上 下
19 / 47
リコーン編

リコーン逃亡

しおりを挟む
何だ!? 突然大きな鐘の音が聞こえてきた。ジャスミンの顔が青ざめる

「まさか、警鐘!? リコーンで警鐘が鳴るなんて!」

「ってことは、今リコーンが攻撃されてるのか!?」

「えぇ、その通りよ!帝国軍しか考えられないわね」

「!?」

嫌な予感がする。

エセ商人が言ってた、帝国軍は”災いをもたらす者”が現れたと。俺がこっちに来たタイミング、襲われるクルトとリコーン。

『俺か? 俺なのか!?』

でも災いをもたらす者なんて捕まったら絶対死ぬに決まってる!

「どうする? 逃げるか?」

「そうしましょう。でもリコーンは小さいけど警備軍を持っているわ、侵攻を食い止められればいんだけど、あまり期待できないわね・・・」

「クルトをあんなにした奴らだ。侵攻されれば何も残らないかもしれない。うまく敵が少ない所から脱出しよう、アーヤも良いか?」アーヤが頷く。

病院を出ると街がごった返していた。当たり前だ、自分の街が攻撃されてるんだから。

「がぁ!!!」街を走る女性が右肩にぶつかった、それでもとんでもない痛みだ。

「やべぇ。よりにもよってこんな時に!!」まだ走ることは俺には無理だ

アーヤがすかさず俺の道路側に立ち、腰に手を回してくれる

「アーヤごめ、、ありがとうな!」アーヤの表情は真剣だった

「2人ともこっちよ!」ジャスミンの指示で脇道に入っていく

「みんな港に向かっているわね、そんなに大勢で行っても船はおろか、帝国軍の的になるだけだというのに、」

「でも、港以外にどうやって? 泳いで行くには遠すぎるぞ」

「大丈夫、こういう時のためにレーナと昔から打ち合わせしている場所があるの。そこに向かいましょう」さすがジャスミン、こういう事にもぬかりがない。

はぁ、はぁ、早歩きでもしんどいな。さっきの振動で傷口から血が滲んでいる。

ドン!

遠くで爆発音がする、とうとう侵攻が始まったか。急がないと!

海が見えてきた、船が着けそうな場所は無いがジャスミンの言う待ち合わせ場所なのだろう

「止まれ!」

振り向くと剣を持った帝国兵がこちらに向かってくる。くそ!こんなところにも。奴ら本当に隅々までリコーンを潰すつもりだ。見える人間を殺した後は、隠れているのを燃やすってか。

「待ちなさい! 私は医者です。帝国も医者は少ないんじゃない? ここにいるのは何の役にも立たないケガ人と女の子だけよ」ジャスミンが交渉を持ちかける

「医者か。確かに悪くない、帝国も喉から手が出るほど欲しいだろう。だが、どいつが災いをもたらす者かわからない以上、今リコーンにいる人間は残さず排除する必要がある。」

『何が占いだ? もうちょっと細かいとこまでわかんねぇのかよ!』

話が通じない兵士に怒り覚える。

「私たちを見逃してくれたら、あなたの体を上から下まで治療してあげるけど」

「ほーう。それは名案だ。だが、それはお前以外を殺して俺の奴隷にすればいいだけのこと、死んでもらおうか」

ジャスミンの誘惑も帝国兵には届かなかった。

「お前、まじでクズだな」

「最後の言葉はそれで良いか?」兵士が俺に向かってくる。よし、とりあえず標的は俺になったな。

「アーヤ、俺が一瞬だけ時間を稼ぐ。後ろから奴の急所、玉を蹴り上げろ、わかるな?」

口を拭うふりをしながらアーヤに小声で話しかける。

「前は鎧に守られている、下から突き上げてくれ。頼んだよ」アーヤを俺から離す

「さぁ、ケガ人一人と勝負だ。かかってきな」精一杯の挑発をかける

相手をよく見ろ、一瞬だけ全力を出せれば良い。戦いを経験したことは無い、でも逃げ腰だと見えるものも見えなくなることくらい知ってる。集中しろ!

「ザコの分際で口だけは達者だなぁ、死ねぇ!」兵士が剣を振り上げる。縦に大振り、てことは横に動けば!

パンチは打ったことはないが、蹴りならガキの頃から何万回とやってきた。センタリングに合わせるように奴の腕にタイミングを合わせろ!

「ふん!」こっちからも2歩踏み込んで奴の横っ腹に蹴りを入れようとする。間合いがいきなり狭くなった分俺の蹴りの方が先に当たる。が

「あああ!!!」傷にかかる衝撃に倒れる。でも奴のひと振りを防ぎ、バランスを崩すことはできた。

奴が体勢を整え、俺に剣を振り上げる。その時

バン!

アーヤが奴の股間を後ろから蹴り上げた

「ぐう!」兵士の動きが止まった。

「おまえええ!!」兵士が形相を変えてアーヤに振り向く。鎧で守られててダメージが通ってない!? 成功していたら確実にうずくまるか気絶するはずだ!

「アーヤ!!逃げろ!!」叫ぶがアーヤが動かない。どうする!!その時、俺の横を人影が通り抜ける。

ガン!!!

誰かが兵士の後頭部を大きな棒で勢いよく叩き、その場で人形のように倒れた。

「間に合ったようだね。遅くなってごめんね!」

「レーナさん!」

「レーナ!!」

俺とジャスミンが同時に叫ぶ

「感動の再開は後だよ! さぁ早く、こっち!」

「ううう!!!ダメだ、体が動かない!」どうやらあのキックで完全にやってしまったらしい

「やっぱりあんた、傷が治ってないんだね!」

「俺の事は置いて、先にい」言いかけると、アーヤが俺を持ち上げようと必死に力を入れている

「あんたの死に場所はここじゃないよ! ジャスも手伝って!」

「ええ!!」

3人が俺を持ち上げて運んでくれている。

「あんた軽いねぇ、ちゃんと食べてんのかい?」レーナさんがそんなことを言って気を紛らわしてくれる

「こっちに来て大変なことが多くてね・・・ありがとう、みんな」

間もなく船に到着し、リコーンを離れる。良かった、兵士が1人だったから何とかなったが、複数人いたらやばかった・・・
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アレイスター・テイル

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ
ファンタジー
一ノ瀬和哉は普通の高校生だった。 ある日、突然現れた少女とであり、魔導師として現世と魔導師の世界を行き来することになる。 現世×ファンタジー×魔法 物語

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

魔法少女・マジカルリリィ(仮)

uma
ファンタジー
最強魔法少女シェイムリルファ。並び立つ者のいない唯一無二の魔法少女。老若男女が彼女に賞賛を贈り、魔法少女の完成形としてその名を轟かせている。 魔法少女養成機関に所属する黒峰凛は星の数ほどいるシェイムリルファのファンの内の一人。 いつか私もシェイムリルファみたいな魔法少女に! 日々、訓練や勉学に励む鈴だが、彼女には魔法の才能も無ければ運動神経も全く無い。そして遂には教官からは魔法少女の道を諦めるよう宣告を受けてしまう。 魔法少女の道が閉ざされ、途方に暮れる凛。そんな彼女の元に輪をかける様に衝撃のニュースが届く。 『シェイムリルファ、敗北』

ぼくたちは異世界に行った

板倉恭司
ファンタジー
 偶然、同じバスに乗り合わせた男たち──最強のチンピラ、最凶のヤクザ、最狂のビジネスマン、最弱のニート──は突然、異世界へと転移させられる。彼らは元の世界に帰るため、怪物の蠢く残酷な世界で旅をしていく。  この世界は優しくない。剥き出しの残酷さが、容赦なく少年の心を蝕んでいく……。 「もし、お前が善人と呼ばれる弱者を救いたいと願うなら……いっそ、お前が悪人になれ。それも、悪人の頂点にな。そして、得た力で弱者を救ってやれ」  この世界は、ぼくたちに何をさせようとしているんだ?

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...