので遠慮しておいたのだ

「レイチェル嬢は食べ物を持ってきてくれたの?」

わくわくした様子でナルザルクが私の鞄を覗き込んできた

「ええ。下に敷くものもあるから少し座りませんか?」

そうして芝生の上に布を広げていく。本当はブルーシートの様なものがあれば軽くて便利だけど、この世界には無いようだった。流石に布は重たかった

「こっちを引っ張ればいいのかな?」

「おいラクナザス、余りそっちを引っ張るとこっちに皺が入るだろ」

1人でやろうと思っていたのに普通に2人が手伝ってくれたのでスムーズに準備ができた。


「あの、お口に合うかはわからないのですが」

そう言って持ってきたクッキーと甘くないミルクティーを並べるとラクナザスがハッとした顔になった

「まってレイチェルこれもしかして……」

「ありがとう。いただきます」

ラクナザスが何かを言い切る前にナルザルクがクッキーを頬張る。するとすぐにナルザルクが目を見開き、手元のクッキーをまじまじと見始めた


ーーえ?美味しくなかったかな?結構美味しくできたと思ったんだけど……

「レイチェル………」

呼ばれた方を見るとラクナザスが片手で顔を覆いながら肩を落としていた

ーーまだ何も話してないのに何かまずかったのかな?目上の人にはお菓子渡しちゃいけないとかあるのかな

「ラクナザス?」

どんどん不安になってきてラクナザスを覗き込もうとした時

「レイチェル!!」


突然隣から衝撃が伝わり驚いて見上げるとナルザルクに抱きしめられていた

「!!!」

「!!!」

私とラクナザスが驚いていると今度は激しく頭をワシワシ犬のように撫でられた


「?!」


「俺こんなうまいもん食ったの初めてだよ!まじでうまいなこれ!どこで買ってきたんだ?」


もう訳が分からなくなってきた。ナルザルクの態度も口調も別人の様に変わってしまったし、クッキーをどうやら喜んでくれているのはいいが結構苦しい。
あとそろそろ髪がぐしゃぐしゃになるからやめて欲しい


「ナルザルク!」

ラクナザスがナルザルクの腕を掴み奇行を止めてくれた

「何をしている。話をするんじゃないのか」

「ははは、って言っても特にこれを話そうってのはないんだよ。適当に喋ろうと思ってはいたけどな」


ーーまじか。


とりあえず解放して貰った後にどうしてこんな奇行に走ったか聞いてみた所、今までに食べた事のない美味しいお菓子に興奮したそうだ。お気に召された様で何より。


「で、これどこで売ってたんだ?」

次のクッキーに手を伸ばしつつナルザルクが聞いてきたから「これは私が」まで言って思い出した


ーー私のクッキー他の人にあげたらいけないんだった!!!!!


咄嗟にラクナザスを見ると少し引き攣った笑顔でこちらを見ている。申し訳ないが利用させて頂こう


「ラクナザスにお願いして用意して貰いました」

にっこり微笑みながら答えるとナルザルクはニヤニヤしながら「へえ」と言いながらクッキーを口へ放り込んだ


ーー誤魔化せたかしら


ふふふと曖昧に笑っておいたが背中に変な汗が流れる
















結果的に言うとバレた。というかもう最初の方から割とバレていたらしい。そして芋づる式にどんどんばれた。
結局もうここまできたら巻き込まれて貰おうと言う事で本人も望んだので全て話し、ラクナザス・パール・ゼルウィンドに続いて4人目の情報共有者になった。

クッキーの事を知っている事を考えればゼルウィンドよりも知っている情報が多いくらいだ。

疲れた顔のラクナザスが言うには『変人だが信用はできる』人らしい。ちなみに雑な方の話し方が素で、丁寧に話している時は他の生徒と余計なトラブルを起こさない様猫をかぶっているらしい。この世界も身分差が面倒臭そうだ。

とりあえず今日はお開きにするのでお土産を2人に渡してまた穴に向かおうとするとナルザルクが声をかけてきた

「あのさ。前も思ったんだけど」

「?」

「あっちに入り口あるぞ」

「!!!」

驚いた私を見てナルザルクは大爆笑しながら転げ回っているし、ラクナザスは何とも言えない微妙な表情をしていた。


「そういう事は図書室の時点で教えてよ……」

私の呟きはナルザルクの笑い声に掻き消されて消えていった
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