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異世界っぽい現実のような夢 序章

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 12月20日。立花お手製のゲームをクリアしてからはや1ヶ月ちょっととなったこの日は、日本どころか世界中がジングルベルと騒ぎ始めていた。
 クリスマスか……。俺にはメルヘンチックな夢を1番最初にぶっ壊されたという苦い思い出が真っ先に頭に浮かんで来る。
 突然だが皆さんはサンタクロースの存在をいつまで信じていただろうか。意外とこういうことはハッキリとは覚えてないとか、なんとなくいつの間にか気づいてたみたいな人もいると思う。人生初のメルヘンを破壊された瞬間なんてのは案外覚えてないなんてこともあるわけだ。
 だが俺はトナカイにブラック企業並の重労働を課して世界中の家に不法侵入を実行する、世界公認の犯罪者が存在しないと分かった瞬間をハッキリと覚えている。
 俺の親は小4の時には海外に出張して行ったためその前の小3までは信じており、サンタクロースの闇資金源について考えていたひねくれ者だったのだが親が海外に出張した年のクリスマスはプレゼントが郵送されているということにあっさりと気づいたため、親はサンタクロースであると分かってしまった。
 確かに親がサンタクロースだったら俺の母さんにキスをしたなんてことも有り得るだろうし、恋人がサンタクロースなんてことも有り得るだろう。元恋人ではあるが。
 そんな俺とは違って今年からこの世界にやってきた魔法少女たちにとってはサンタクロースというキリストの誕生日に犯罪をしまくる世界一有名な大犯罪者の存在をピュアに実在すると信じており、今までプレゼントを『貰う側』だった俺が今年は『あげる側』にならなければいけないようだ。
 俺と早瀬の家だけ不法侵入しないのはサンタクロースとして失格だろうし、クリスマスはシリアスな雰囲気で迎えたくないからな。
「ねぇねぇマスターっ! もうすぐクリスマスだよね~? 」
「あと5日ってとこだな。プレゼントは決めたのか? 」
 望月はニヒっとイタズラ小僧のような満開笑顔でこっちを見てきた。
「決めたよ! でもマスターには内緒ーっ! 」
 なんてこった。こいつはめんどうだな。プレゼントを内緒にされたらお前の望むものをお届けすることなんて無理だからな。
 仕方ない。テキトーに買ってテキトーに済ませるか。駄菓子の詰め合わせ(250円)でいいか?
 さてと、サンタクロースなんて信じていないであろう立花にも念のため聞いておくか。
 俺の予算内に収まりきるプレゼントを注文してくれるに違いない。
「立花はサンタに何をお願いするんだ? 」
「秘密」
「秘密? 」
「そう。サンタクロースがどのようにしてプレゼントを配布しているのか、そしてどのようにして子どもたちが望むプレゼントを的確に把握出来るのか気になるから」
「な……なるほどな……」
 今まさにそのプレゼントを的確に把握しようとしているわけなのだが……。
 どうやら立花まで信じていたようである。立花はいつになく真剣にメルヘンチックなことを考えているようだ。
 サンタクロース捕獲作戦なんて考えついてくれるなよ?
 次は早瀬と工藤と白鳥か。立花まで信じていたようだが、さすがに我が校を代表する生徒会長や最早俺の家の通い妻になってきている早瀬はサンタクロースの正体をとっくの昔に気づいているだろう。
 無駄な労力な気もするが一応聞いておいて損はないはずだ。
「ウーっす早瀬ー。工藤と白鳥いるか? 」
「えぇ。どうしたの? マスターが私の家に来るなんて。まあいいわ。あとでその事については聞いてあげるね。さっ、あがってあがって! 中に2人ともいるはずだし」
 言われるがままに入った早瀬の家は相変わらず今どきの女子高生のようだった。
 家の構造的には俺の家とそんなに変わらんのだが、薄いピンク色のカーテンでリビングと部屋を仕切っている。他にも可愛らしいぬいぐるみやバカでかい棚が窓際に置いてあったり、アクセサリーグッズを入れた箱が隅にポツンとあった。
 本棚にはどっかで聞いたことのあるような少女漫画が巻数をちゃんと揃えてられて並んでいる。そして本棚の本より前に置かれたおそらく手作りであろうひまわりの顔がニコニコ笑っている飾り付き写真立ての中には一年生旅行の時のクラス全体集合写真だ。
 ここに来るのもいつぶりだったっけ。なんとなく懐かしさを感じるな。
「私と弥生に何の用かしら? あなたから訪ねてくるなんて珍しいわね」
「防衛対象さ~ん。いらっしゃいれす~」
 俺の気配に気づいたのか、あるいは玄関での俺と早瀬の会話を聞いていたのか、工藤と白鳥がカーテンをくぐって出てきた。
「ウーっす2人とも。お邪魔してるぜ」
「ところでマスター。あなたがわざわざここにきたってことは何か理由があるんじゃないの? 」
「まぁくだらんことではあるんだけどな。3人ともサンタにお願いするプレゼントは何にしたか決めたか? 」
「なに? 防衛対象さんは世間話でもしに来たの? 」
 工藤の鋭い視線がこっちに向けられる。
「いや、そういうわけじゃないんだ。サンタクロースにお願いするプレゼントを聞きに来たってのが俺の用事だ」
 早瀬と工藤は「何言ってんだこいつ」みたいな顔をあからさまにしてきた。
 よかった。こいつらはサンタクロースの正体を知っているみたいだな。工藤は呆れた顔のまま、
「サンタクロース? あんな変態は私たちが捕まえてとっちめてやるんだから」
 ん? こいつはなんの冗談だ?
「変態? どういうことだ? 」
「もしも私たちの部屋にサンタクロースがプレゼントを置きに来たんだったら私たちが捕まえてやるのよ」
「いやいや、説明になってないんだが……? 」
「分からないの? どんな理由があろうとも、乙女の部屋に忍び込んでくるなんて変態よ! そんなやつは私が捕まえて懲役刑に処すんだから! いや……死刑にしたっていいわ! 」
 つまり……工藤もサンタクロースを信じているってことか。
「そんな~。死刑は可愛そうれす~。でも人の家に忍び込んでくるなんていけませんよね……。そうだっ! 私たちでサンタクロースさんを捕まえてお説教をするのはどうでしょう? 」
 この感じだと白鳥もサンタクロースを信じているようだ。まぁなんとなく白鳥は予想していたが。
「お説教でなんとかなるとは思えないわ……。死刑ってわけにもいかないしね。警察に出頭させるのよ! 名付けて、サンタクロース更生させちゃうぞ大作戦! 」
 ダメだこりゃ。早瀬まで信じている。
 サンタクロースも気の毒だな。
 プレゼントを渡すために部屋に忍び込んだら、どうやって入ってきたのかとどうやって子どもたちの欲しいプレゼントを的確に把握しているのかを散々立花に質問攻めにあった挙句、隣の部屋に忍び込むと捕獲されて最低でもお説教をくらい、最悪死刑を宣告されるというのだから同情するしかない。
 善意で来ているというのに散々な目にあってしまっては心外だろう。
 俺は仕方なく5人の欲しがってそうなプレゼントを予想して買っておくことにした。
 望月にはだいぶ前に街を歩いている時に欲しがっていたポーチを、立花にはゲームプログラム開発をしやすいようにスペックとかをあげるよく分からんCPUを、早瀬には家の収納が狭いと嘆いていたので部屋に似合いそうなデカイチェストを、工藤と白鳥には有名なクマのキャラクターのぬいぐるみを買っておいた。
 しばらく俺の生活は質素倹約を極めなければ到底暮らしていけそうにないがまぁいいだろう。俺は5人にプレゼントを買えて大満足だ。
 借りを作りっぱなしではこの世界に生きる人間としてダメだろう。今まで受けてきた恩に比べたらハエのフンくらいではあるが、それでも返せるだけマシだ。
 俺の気分は上がりすぎておかしくなっていたのかもしれない。顔はずっとにやけていたし、今思うと俺を見た通行人の反応は痛々しいと言えるだろう。
 だが5人に喜んで貰えるのであればそんなこと構うもんか。通行人の反応なんてどーでもいいようなくだらんことだ。
 俺は大声で『ジングルベル』でも歌ってやろうかと思っていた。さすがに心の中で留めておいたが。
 ジングルベ~ルっジングルベ~ルっ鈴が~な……ん?
 体が一切動かない。何が起こったというのだろうか。全身が金縛りにあったかのようにピクリともしなくなった。
 背筋に悪寒がマラソン大会の開催を宣言する。周りに人は見当たらず、助けを求めることも出来ないらしい。
 ブオォォォ……。
 そんなに遠くないところからエンジン音が聞こえてきた。こっちに向かって来ているようだ。
 精一杯眼球を動かして見てみると、どうやら軽トラックらしい。
 こっちに気づいていないのか、速度を落とす気配はない。むしろ加速しているようだ。
 おい軽トラやろー。このままだと衝突事故の容疑者になっちまうぞ。もし俺が死んだら呪ってやるぞ。秋菜みたいに幽霊になって取り憑いてやるぞ。それでもいいのかお前は。
 トラックはさらに加速していく。わざと俺にあたりに来ているのだろうか。
 俺を殺す気かあのヤロー! よーしこうなったら呪ってやる。運転手め! 顔を見せやがれ!
 運転手の顔がくっきりと見える距離までトラックは加速しながらやってきた。もう目と鼻の先だ。
 運転手の顔はすっかり覚えたぞ。女だな? 真っ黒な髪の長いヤローか。
 あれ? 俺ってトラックが近づいて来ているのにどんだけ心の中で喋ったっけ? トラックがめちゃくちゃスローに見えるんだが、これって死ぬ前の走馬灯じゃないのか……?
 トラックが加速をやめることはなかった。
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