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異世界っぽい現実のような夢 第1章

C-1

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 4月8日。
 目覚まし時計がやかましく鳴ったので猫パンチ並の弱々しい打撃を与えてみても、相変わらず起きろ起きろとやかましい。
 仕方ない。起きてやるか。
 ベッドの横にある棚の上に置かれた卓上カレンダーに見てみると、今日の日付には乱雑な文字で『入学式』と書き殴られていた。
 これを書いた時の俺の心境がうかがい知れる。どれほどこの日が嫌なのか手に取るように分かってしまう。
 寝癖でボサボサになった髪をボリボリと掻きむしりながら、なんとなく俺には重要な使命感とそれを達成した喜びが心の中で踊り狂っているのだが、俺には最近そんなに達成感を感じるようなことをした覚えはない。
 春休みの宿題を終わらせたことくらいではこんなに達成感を感じるわけないし、使命感ではなく倦怠感しか感じない。
 俺は心の中で僅かに感じた使命感と達成感に疑問を感じながら飯を食って急いで制服に着替えた。
 ヤベッ! もう行かねぇと! 入学式の日から遅刻なんてお断りだぜ! 
 俺は急いで学校に行った。
 桜吹雪が舞うこの日はまるで俺の新たなる人生の1歩を祝ってくれているようだ。
 なんて少しオシャンティなポエムを思い浮かべながら高校に向かう俺だが、実はそこまでテンションが上がっていたわけでもなかった。そりゃいい感じの友達をつくって出来れば彼女をつくって休日は映画館か遊園地でデートなんてことを望んでたさ。
 俺はそんなどーでもいいようなくだらん望みは捨てるべきだと悟っていた。オッサン共の汗が充満した満員電車に揺られながら「これが毎日続くのか」なんて思ってタメ息をついて。
 無駄にやたら広い体育館で行われた入学式は、ハゲ頭の校長が繰り出した睡魔にほとんどの生徒がやられていた。
 実は催眠術師だと言っても俺は信じるかもしれんぜ。あの強烈な催眠を回避できるやつがいるとは思えん。
「生徒会長、挨拶! 」
 司会進行役であろう女子生徒の高々とした声を合図に出てきたのはその辺にいる超ド平凡な感じの生徒会長だ。
 女子生徒の生徒会長は緊張しながらありきたりの言葉を述べまくって退散した。
「なぁマスター。あの生徒会長超絶ドブスじゃねえか? 最悪だぜ。選ぶ高校間違えちまったかもしれねえな~……。マスターもそう思うだろ? 」
 思わん。それに高校の善し悪しが生徒会長の顔なんぞで決まってたまるか。中学時代もそうだったが、こいつはどこに行っても変わらずアホだな。なんとなく安心した。
 もしも同じクラスメイトになったのなら、こいつのアホが俺に感染しないことを祈るのみだ。
 こうして西田がほざいた生徒会長たちの文句を聞き流したまま入学式を終えて、今度はクラス発表と新しいクラスメイトとの顔合わせが待ち受けていた。
 なんということだろう。まさか本当に西田と同じクラスになるなんてな。
 自己紹介もそこそこに、クラスメイトとの顔合わせを済ませて俺は予想通りしょうもないとかなんとか思いながら帰路に着いた。
 今日は入学式がメインイベントなので午前で学校はおしまいなのだ。今日嬉しかったことはこのことくらいだな。
「全国のサラリーマンのみなさーんっ お疲れ様でーすっ」
 同じ帰り道の西田がアホな叫び声をあげやがった。
 やめろ西田。通行人の目が痛々しい。俺は西田とは出来るだけ関係のない人物を装いながら、俺は道の端っこにいるダンボールを見つけた。
「なんだこりゃ? 」
 西田もそれに気づいて俺の背中からのぞき込んでくる。
「ミカンの箱……? 」
 そう。西田の言う通りミカンの箱だ。
 だがそんなことはどうでもいい。このダンボールの箱がさっきまでゴッホの絵を入れていただろうとミカンの箱だろうと関係のない話だ。
 ボロボロになったダンボールの中身はカラだった。
 『拾ってください』と綺麗な文字で書いてあったそのダンボールの中身はボロ雑巾みたいな汚いタオルが入っていたくらいで、なにも無かった。
 ニオイと状態から察するに、おそらく猫が入っていたのだろう。
 なんてこった。もしかしたらこのダンボール箱の中に入っていた猫ニャンを俺が拾うことだって出来たのかもしれんというのに。西田のくだらん話なんぞに付き合って歩くスピードを遅くした俺と西田を殴りたいくらいの悔しさだ。
 特に西田はボコボコにした後懲役刑に処すしかあるまい。俺に子猫ニャンを拾わせなかった罰は重いぞ西田よ。
 ん? なんで俺はこのダンボール箱にいた猫が子猫ニャンだって分かったんだ? なんとなく前にも同じような光景で子猫ニャンを拾っていた気がするが……俺の家に猫はいない。ましては子猫ニャンなんていたら入学式をほっぽりだすくらいはやってのけそうだ。
 そう言えば道の端っこにあるダンボール箱の場所もなんとなく分かっていた気がする。
 なんていうんだ……こういうの……。デジャヴ……ってやつか……?
「ハッハッハッハーっ! 残念だったなマスターっ! この様子だと猫がいたっぽい感じだが、遅かったみたいだなマスターっ! アッハッハッハッハッ! こりゃたまらん。くぅっーっ! ハッハッハッハーっ! 」
 おのれ西田め。やはり極刑に処すしかなさそうだ。人の不幸がそんなに面白いか。
 こいつはアホだけではなくクズでもあったようだな。
 俺は謝る西田をおいてとっとと家に帰った。
 あいつがなにを言ってきたって今日のことは絶対に許してやらんからな。これからクラスメイトとしてあんなヤツと最低でも1年は一緒にいなければならないなんてな。この1年は最悪の1年になりそうだぜ。
 今日は学校が昼に終わってくれたおかげで、俺が家に帰ってきたのはけっこうはやい時間だった。
 これなら午後はずっとぐうたらできそうだな。とりあえずぐうたらする前に昼飯でも作らなければとキッチンにある冷蔵庫の中身を確認した。
 ふーむ……。帰りに買い物でもし来ればよかったかもしれないな。ほ
 とんどカラになってきている冷蔵庫の中身を見て、俺は溜め息をハァとついた。
 冷凍チャーハンでいいか? 
 誰に許可をもとめているのか、なんとなく俺はキョロキョロしていた。
 分かっていたことだが食器類はやたらと綺麗だった。 食器類を並べて飾るなんて趣味はないが、我ながら綺麗な状態だと思う。
 そんな中、端っこのほうに乱雑に置かれた中華鍋がやたらと目立っている。
 裏表逆に置かれた二枚重ねの中華鍋を見ていると何故か違和感を感じてくる。
 何故だ……? 何故俺はこんな変な置き方をした中華鍋に見覚えがあるんだ? 中華鍋の上に中華鍋を被せたような置き方なんて俺したことないのに……。
 そんなことを考えていると、頭の中が焼かれるような頭痛が襲ってきた。頭の中に体験したことのない記憶が流れ込んでくる。
 見知らぬ猫のコスプレをした少女が俺の通っている高校の制服に一瞬で着替え、砂漠の中で中華鍋の上に中華鍋を被せたバケモノと戦っている記憶……。なんでそんなもんが俺の頭の中に流れ込んでくるんだ……? 
 身に覚えはないが、頭の中では確かにそれは俺が体験したことになっているらしい。俺には妄想癖なんてないし、仮に妄想だったとしても記憶と混同したりはしないはずだ。だが、確かにそのことは俺が体験したことになっているのだ。
 なんでだろう……。
 初めての体験だ。猫の時もそうだが、デジャヴみたいだ……。
 俺は頭の中にある違和感を感じながら、クソまずい冷凍チャーハンを食った。
 暇つぶしを格闘ゲームで過ごしていたが3時間もすると飽き性の俺はさすがに飽きてくる。久しぶりのような気もしたが推理もののラノベでも読んでみるか。
 本棚にあるラノベを取ろうとすると、再び強烈な頭痛が襲ってきた。
 デジャヴモドキだ。
 頭の中に推理もののラノベの隣に本を置いたという、さっきに比べれば我ながら中々しょうもない記憶が流れ込んできた。
 覚えのない新たな記憶を元に、俺は推理もののラノベの隣の本に目を向けた。
 こんなラノベ見たことない。なんでこんなもんが置いてあるのだろうか。
 ま、買ったラノベを忘れてそのまま放置していたのだろう。それが1番納得のいく説明だ。
 俺は何故そんなことにデジャヴモドキを感じたのか疑問に思いながら次の日を迎えた。
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