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044 控えの間の秘密
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俺は魔塔に戻った。大事な事を見逃していたのかもしれない。最初から乳母がエドワード様の側にいない事に違和感があった。だのに、なぜそれを放置してしまったのか。フローリアに意識が集中し過ぎたかもしれない。
前後の時間軸に乳母の姿が見つからないのだ。だから、犯人でもない乳母の捜索を諦めたのだ。
「デルタ、エドワード王子の乳母を探してくれ」
「え、ティム、乳母は犯行現場にはいなかったんだよ?」
「頼む、いいから探してくれ。遡って、乳母に焦点を合わせてくれ」
「……分かった!任せて」
エドワード王子の身辺はいずれも公爵家が手配した人材なので、問題がある人物はいないはずだ。だが、公子がおっしゃった王子危篤の時の乳母の顔、正直顔に覚えはないが、髪色が……違ったような気もするし。
俺は自分の耳たぶの耳飾りに手をやった。ソフィアの声が囁くように聞こえた。ソフィアに渡した時計の音声器だ。映像の解析と打ち合わせ以外の時間はほぼ、付けっぱなしで稼働させている。
(ティム、いつ帰ってくるの……)
ソフィアの声に、俺の心臓がぎゅっと掴まれたような気がした。
公爵様の話によると、ソフィアは独自の調査でフローリアの正体に気づいているようだし、前回とフローリアの行動が違う可能性も否めない。早く側に戻ってやりたい。
デルタが画像をもう一度壁の鏡に投影して、前後の時間を調査している。王妃宮の王子の寝室周辺に焦点を当てている。
「うーん、別に変な動きはないなあ」
「何にもか?」
「うん。まだ王子様は幼児だからねえ、一人でどこかに行く事もないし、いつも誰かに付き添われているし、乳母らしき人と他のお世話係が二、三人いるくらいだよ」
「ふーむ……。夜会の式典の前はどうだ?」
「部屋に、乳母と王子様と陛下が入って行ったよ。これは、何度も見たとこだよねー?」
ヘルガは今回の『時戻し』で、新しい時間軸に変化が出ないかを研究してくれている。彼女曰く、『時戻し』編んだ糸をほぐすようなものらしく、残滓は解かれた糸の後を読み取るようなものらしい。だから、完全に映像化出来る所もあれば、その陰になり読み取れないものもあるそうだ。
入って行った後、二人になった経緯が、見えないのだ。その部分の時間がぽっかり抜けている可能性がある。
「ただ、部屋の中では陛下と王子様が二人である事は事実だし、陛下が何か食べさせていたでしょ?どっからお菓子なんか出したかは不明だけど……陛下が実行犯だよ。それで良くない?」
(それでもいいかもしれないが、良くない……!俺が気になって仕方がないから良くないんだ!)
「あ、ティモシー。あれは?陛下の後ろの壁に、上着をかける場所があるよね?前はあんまり気にしてなかったけど、陛下は上着を脱がれてないよね……」
確かにそうだ。上着をかけるポールがあり、ウィリアム王とエドワード王子の上着が数着、数種類かかっている。二人は、ソファに腰かけたままだ。
「デルタ、入室すると所からもう一度見せてくれ」
扉の両脇に兵士がいて、部屋に控えていた召使いが中から扉をあける。召使いが外に出て、入れ替わりにウィリアム王と、王子を抱いた乳母が入室して部屋が閉じられた。次の場面は入って来た所からだ。その時、乳母が抱いていた王子を下ろし、陛下が進んで行き、ソファに腰かける。
すると、隣に王子がウィリアム王の助けを借りて腰かける。周りを見渡しても、誰もいない。
「止めて、ちょっと周りをみせてくれ」
周りには誰もいない。ソファの前にテーブルがあるだけだ。後ろには衣装……。まてよ。衣装?
まさか、ここは……クローゼットの中か!
(陛下は、クローゼットの中にいるんだ!)
俺は慌てて宮殿の見取図を出して広げた。
「どうしたの?ティモシー、何か分かったの?」
控えの間の場所を確認した。夜会がある場合は、必ず控えの間を用意する。招待客用にも必要だ。令嬢や夫人たちの衣装を整えたり、ちょっとした休憩、密かな密会に使われる場合もある。
控えの間には、夜会で衣装にトラブルがあった場合のために、予備の衣装を用意しているものだ。
王と王子の控えの間なのだから、彼らの予備の衣装があるのは当たり前だ。そして、その衣装がかけられている場所は……クローゼットだ。室内に仕切られた場所があり、召使いや侍女と入り衣装を整えるために広いスペースが取られている。
一見壁が続いているので、部屋の中央に進んだようにも見えたのだが、王子と二人でクローゼットの中に入って行ったのか?乳母は外に残しているのか?それなら、周りに姿がなくても頷ける。
でもなぜだ?なぜクローゼットの中などに?
見取図を確認すると、扉のすぐ脇にかなり広いクローゼットスペースがある。
「デルタ、この部屋の扉を三時間前から早送りで見せてくれ」
「了解!」
鏡に画像が早送りで投影される。扉の両脇に兵士が二人いる光景は変わらない。同じ画像がずっと続く。もう何もないかと思った頃に、一人の召使いの女がワゴンを持って中に入って行った。部屋の中の支度に訪れたようだ。
その後すぐに兵士の交代があり、暫くしてウィリアム王たちが部屋に来た。そこからはさっきと同じだ。今度は、さっきウィリアム王たちが来た時に扉を開けた召使いが、ワゴンにお茶を準備して戻って来た。これも何度も見た光景だ。お茶を置いてまた出てくるはずだ。
待てよ。先に一人召使いが入っている。扉を開けた召使いは違う女だ。その召使いは最終的にお茶を出して出ていった。
先に入った召使いの女はどうした?映像では中で姿は見えなかった。しかも部屋から出ていない。
「デルタ、一番最初に部屋に入って行った召使いの映像、拡大出来るか?」
「うーん、やってみる」
デルタが、魔法陣に数式を書き足している。それに伴い少しずつ画像が大きくなる。横顔しか見えないが、あれは!
髪は召使いのメイドキャップに隠れて見えないが、間違いない。
「ティモシー!あれ、側室のフローリアじゃない!」
ウィリアム王と王子が入室した時には、フローリアが中にいた事になる。出て行ったのは、扉を開けた召使いだけだ。
(あの女、中で何をしていたんだ?あの時に、毒を持ち込んだのか?)
「フローリア、中に隠れていたんじゃないの?」
前後の時間軸に乳母の姿が見つからないのだ。だから、犯人でもない乳母の捜索を諦めたのだ。
「デルタ、エドワード王子の乳母を探してくれ」
「え、ティム、乳母は犯行現場にはいなかったんだよ?」
「頼む、いいから探してくれ。遡って、乳母に焦点を合わせてくれ」
「……分かった!任せて」
エドワード王子の身辺はいずれも公爵家が手配した人材なので、問題がある人物はいないはずだ。だが、公子がおっしゃった王子危篤の時の乳母の顔、正直顔に覚えはないが、髪色が……違ったような気もするし。
俺は自分の耳たぶの耳飾りに手をやった。ソフィアの声が囁くように聞こえた。ソフィアに渡した時計の音声器だ。映像の解析と打ち合わせ以外の時間はほぼ、付けっぱなしで稼働させている。
(ティム、いつ帰ってくるの……)
ソフィアの声に、俺の心臓がぎゅっと掴まれたような気がした。
公爵様の話によると、ソフィアは独自の調査でフローリアの正体に気づいているようだし、前回とフローリアの行動が違う可能性も否めない。早く側に戻ってやりたい。
デルタが画像をもう一度壁の鏡に投影して、前後の時間を調査している。王妃宮の王子の寝室周辺に焦点を当てている。
「うーん、別に変な動きはないなあ」
「何にもか?」
「うん。まだ王子様は幼児だからねえ、一人でどこかに行く事もないし、いつも誰かに付き添われているし、乳母らしき人と他のお世話係が二、三人いるくらいだよ」
「ふーむ……。夜会の式典の前はどうだ?」
「部屋に、乳母と王子様と陛下が入って行ったよ。これは、何度も見たとこだよねー?」
ヘルガは今回の『時戻し』で、新しい時間軸に変化が出ないかを研究してくれている。彼女曰く、『時戻し』編んだ糸をほぐすようなものらしく、残滓は解かれた糸の後を読み取るようなものらしい。だから、完全に映像化出来る所もあれば、その陰になり読み取れないものもあるそうだ。
入って行った後、二人になった経緯が、見えないのだ。その部分の時間がぽっかり抜けている可能性がある。
「ただ、部屋の中では陛下と王子様が二人である事は事実だし、陛下が何か食べさせていたでしょ?どっからお菓子なんか出したかは不明だけど……陛下が実行犯だよ。それで良くない?」
(それでもいいかもしれないが、良くない……!俺が気になって仕方がないから良くないんだ!)
「あ、ティモシー。あれは?陛下の後ろの壁に、上着をかける場所があるよね?前はあんまり気にしてなかったけど、陛下は上着を脱がれてないよね……」
確かにそうだ。上着をかけるポールがあり、ウィリアム王とエドワード王子の上着が数着、数種類かかっている。二人は、ソファに腰かけたままだ。
「デルタ、入室すると所からもう一度見せてくれ」
扉の両脇に兵士がいて、部屋に控えていた召使いが中から扉をあける。召使いが外に出て、入れ替わりにウィリアム王と、王子を抱いた乳母が入室して部屋が閉じられた。次の場面は入って来た所からだ。その時、乳母が抱いていた王子を下ろし、陛下が進んで行き、ソファに腰かける。
すると、隣に王子がウィリアム王の助けを借りて腰かける。周りを見渡しても、誰もいない。
「止めて、ちょっと周りをみせてくれ」
周りには誰もいない。ソファの前にテーブルがあるだけだ。後ろには衣装……。まてよ。衣装?
まさか、ここは……クローゼットの中か!
(陛下は、クローゼットの中にいるんだ!)
俺は慌てて宮殿の見取図を出して広げた。
「どうしたの?ティモシー、何か分かったの?」
控えの間の場所を確認した。夜会がある場合は、必ず控えの間を用意する。招待客用にも必要だ。令嬢や夫人たちの衣装を整えたり、ちょっとした休憩、密かな密会に使われる場合もある。
控えの間には、夜会で衣装にトラブルがあった場合のために、予備の衣装を用意しているものだ。
王と王子の控えの間なのだから、彼らの予備の衣装があるのは当たり前だ。そして、その衣装がかけられている場所は……クローゼットだ。室内に仕切られた場所があり、召使いや侍女と入り衣装を整えるために広いスペースが取られている。
一見壁が続いているので、部屋の中央に進んだようにも見えたのだが、王子と二人でクローゼットの中に入って行ったのか?乳母は外に残しているのか?それなら、周りに姿がなくても頷ける。
でもなぜだ?なぜクローゼットの中などに?
見取図を確認すると、扉のすぐ脇にかなり広いクローゼットスペースがある。
「デルタ、この部屋の扉を三時間前から早送りで見せてくれ」
「了解!」
鏡に画像が早送りで投影される。扉の両脇に兵士が二人いる光景は変わらない。同じ画像がずっと続く。もう何もないかと思った頃に、一人の召使いの女がワゴンを持って中に入って行った。部屋の中の支度に訪れたようだ。
その後すぐに兵士の交代があり、暫くしてウィリアム王たちが部屋に来た。そこからはさっきと同じだ。今度は、さっきウィリアム王たちが来た時に扉を開けた召使いが、ワゴンにお茶を準備して戻って来た。これも何度も見た光景だ。お茶を置いてまた出てくるはずだ。
待てよ。先に一人召使いが入っている。扉を開けた召使いは違う女だ。その召使いは最終的にお茶を出して出ていった。
先に入った召使いの女はどうした?映像では中で姿は見えなかった。しかも部屋から出ていない。
「デルタ、一番最初に部屋に入って行った召使いの映像、拡大出来るか?」
「うーん、やってみる」
デルタが、魔法陣に数式を書き足している。それに伴い少しずつ画像が大きくなる。横顔しか見えないが、あれは!
髪は召使いのメイドキャップに隠れて見えないが、間違いない。
「ティモシー!あれ、側室のフローリアじゃない!」
ウィリアム王と王子が入室した時には、フローリアが中にいた事になる。出て行ったのは、扉を開けた召使いだけだ。
(あの女、中で何をしていたんだ?あの時に、毒を持ち込んだのか?)
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