寵愛バトル~ワンオペ王妃ソフィアの苦悩の日々~

高橋 カノン

文字の大きさ
上 下
41 / 50

041 一網打尽の魔法陣

しおりを挟む
「色々わかったぞ」

 ダービルがオートナムから帰って来た。



「何かあったの?」

「ああ。あの側室、飛んでもない女だぞ。薬の行商のふりして、娼館に入り込んだんだ。男を虜にする薬とか、しわに効く薬とかを売り込みにな。簡単に入れてくれた」

「なるほどー。ダービル、頭いいね」

「今分かったのか、デルタ」

 ダービルは、デルタの頭をワシワシとした。



「色々聞いてみたら、フローリアって娼妓がいる間は、皆腹痛だの、下痢やら、頭痛やらでいつも誰かが具合が悪かったらしい。だが、死んでいなくなったら、皆ケロっとしたんだそうだ。災いを呼ぶ女って言ってたぞ」



「え?仲間に、一服盛っていたって事……?やばいな、あんなきれいな顔をして」



「それで、縁起が悪いから、払いの効果のある薬草を炊いてやるって言って、フローリアの部屋に入ったんだ」

「おお!潜入上手いな、ダービル」

「ふふん。もっと褒めてくれ、ティモシー」



「こっそり光らない魔法陣を作動してみたら、部屋中に魔法草の残滓ざんしがあった。草の残滓ざんしなんて本当は微々たるもんだが、あれは毎日何かをやってた後だぞ」

「毒を盛り慣れてるって事か……」



「あと、領主もフローリアの客だったそうだ」



「え?」

 皆で顔を見合わせた。ドット子爵は義父だ。王は知っているのだろうか。



「あと、こっちも分かった事がある」

「公子、いついらしたんですか?」

「さっきだ。ヘルガに会いたくてね」

 ヘルガの髪を一筋取って言う。公子、それはヘルガでなくても、見ているこちまで胸が高鳴るので止めて頂きたい。



「ドット子爵は、ガーランド伯爵夫人の妹のエリス姫との婚約を申請していた。王太后が邪魔をしたがね。貧乏爺に嫁にやろうと画策したが、それを嫌ってエリス姫は自分で命を絶った」



「いつの話ですか?知りませんでした」

「十年くらい前の話だ。王太后はその申請の記録ごと破棄している。なかった事にされたんだ」

 公子は公爵家の諜報部隊”影”を使って、王宮周辺の情報を集めていた。



「エリス姫が亡くなって、母親のシンシア・バークレー夫人は心を病んだ。末の姫とバークレーで死んだように暮らしてるよ」



 ドット子爵とガーランド夫人が、商売以外でつながっている可能性が出てきた。



「ガーランド伯爵夫人からしたら、王太后は憎い相手でしょうね」

「そうだな、ティモシー。それに、本来はバークレー夫人が立后して、オードリー姫が王太子になるかもしれなかったんだ」



「そうなってたら……」

「と、本人たちは思うだろうな」

 ウィリアム陛下が産まれたのは、ただの偶然だ。だが、偶然が運命の輪を回すこともある。



「そこで、だ」

 公子が、最奥の間の中心に、ものすごい魔法陣を広げて光らせた。



「グレッグ、何これ。何十種類の魔法陣を交差させてるの?こんなの、起動出来ないよ」

 ヘルガの言う通りだ。一つの魔法陣が次の魔法陣を起動し、それが三つ組みになって順次、時間をずらしながら、全体の魔法陣を発動させるように見える。これ以上は、ちょっと所見で分かるレベルじゃない。



「すごいだろう?ヘルガ」

 公子は嬉しそうに、ヘルガの賞賛を待っている。



「あの、グレッグ。すごい事はすごい。けど、これ何が発動するの?」

「エドワード殿下を座標化したんだ。どこに居てもエドワード殿下の場所が分かり、初期設定した時に付随していなかったものは、全てマーキングされる」



「と、いいますと……」

 ダービルがおずおずと言う。

「つまり、王子様がどこに居ても、何か飲み食いしたり、体につけられたり、触ったりしたらすぐに分かるって事でしょ?」

「ご明察」

 公子がデルタの頭を撫でた。デルタ、やはり優秀だな……。



「公子、マーキングだけだと、毒や刃物を使われたりしたら間に合わなくないですか?」

「マーキングの瞬間に、物質を異空間に飛ばすから大丈夫だ。それとマーキングは連鎖にしてあるから、その素材や人物に関わった物や者すべてにマーキングする」

「ああ、なるほとー。ここのとこが、排除と連鎖の魔法陣なんだー」

 公子とデルタは魔法陣を眺めながら、二人だけで理解しあっているようだ。



「あの、大変言いにくいのですが」

 これは俺が言わないといけない。

「何だい?」

「これ、人が発動できる魔力の三倍ありますが……」

「うん。だから、ティモシー、君がやってくれ。僕はそこまで魔力量ないからね」



「え?私がですか……。多分死んでしまいますが……」



「大丈夫だよ。ソフィアのためじゃないか。それに、気づいてないのかな?『時戻し』はこれのさらに二倍の魔力がいる。そんなのをやって戻ってきたんだから、これくらい、気持ちよくやっておくれ」



「ええー!これの二倍?」

 部屋にいた全員が叫んだ。



(そ、そうなのか……?)



 俺は必死だったので、魔力量の計算をしないで発動させた。出来るかどうか、そんな事は考えないでやったんだ。



「ソフィアの側には私が付く。ティモシーはこの魔法陣を発動して、他のメンバーは、マーキングの瞬間にその場にいる者を捕らえてくれ。これで、一網打尽にするんだ」



「ヘルガ。これを作るのに、十日も寝ていないのだ……。君の胸で休ませてくれ」

 こうしはヘルガに甘えて、彼女の頭に自分の頭をもたせかけた。こんな男に掴まったヘルガは災難だと言わなければならない。



「……仕方ないわねえ」

 ヘルガは、すっかり一年間放置された事を忘れて、公子を受け入れている。ヘルガ、男の我儘を全部受け入れてはいけない。







 後は具体的な警備体制を組むために、公子と俺はフォースリア公爵家と連携する必要がある。魔塔の全面協力については、公爵家が経済的なバックアップを約束してくれた。



(ソフィア、もう少しだ。待っててくれ……!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

王太子殿下はきっと私を愛していない。

haruno
恋愛
王太子殿下の婚約者に選ばれた私。 しかし殿下は噂とは程遠い厳しい人で、私に仕事を押し付けてくる。 それでも諦めずに努力をするも、殿下の秘書が私を妬んでいるようで……

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

処理中です...