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メモリーズ オブ マイライフ
思い出の光景
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「でやぁっ!」
魔人の首をあっさりとぶった斬った藤堂は、踵を返すように空間魔法をすぐに閉じてこちらに向かってきた。
「藤堂……これで何度目だ?」
藤堂も疲れきったような目で俺の問に答えた。
「もう数えてません……」
そりゃあそうだな、ここまで魔人が襲ってきたらカウントする気も起きない。それは藤堂も俺も同じだ。
剣道部での騒動から1週間経った。西田が、剣道部に入ったおかげでとりあえず廃部は免れたらしい、という報告も入れておこう。
あれから俺たちは何度も何度も魔人に遭遇し、その度に藤堂が斬り殺していたのだ。藤堂曰く会う度にその強さを増しており、このまま続けば複数体出てくる可能性も十二分にありえるらしい。
「原因はあなたですよ、マスターさん」
俺はその言葉に驚くことは無かった。むしろやはりと言いたかったくらいだ。
「MMMがいないから、だろ? 多分だけどな」
藤堂は静かに頷いた。
「1年間でマスターさんとMMMが築き上げてきた絆は頑丈で強固なものとなりました。しかし、頑丈になればなるほど、心は繊細なものになっていったのでしょうか。今でもマスターさんはプラスエネルギーよりもマイナスエネルギーの割合の方が高いですよ。圧倒的ではありませんけど」
俺は返事に困った。こういった場合、どんな反応をしたらいいのか俺は知らないのだ。
「そこでマスターさんに1つ、敢えて提案します」
藤堂は、胸のあたりで人差し指を立てた。
「週末、私とデートしませんか?」
は?
「交際しようって話じゃありません。マスターさんのプラスエネルギーを増やそうって作戦です」
「それが急務らしいからな。でもなんで俺とデートって話になるんだよ」
藤堂はクスッと笑った。
「簡単な話です。マスターさんがやりたいことをデートプランとして組んでおいてください。やりたいことをしたら、少しくらいはプラスエネルギーが出てくると思いますから」
藤堂は楽しそうに部屋へ戻っていった。
「あ、そうだ。週末までにプランをまとめてくださいね。分かっているとは思いますが、セクハラ的な行為は厳禁ですよ」
誰がやるか、そんなもん西田じゃあるまいし。
「デートって言われてもなぁ」
いつの間にか溜め息と独り言が漏れていた。
俺は、藤堂はもちろん、MMMすら恋愛対象として見たことがない。アイツらに恋愛感情を抱いているのかさえ分からないのだ。
女友達と週末に遊ぶってことだと自身に言い聞かせ、俺は散歩しながらデートプランとやらを考えることにした。
冬の寒さはすっかり消えていた。むしろ地球温暖化とそれを引き起こした人類に対して、火炎瓶を投げつけたくなるような生暖かい風が吹いていた。夏がブーツでも履きながら、耳障りな足音を忍ばせているようだ。ゴールデンウィークも過ぎると桜なんてのは一輪も見えない。生い茂った葉にキモい虫がくっついている。陽の光が葉を照らし、虫の影を露わにしていた。
俺は虫の影に吐き気を催しながら図書館へ向かった。図書館なら落ち着いて考え事をするのに最適だと思いついたからだ。
図書館の入口に入る前、俺は藤堂西田電話をすることにした。確認したいことが幾つかあり、さっさとそれを消化したいという怠け者特有の行動だ。
「もしもし、藤堂か?」
1回目のコールが鳴り終わる前に、受話器を取る音がして、藤堂の穏やかな声が聴こえてきた。
『マスターさん、どうかしましたか?』
「デートプランの話なんだけどさ、金に制限はつけなくていいのか?」
耳の向こうから吹き出すような笑い声が聞こえた。
『お金については気にしないでください。全て私のおごりですから、思う存分やりたいことを考えてください』
「……了解。あ、それと、もう1ついいか?」
『なんでしょう?』
「デートプランとは関係ないんだけどさ、もしかしてお前が関わってるんじゃねえかと思ってよ……」
俺はゴールデンウィーク最終日以来、何度も見る悪夢の話を、藤堂にしてみた。
『MMMの皆さんが殺される悪夢……ですか』
「あぁ、どうせお前らのお仲間が関わってるんじゃないかって思ったからきいてみた」
一瞬躊躇うような間があったが、返事はすぐに返ってきた。
『マスターさん、今まで私が戦ってきた魔人達って、どれほど強いか、考えたことはありますか?』
「さぁ? だいたい中華鍋くらいじゃないのか?」
『いいえ、違います。工藤さんと白鳥さんが、初めて来た時に現れた魔人を、覚えていますか? アレとおおよそ同じくらいです』
俺はその日のことを思い出した。望月達を連れて帰ろうとする工藤達生徒会コンビに、俺が激昴した時のことだ。
あの時現れた、巨大な魔人と同じ強さだとしたら……強すぎるだろ。
『簡単な話です。夢に出てきた魔人と前任の皆さんが戦っても勝てないという、天界からのメッセージです。三好さんの時は、マスターさんがプラスエネルギーを出してたから、ギリギリ戦えてただけで。だから、私が派遣されたんです』
俺は適当に話を区切って電話を切ると、図書館へ入った。そして俺は考えた。このデートには裏があると、藤堂なりの考えがあるのだと。
そんなに待ってもいない土曜がやってきた。
デートプランは適当に考えているので、本当に俺がやりたいことなのかは保証しかねる。俺はそれより、藤堂がこのデートで何を考えているのか、ずっと気になっていた。
「さてマスターさん、最初は何をするんですか?」
藤堂の茶目っ気ある笑顔の手を引き、まずは映画館へ行った。
見たかった映画は、男友達と見るべきであろうアクションものだったが、藤堂は人生初の映画を存分に楽しんだようだった。
「そこ、そこを斬るんですよ! 今の隙は逃しちゃいけませんって~、あっ! 左に避けたら唐竹で……」
アクションにケチを付けるのは構わんが、もうちょっと静かにして欲しいものである。
その後、俺たちは急ぎ足で、西田家が経営する遊園地へ行った。西田のコネを使って優遇してもらうのもいいが、西田に詮索されると殺意が溢れてしまうのでやめておいた。
流石にネズミと比べりゃ大したことはないが、日本有数の遊園地とあって大盛況していた。
藤堂は、戦闘面以外では普通の女子だということが改めて分かった。お化け屋敷では、あまりの怖さに刀を構えようとしていたし、フリーフォール終了後は、暫く意気消沈していたのだ。
「マスターさん、ジェットコースターっていうのは話に聞くほど大したことありませんでしたね」
初ジェットコースター後の藤堂は、生き生きとした顔で感想を述べていた。
「あれくらいであれば、動きを先読みすることくらい難なくできるし、動きがわかれば、怖さはグッと減ります」
それが出来ねぇから怖いんだよ。戦闘狂は、見切りってやつを反射的にしてしまうらしい。
「お化け屋敷だって……周囲の警戒を怠らなければ出現を予見できます。今度こそ退治して……」
「頼むからやめてくれ」
こんなとこで殺人事件なんて起きたら、お遊びじゃなくて本物のお化け屋敷になっちまう。
閉園時間ギリギリまで、俺は藤堂と遊園地を満喫していた。
日もすっかり暮れた夜、俺たちはゆっくりと家へ向かった。
「マスターさん、ありがとうございます」
「礼なんてやめてくれよ。全部藤堂が金払ってくれたんだし」
急に俺の目を逸らして俯いた藤堂は、時々上ずった声で吐き出すように言った。
「……いいんです、これくらいのこと……」
それ以来、藤堂は俺がいくら話しかけても首を振ったりするだけで、口を開くことは無かった。
家の前に着くと、俺は急にどっと疲れた。今日ほど動いた日は久しぶりだ。
玄関に手をかけた瞬間、俺はただならぬ安心感と懐かしさを覚えた。ノスタルジーに浸った気がした。
気にはなったが構わず玄関を開ける。
まず最初に、スナック菓子の臭いが嗅覚を刺激した。
賑やかな、懐かしい声がリビングから響いている。元気いっぱいで、無表情で、しっかりしていて、キツく偉そうで、オドオドしている。5つの声が、聴覚をノスタルジックな気分にさせた。
薄く照らされた、小綺麗廊下とは様子が違っていた。
俺は呆然と立ち尽くしていた。何が何だかわからなかった。頭の整理が追いついていなかった。
不意に、リビングの扉が勢いよく開け放たれた。
「マスター! おかえりぃーっ!」
5人の見覚えある少女たちが飛び出してきた。
魔人の首をあっさりとぶった斬った藤堂は、踵を返すように空間魔法をすぐに閉じてこちらに向かってきた。
「藤堂……これで何度目だ?」
藤堂も疲れきったような目で俺の問に答えた。
「もう数えてません……」
そりゃあそうだな、ここまで魔人が襲ってきたらカウントする気も起きない。それは藤堂も俺も同じだ。
剣道部での騒動から1週間経った。西田が、剣道部に入ったおかげでとりあえず廃部は免れたらしい、という報告も入れておこう。
あれから俺たちは何度も何度も魔人に遭遇し、その度に藤堂が斬り殺していたのだ。藤堂曰く会う度にその強さを増しており、このまま続けば複数体出てくる可能性も十二分にありえるらしい。
「原因はあなたですよ、マスターさん」
俺はその言葉に驚くことは無かった。むしろやはりと言いたかったくらいだ。
「MMMがいないから、だろ? 多分だけどな」
藤堂は静かに頷いた。
「1年間でマスターさんとMMMが築き上げてきた絆は頑丈で強固なものとなりました。しかし、頑丈になればなるほど、心は繊細なものになっていったのでしょうか。今でもマスターさんはプラスエネルギーよりもマイナスエネルギーの割合の方が高いですよ。圧倒的ではありませんけど」
俺は返事に困った。こういった場合、どんな反応をしたらいいのか俺は知らないのだ。
「そこでマスターさんに1つ、敢えて提案します」
藤堂は、胸のあたりで人差し指を立てた。
「週末、私とデートしませんか?」
は?
「交際しようって話じゃありません。マスターさんのプラスエネルギーを増やそうって作戦です」
「それが急務らしいからな。でもなんで俺とデートって話になるんだよ」
藤堂はクスッと笑った。
「簡単な話です。マスターさんがやりたいことをデートプランとして組んでおいてください。やりたいことをしたら、少しくらいはプラスエネルギーが出てくると思いますから」
藤堂は楽しそうに部屋へ戻っていった。
「あ、そうだ。週末までにプランをまとめてくださいね。分かっているとは思いますが、セクハラ的な行為は厳禁ですよ」
誰がやるか、そんなもん西田じゃあるまいし。
「デートって言われてもなぁ」
いつの間にか溜め息と独り言が漏れていた。
俺は、藤堂はもちろん、MMMすら恋愛対象として見たことがない。アイツらに恋愛感情を抱いているのかさえ分からないのだ。
女友達と週末に遊ぶってことだと自身に言い聞かせ、俺は散歩しながらデートプランとやらを考えることにした。
冬の寒さはすっかり消えていた。むしろ地球温暖化とそれを引き起こした人類に対して、火炎瓶を投げつけたくなるような生暖かい風が吹いていた。夏がブーツでも履きながら、耳障りな足音を忍ばせているようだ。ゴールデンウィークも過ぎると桜なんてのは一輪も見えない。生い茂った葉にキモい虫がくっついている。陽の光が葉を照らし、虫の影を露わにしていた。
俺は虫の影に吐き気を催しながら図書館へ向かった。図書館なら落ち着いて考え事をするのに最適だと思いついたからだ。
図書館の入口に入る前、俺は藤堂西田電話をすることにした。確認したいことが幾つかあり、さっさとそれを消化したいという怠け者特有の行動だ。
「もしもし、藤堂か?」
1回目のコールが鳴り終わる前に、受話器を取る音がして、藤堂の穏やかな声が聴こえてきた。
『マスターさん、どうかしましたか?』
「デートプランの話なんだけどさ、金に制限はつけなくていいのか?」
耳の向こうから吹き出すような笑い声が聞こえた。
『お金については気にしないでください。全て私のおごりですから、思う存分やりたいことを考えてください』
「……了解。あ、それと、もう1ついいか?」
『なんでしょう?』
「デートプランとは関係ないんだけどさ、もしかしてお前が関わってるんじゃねえかと思ってよ……」
俺はゴールデンウィーク最終日以来、何度も見る悪夢の話を、藤堂にしてみた。
『MMMの皆さんが殺される悪夢……ですか』
「あぁ、どうせお前らのお仲間が関わってるんじゃないかって思ったからきいてみた」
一瞬躊躇うような間があったが、返事はすぐに返ってきた。
『マスターさん、今まで私が戦ってきた魔人達って、どれほど強いか、考えたことはありますか?』
「さぁ? だいたい中華鍋くらいじゃないのか?」
『いいえ、違います。工藤さんと白鳥さんが、初めて来た時に現れた魔人を、覚えていますか? アレとおおよそ同じくらいです』
俺はその日のことを思い出した。望月達を連れて帰ろうとする工藤達生徒会コンビに、俺が激昴した時のことだ。
あの時現れた、巨大な魔人と同じ強さだとしたら……強すぎるだろ。
『簡単な話です。夢に出てきた魔人と前任の皆さんが戦っても勝てないという、天界からのメッセージです。三好さんの時は、マスターさんがプラスエネルギーを出してたから、ギリギリ戦えてただけで。だから、私が派遣されたんです』
俺は適当に話を区切って電話を切ると、図書館へ入った。そして俺は考えた。このデートには裏があると、藤堂なりの考えがあるのだと。
そんなに待ってもいない土曜がやってきた。
デートプランは適当に考えているので、本当に俺がやりたいことなのかは保証しかねる。俺はそれより、藤堂がこのデートで何を考えているのか、ずっと気になっていた。
「さてマスターさん、最初は何をするんですか?」
藤堂の茶目っ気ある笑顔の手を引き、まずは映画館へ行った。
見たかった映画は、男友達と見るべきであろうアクションものだったが、藤堂は人生初の映画を存分に楽しんだようだった。
「そこ、そこを斬るんですよ! 今の隙は逃しちゃいけませんって~、あっ! 左に避けたら唐竹で……」
アクションにケチを付けるのは構わんが、もうちょっと静かにして欲しいものである。
その後、俺たちは急ぎ足で、西田家が経営する遊園地へ行った。西田のコネを使って優遇してもらうのもいいが、西田に詮索されると殺意が溢れてしまうのでやめておいた。
流石にネズミと比べりゃ大したことはないが、日本有数の遊園地とあって大盛況していた。
藤堂は、戦闘面以外では普通の女子だということが改めて分かった。お化け屋敷では、あまりの怖さに刀を構えようとしていたし、フリーフォール終了後は、暫く意気消沈していたのだ。
「マスターさん、ジェットコースターっていうのは話に聞くほど大したことありませんでしたね」
初ジェットコースター後の藤堂は、生き生きとした顔で感想を述べていた。
「あれくらいであれば、動きを先読みすることくらい難なくできるし、動きがわかれば、怖さはグッと減ります」
それが出来ねぇから怖いんだよ。戦闘狂は、見切りってやつを反射的にしてしまうらしい。
「お化け屋敷だって……周囲の警戒を怠らなければ出現を予見できます。今度こそ退治して……」
「頼むからやめてくれ」
こんなとこで殺人事件なんて起きたら、お遊びじゃなくて本物のお化け屋敷になっちまう。
閉園時間ギリギリまで、俺は藤堂と遊園地を満喫していた。
日もすっかり暮れた夜、俺たちはゆっくりと家へ向かった。
「マスターさん、ありがとうございます」
「礼なんてやめてくれよ。全部藤堂が金払ってくれたんだし」
急に俺の目を逸らして俯いた藤堂は、時々上ずった声で吐き出すように言った。
「……いいんです、これくらいのこと……」
それ以来、藤堂は俺がいくら話しかけても首を振ったりするだけで、口を開くことは無かった。
家の前に着くと、俺は急にどっと疲れた。今日ほど動いた日は久しぶりだ。
玄関に手をかけた瞬間、俺はただならぬ安心感と懐かしさを覚えた。ノスタルジーに浸った気がした。
気にはなったが構わず玄関を開ける。
まず最初に、スナック菓子の臭いが嗅覚を刺激した。
賑やかな、懐かしい声がリビングから響いている。元気いっぱいで、無表情で、しっかりしていて、キツく偉そうで、オドオドしている。5つの声が、聴覚をノスタルジックな気分にさせた。
薄く照らされた、小綺麗廊下とは様子が違っていた。
俺は呆然と立ち尽くしていた。何が何だかわからなかった。頭の整理が追いついていなかった。
不意に、リビングの扉が勢いよく開け放たれた。
「マスター! おかえりぃーっ!」
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