上 下
29 / 30

29話

しおりを挟む
「みんなー! 元気かー!!」
雛菊 鞠が曲のイントロ中に問いかける

「え…嘘…」
「まじ…」
「あれ本物!?」
「何!? どういう事!?」
「なん・・・だと・・・」

会場は大混乱というか、呆気に取られているようだ。
そんなギャラリーを見ながら雛菊 鞠はニヤリと笑う。なぜなら本当に驚いているのが分かるからだ。誰もこんな所に本物の雛菊 鞠が来るなんて1ミリも考えていなかっただろう、何が起こっているのかわからなくて当然だ。

「ふふ、いいでしょう! ついてこれる奴だけついてこーい!!」

『♪いくぞいっくぞあの雲の向こうへ、君がいれば問題なし! 不安なんてあるわけなし! 見える景色がカラフルに色づいて、私の身体はひらひらと舞うの♪』

・・・

うぉーー!!!
きゃー!!
まじかー!
きょきょきょきょ!!
うーん、これはまずいですね~!この僕が冷静でいられないとはまずいですね~!!

会場が、噴火した。少なくとも俺にはそう見えた。
叫ぶ者、飛び上がる者、泣く者、踊りだす者、粋がっている者、その全てが入り交じりエクスタシーに達している。

♪♪♪

「いくよー! レッツ!」
ゴー!!!!
最後はギャラリーと一緒に閉めるという流れ、さすが雛菊 鞠。

「もう大丈夫でしょ! 改めて、元気かー!」
うぉーー!
「貴様らそれでも高校生!?元気かー!?」
ぎゃーーお!!
「足りなーい!!」
ドッヒャー!!!
雛菊 鞠はライブ中Sっ気があることで有名で、それもファンからするとたまらないのである。

「今回はサプライズとして、この文化祭に参加することになりました! 私のライブのために、このステージで準備してきた出し物が披露できなかった人がたくさんいたと聞いています。でも、私のためになったんだからいいよねー!?」

うぉーー!!!

「そんなみんなのために、さいっこうの元気を届けてあげるから、感謝するのよ!!」
きゃー!!!

輝いている雛菊 鞠の姿を目の前で見て俺は言葉が出なかった。あっという間にこの会場を、思春期の高校生の心を掌握してしまった。今なら何をやっても会場を沸かせることができそうだ。

その後ノンストップで3曲、MCを挟んで更に3曲を歌い切るも、その勢いは弱まるどころか増していくばかり、外部のお客さんも交えて膨れ上がっていく。

その傍らで小さい戦争が起きていた。それは客席の最前列、そうラグビー部のみなさんだ。
雛菊 鞠の登場で狂乱する生徒をその鋼の肉体で押し返していくが、頭のネジが飛んでしまっている高校生の力はいつも以上に強い。
更に、モッシュのためにラグビー部に突っ込んでいき、投げ飛ばされてウェーイしている奴まで出てきている。大声で呼びかけても全く効果が無い。

しかしそんな状況でプロの腕前を見せるのが日本トップの歌姫である。完璧なタイミングでバラードの”trust you”を歌い、会場を冷ましていく。

そして、夢のような時間も終わりが近づく

「次の曲で最後よ!」
えええーーー!!!
「うるさいわね! こっちも疲れたわよ!」
あはは!
「でも、その前にこの文化祭の指揮を取ってくれた生徒会長の紺野 日奈子ちゃん。そしてこのステージを用意してくれた小山 新くん、前に出てきて!」
「え!?」
そんなの聞いてないんだけど!
「ほら、急いで」
雛菊 鞠に言われたら行くしかない、後ろにいたらしい会長もいそいそと壇上に上がる。
「みんな聞いて」
雛菊 鞠の表情が真剣になり、何かを察した会場は静かになる。
「代表してこの2人に来てもらったけど、他にもたくさんの人がこの文化祭のために数か月前から少しずつ準備して、放課後もプライベートの時間も削って頑張ってきたの。みんな準備する側の気持ちちゃんと考えた? みんなと歳変わらないんだよ? 3年生からするとこの2人は年下なんだよ? みんなが楽しめるようにってここまでやるのってすごい事じゃない? 要求が通らないからって自分勝手なことをしたらダメなの。良い?」

・・・

「今回は色んな縁があって小山君のオファーに応えることができたの。みんな彼に感謝しなさいよ!」
ざわざわ
「じゃあ2人に拍手!」
パチパチパチパチ
「2人ともありがとう」

さらし者にされただけな気がしないでもないけど、一礼して俺たちは下がる。

「これが最後、”君が私のスターライト”」

準備の都合上セットリストは知っていたんだけど、最後にこの曲を歌ってくれるのは素直に嬉しい。

最後はアップテンポで締めくくり、大きな拍手が鳴り響く。
「ありがとう! じゃあまたね!」
うぉーー!!!
会場はまだ熱気に包まれ、多くの生徒が体育館に残っている。

雛菊 鞠が手を振りながらこっちに下がってきた。
「お疲れ様です!」
「ふぅ、楽しかった!」
「すごかったです、本当に」
「惚れちゃった?」
「え? あ、いや~」
「ふふ、冗談よ」
「勘弁してくださいよー!」
「かわいいわね!」
「うっ///」
ほてって顔が少し赤く、ニコッと笑う雛菊 鞠はとてもかわいく、ドキドキした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

処理中です...