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MMM(トリプルエム)vs鬼

戦闘開始

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 節分。それは、別にそんなに深く語ることもないような年中行事である。恵方巻き食って歳の数だけ大豆を食べて雑な鬼のコスプレをした父親に向かって日頃のストレスとともに豆をぶつけるのだ。
 みんなそんな感じの節分しか過ごしたことがないだろう。過去形じゃなくて未来形にしたって間違いではないと確信を持っている。
 ところが俺は過去形では間違ってはいないが、未来形にしたら間違いになってしまうようだ。それもごくごく近未来である。
 節分の時に出てくる鬼は全て魔人であるとすっかり思い込んだ魔法少女たちは、鬼に対して豆まきするのがいいと聞いて殺人兵器を作り出したのだ。俺はみんなを驚かせてやろうと鬼のコスプレをして節分の日に登場してやろうと計画しているが、ヘタすりゃ死ぬかもしれないこの事態を俺はどう乗り切れというのだろうか。
「みんなーっ! 今日はなんと~……節分でーすっ! 」
 俺にとっちゃ節分deathでーす。
 そうやってはしゃいでいるのは望月だけである。他のみんなはもうすぐ戦争を始める兵士のような顔付きになっていた。立花は無表情である。
 まぁあいつらにとっては今から実際に戦争を始めるみたいなものだ。俺は特攻隊員みたいな気分だが。
 遺書でも今のうちに準備しておくか。
『リビングにおいてある豚の貯金箱の中身はみんなで山分けしてください。俺の形見だと思って』
 金が形見なんて可愛そうな人だと思われそうなのでやめておこう。
「節分でーすっ! じゃないわよ……。余裕そうだけど大丈夫? 」
 そう呆れながら言った工藤の顔は緊張が走っている。
「もおぉー……っ、みんなピリピリしすぎだって~。魔人が出てくる前に、パーティーをバンバン楽しまないと! どんどん面白くなくなるよ」
 バンバンだのどんどんだの、お前は某人気少年漫画の擬音か。
 俺たちは足の指を針でチクチクつつかれているような変な空気のまま恵方巻きを食べていた。
 魔法少女たちには言うのをすっかり忘れていたが、こんな殺伐とした空気の中誰も喋るヤツはいなかった。歳の数だけ大豆を食べていると、望月がキッチンからバカでかい箱を持ってきた。
「みんな静かすぎだよーっ。ねえねえみんなっ、ケーキ食べない? 今日の日のために駅前のケーキ屋さんで買ってきたんだーっ! デコレーションケーキ8号だっけ……? おっきくておいしいよっ」
 ぱんぱかぱーんなんてダサいSEを口でいいながら望月は箱を開けた。そこにはクソでかいシンプルなケーキがあった。
 ん? ちょっと待て。8号?
「こんなデカイのよく売ってたな。何人前だと思ってんだ? 」
 望月は顎に人差し指をあてて唸った。
「う~ん……。まぁ、おっきいほうがみんなも嬉しいでしょ? 」
「おっきいれすね~っ。美味しそ~」
 緊張感と呆れからか、二人の会話に口を挟もうとするやつはいなかった。ツッコミ不在の恐怖である。
 糖尿病になるんじゃないかと心配したくなるくらいケーキを食べた俺は、覚悟を決めた。
 トイレに隠してある鬼のコスチュームを着た俺は、トイレの鏡で自分の姿を確認した。本編のガブラとSICフィギュアのガブラくらい見分けがつかないだろう。これじゃ誰も俺だってわからないに違いない。
 俺は金棒のレプリカを手に取り、奇声を発しながらリビングに突入した。
 一応言っておくが、決してマリファナパーティーをして狂ったわけではない。演技である。
「鬼っ! 」
 工藤が最初に反応した。工藤の声に気づいたみんなも、一瞬で表情を豹変させた。
「空間魔法・十式」
 波のような音を立てて、俺の部屋がおなじみの樹海になった。
 魔法少女たちの手には立花が作った武器がある。
 全員が険しい顔をして……あれ? 立花は唯一驚きと申し訳ないというような顔を僅かにしていた。多分普通に見ると気づかない。珍しいこともあるもんだ。
 俺は中学時代に身につけた超高速回れ右を使って後ろを向いたと同時に、一気にダッシュした。
「あっ! 逃げた! 」
 みんながあとを追ってきている。立花以外。
 俺は素早く樹海の中に身を隠した。
 今のダッシュが新体力テストを兼ねてたら、多分俺は自分史史上最速を記録していたに違いない。かなり距離を稼げたはずだ。
 近くにあった木にもたれかかると、腰に見覚えのあるホルダーがくっついていることに気づいた。立花が作ったRPGに出てきてたあのカードケースである。
 中を探ってみると、大量のカードとちっこい手紙が出てきた。
 そこにはこう書いてあった。
『申し訳ない。節分に出てくる鬼は全て魔人だと思っていたが、どうやら私が間違っていた。空間魔法を展開した瞬間に目の前にいる鬼の正体に気づいた。しかし他のみんなには伝えていない。あなたには今2つの選択が求められている。出来るだけみんなに正体を明かさずこのまま戦う? それともばらす? どちらにしても出来るだけのサポートはしたいと思う。戦うと選択した場合は自分の判断で行動すること、ばらすと選択した場合は5分以内に私の元に来ること。5分を超えた場合、戦うことを選択したとみなす。
 追記 あなたの身体能力を一時的に大幅にアップさせた。また、カードデッキ内にあるカードには武器召還可能のカードは含まれていない』
 いや伝えてくれよ。
 と思ったが、立花がサポートしてくれるんだったら今のこの状況は相当変わってくる。この樹海が俺の墓場からサバゲーの会場に変わったのだ。サバゲーなんてやったことないので、俺は戦うことにした。
 俺は立花がいる方向とは真逆の方向に走っていった。体が馬鹿みたいに軽い。調子に乗って走っていると、
「ふわぁっ? お、鬼さんれすかっ? おお、お覚悟してくらひゃ~いぃ! 」
 白鳥に見つかった。
 白鳥は小太刀を俺に向かって振り回した。まずは縦一閃をヒラリと横に避ける。すると斜めに切り上げてきた。それをヒョイとかわすとヤケクソになったのか、小太刀をぶんぶん振り回し始めた。これなら身体能力を強化された俺じゃなくても、西田だって避けれそうな攻撃である。
 俺は隙を見てスネを思いっきりキックした。
「ゔきゃわっ! いたいれす~」
 これが俺の昔からの必殺技である。
 西田には泣き所弁慶キラーキックと名付けられたが、個人的にはハイスピード弁慶キックか電光石火弁慶殺しの方が気に入っている技名だ。俺は中二病を全開させながら、痛がる白鳥に心の中で詫びを入れてその場から走り去った。
 ドドドドドッ!
 しばらく走っていると、今度はシューティングゲームのSEみたいな音が響き渡った。
「そこまでよ! 観念しなさい! 」
 太い枝の上に工藤がいた。手に持っているのは短機関銃のようだ。
 俺はすぐさま近くにあった木に隠れた。
「身を隠しても無駄よ! 
 凄まじい掃射を浴びせてきた。これじゃ反撃のしようがない。
 弾を補充した工藤の隙を見て、俺はそこから逃げ出した。
「ま、待ちなさい! 」
 後ろから追ってくる工藤をなんとかしないとな。
 木の幹を使って宙返りした後に超高速ダッシュをして、さっき来た道を引き返すハメになった。
「クソッ! 思ったよりやるわねアイツ! 」
 太い木の枝に飛び乗った俺は、工藤がその場から去っていく様子を見守っていた。
 ホッと一安心していると、いつの間にかもたれていた木の幹に、大豆が刺さっていた。スグに木から飛び降りた俺は、木の根にあったちょっとした穴に潜り込んだ。
 誰だ? 俺に大豆を撃ったやつは。もう1回撃たないのはおそらく俺を見失ったからだろう。
 スナイパーが誰なのかはスグにピンときたが、念のため探っておこう。カードを探っていると、俺の知らないカードが色々あった。

 スコープ(30秒間だけ左目を閉じると千里眼になる)

 こいつを使ってみようか。
『スコープ』
 俺はカードの説明通り左目を閉じた。すると、めちゃくちゃ視力がよくなった……としか言いようがないな。目を凝らすと何キロも先を見渡せるようになったのだ。その目で探ってみると予想通り早瀬がライフルを構えていた。
 あんなゴツイライフルの弾(大豆)なんて当たったらどうするつもりなんだ。
 ガサガサ……。
 千里眼の効果が切れてちょっとすると、背後から物音がしてきた。
「鬼さんみーつっけた! 」
 望月が背後から襲いかかってきた。
 デカイ望月の声に反応した工藤と白鳥はそれぞれ素早く俺の元に走ってきて小太刀と銃を突きつけてきた。望月は俺の首元に小太刀を近づけている。おそらく早瀬も俺の心臓に狙いを定めているだろう。
 四面楚歌だな、こりゃ。
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