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花見の思い出は命懸け

桜のゴリ押し

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「起きろーっ! マスター! 」
「ぐはぁっ! 」
 朝っぱら、それも土曜日の朝からヴォルケイノサンダーライガーバーストデンジャラスファイナルウルトラダイナマイトエルボー(望月命名)をくらわされた俺は、最悪の寝覚めで強制早起きをさせられるハメになった。
 ……サンダーライガーはダメだろ。マジでこれでファイナルにして欲しいものである。
 時計を見ると、今の時間が早朝であることに気づいた。
「なんだよ望月……。まだ6時にすらなってねぇじゃねえか……」
「だってマスター、早く起きないと遅刻しちゃうよ! 」
 いやもっと遅く起きても遅刻なんかしないのだが。
 ん? 遅刻? 
 今日は土曜だから学校は休みのはずだが。
「楽しみだなぁ、お花見! マスター、今からワクワクが止まらないよ! 」
 そうか。今日は花見しに行くんだったな。
 集合時間がどーのこーのなどを考えると、やっぱもっと寝てても問題ないだろう。
 俺は眠い目を擦りながら朝メシの準備を始めた。立花も既に起きているらしいので、早めの朝食というのもたまにはいいだろう。ごく稀にはだけど。
 6枚切りの食パンを12枚食った2人は、花見の準備をするためにそれぞれの部屋へ行った。
 さて、俺も食べるか。
 冷蔵庫を開けると、そこには……
「食パン切れてる……」
 なにも無かった。
「どーすっかなぁ」
 とりあえず冷凍してたご飯を解凍して、めんどくさいので卵かけご飯を食べた俺は、早めに花見の準備を始めた。
 するとそこに、あまりにもあからさますぎて新鮮なくらいの呆れ顔をした立花と、笑顔が眩しすぎてサングラスかけても直視できない太陽拳よりも輝いた顔を見せる望月が現れた。
「あ、立花。レジャーシートあるか? 俺のヤツボロボロで使い物になりそうにないんだ」
「ある。それなりの大きさで」
 俺は今日持っていくための弁当の用意を始め……
「ねぇねぇマスター! お花見のために宴会芸考えたよ! 見てて! 」
 立花の顔を見る限り、嫌な予感がするのだが……。望月はリンゴを食べるふりをして、
「毒りんごぼエエ……! 」
 …………。
「アッハッハッハッハッ! お腹痛い~アッハッハッハッハッ! 苦しアッハッハッハッハッ! 」
 弁当の中身は肉とかいいかもしれないな。サラダとかも入れないとバランス的にヤバイかもしれん。
「マスター無視しないでよ~っ! もう1回やるからよく見ててね! 」
 しばらくの間があった。
「毒りんごぼエエ……! 」
 立花の苦労がうかがい知れる。
 今のどこに笑うポイントがあるってんだ。
 笑う転げている望月に向かって俺は諭すように言った。
「望月、それはみんなの前でやるな。誕生日にシルバーブルーメ来た時並の恐怖が襲うかもしれねえから……」
「シルバーブルーメ? 」
「知らなかったらそれでいい。俺なんてブラック司令が未だにトラウマになってるんだ。とりあえずみんなの前で今の芸はやるな。いいな? 」
 望月は首を傾けて全身でハテナマークを体現しているようなオーラを放っていた。
 シルバーブルーメのことで首を傾けているのだろう。あの回は怖いのでトラウマになるかもしれん。
 望月には見せないでおこう。
「よく分かんないけどまぁいっか! 毒りんごぼエエ……! はしない。ってことで、そろそろ行こっ! 」
 時計を見ると、時間的にはまだまだはやい。
 でもまぁいいか。望月が靴履き始めてるし。
 というわけで、どんくらい時間が経ったのかなんて知ったこっちゃないが西田の家に到着だ。
「あ、マスターさん。おはよう」
「よっす三好。随分オシャレしてきたんだな」
 三好の格好は、あの時と服の色変えたりしただけだったが普段とは全く違う美人になっていた。
「う、うん。お花見くらいオシャレしよっかなって……。えへへ」
「防衛対象さん、その子誰なの? 」
 工藤がいきなり割って入ってきた。
「あぁ、中学からの同級生だ。三好菜々っていうんだ。よろしくしてやってくれ」
 慣れてない人との会話がろくに出来ない三好は、工藤と白鳥に向かってペコペコと頭を下げまくった。
 後ろで早瀬がニヤニヤしているが、ここは無視しておこう。
「ふえぇ~。凄く可愛らしい人れすね~」
「うぇっ? そそそそんなことないですよ……」
 他愛もない会話を続けていると、門が開いて執事軍団が出現した。

 シュールだ。

 そしてその後に西田が恥ずかしそうに出てきた。
「若本、こんな大げさするなって言っただろ~。めちゃくちゃ恥ずかしいんだからな」
「申し訳ございません坊っちゃま。お父上からの言いつけでございまして」
 西田は顔を赤らめながら西田の後に続いて出てきたリムジンに乗り込んだ。
「みんなもはやく乗れよー」
 窓から手を振ってきている。
 俺たちは執事軍団の案内に従い、西田を無視しつつリムジンに乗り込んだ。執事軍団の中から数人の執事さんたちも乗り込み、クソ胴長リムジンが発車して行った。
 およそ10分ほどであろうか。リムジンはバカでかい平安京にありそうな門をくぐって私有地と思われる場所に入っていった。
 西田と執事軍団以外全員が呆気に取られている。なんじゃこりゃああ。

 …………俺の勘違いだったのだろうか? ここが私有地だってのは。
 リムジンは門を通り抜けてからずっと穏やかな草原を走り続けていた。あの門は飾りなのか? 執事軍団も西田も普通にしているところから、偉い人にはそれがわからんってやつか? 
 西田は偉くないけど。
 しばらく進むと、そこには桜の木がこれでもかと言わんばかりで満開になっていた。
 めちゃくちゃキレイである。
「到着致しました。皆さま、お忘れ物がございませんか確認した後にお降りになってください」
 バスか電車の案内みたいな定形句を聞きつつ、俺たちは満開の桜の下で早速レジャーシートを敷き始めた。
「すっご~いっ! キレイな桜だなぁ……」
 そう言ったのは望月である。ほかのヤツらは、満開の桜に圧倒されて声も出なかった。
「ここは全部親父の庭なんだ。好きに使ってくれていいんだってよ」
 …………は?
「庭? 」
「そうそう。庭だ。ちょっと広いけど、これくらいあればこの人数でも十分だろ」
「つまりここはやっぱし私有地ってことか? 」
「当たり前だろ。さっき門通っただろ? 」
 マジかよ。もしかしたら世界で一番無駄に使われている土地であろう。極小住宅で肩身を狭くして暮らしている人もいればこんなバカでかい庭持ってる奴もいる。
 日本って恐ろしいもんである。
「あ、そうだ。周り見てみろよ」
 西田がドヤ顔で解説を始めようとしたのでイラッときたが大人しく周りを見回してみた。
 ドアノブくらいの大きさになっている平安京モドキの門の周りが桜の木で覆われていた。この敷地を覆っているのであろう堀の周りにも桜の木が覆っていた。
 なんだこの桜のゴリ押しは。
「へへへっ。どうだ、凄いだろ? 」
 凄いには凄いが、お前のウザさで台無しだ。
「普段は花見シーズンになったら隠れ名花見スポットとしてそのヘンのオバハンでも出入り自由にしてるんだが、今回は親父が貸し切りにしてくれたんだ。この庭全部自由に使ってくれってことよ」
 西田の解説を無視して、この桜のゴリ押しに目を驚嘆させていた。
 しかし、そんな時である。
 鍵穴くらいの大きさにしか見えない敷地を覆っている桜の木が黒煙で覆われたのを、俺は見逃さなかった。
「早瀬、ヤバいぞ! 魔人が来る……! 」
 我ながら随分中二病になっちまったもんだと思えるのも今のうちである。
 ついさっきまで見惚れていた桜の木も黒煙に包まれ始めた。
 西田と三好、執事軍団には見えてないらしい。何事もないように花見をしようとしている。
「『空間魔法・十式』」
 素早く反応した立花が周りを樹海に変えた。
 ……ん? なんだこりゃ。
「立花、いつもの樹海はどうした? 」
「桜仕様。キレイなので変えてみた」
 ……わーお。
 花咲かじいさんもヘドバンするレベルの桜の樹海が眼前に広がっていた。
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