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038 王子が盛られた毒

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「誰が行く?希望者がいなければ、僕が行くよ。美人がいるんでしょ?」

 デルタが言った。



「子供が何を言ってる!仕方がない……俺が行く」

「ずるい!ダービル」

「デルタ、娼館なんかに興味を持つな!」



 オートナムからフローリアが側室に上がるまでの時間調査の結果、フローリアと王の接触はほぼ娼館と領主邸だという事がわかった。そのため娼館に手がかりがあるかもしれないから、誰かが潜入をするかという話になった。



「ダービルばっかり!」

「デルタは娼館で何をするのか、分かって言ってるのか!」

「知ってるよ。でも調査でしょ。ダービルは……遊んでくるつもり?」

「そんな訳あるか!」

 ダービルは真っ赤になって怒っている。



 俺が城を離れる時、デイジー姫に毒が盛られた。前の時間のデイジー姫は、原因不明の病で長く臥せっており、回復の見込みがないと言われていた。今回、時戻しをして俺が解毒しなかったら、そのまま命を落としていたかもしれない。もう、命の危険はない。



 ビアンカ妃は実家から極秘に食料と信頼できる料理人を呼び寄せ、デイジー姫の周りを固め対策を取っている。ここで毒について大騒ぎすると肝心の黒幕に逃げられるかもしれない。ビアンカ妃には申し訳ないが、デイジー姫の命を魔塔が保証する代わりに、一芝居打って貰って、寝たきりに見せかけている。



 そして、急務なのはエドワード王子の解毒剤だ。

 ダービルによると、北宮で見つかった薬草のリストから、組み合わせで十二種類の毒薬を作れる可能性がある事がわかった。今、大急ぎでその解毒剤の調合を進めている。異民族のドルテアでしか使わない薬草が混じっているので、厄介な仕事になるそうだ。



 だが、これで王子の解毒剤を先に準備できる。

 後は、フローリアの背後の黒幕の尻尾を掴む仕事が残っている。



 公子は帰国を悟られないように、公爵邸で密かに活動していた。時折魔塔に現れて、俺の体を通じて時空を確認して、また邸に戻って行った。ヘルガが可哀そうだが、今は我慢してもらうしかない。



「グレッグは何をしているの……?」

「ヘルガ、俺もよく分からんが、何かを作っているようだ。敵を一網打尽に出来ると言っていたが。試作が出来たら教えてくれるらしい」

「天才のする事だからね……先に言われてもわからないか……」

「悪いな、ヘルガ……」



「何言ってるの!この一大事に。私だって王子様と王妃様を助けたい。今は私情を挟んでる時じゃないよ」

「ありがとう……この恩は必ず……」

「でもさ、何であんたが恩を返すの?まさか、王妃様ともうそういう……?」



「ば、馬鹿を言え!ソフィアはそんな女じゃない。立派な王妃だ!」

「だよねー」

 ヘルガはニヤッと笑って、俺の胸をつついた。分かってる。俺は分かりやすいんだ。気づかないのはソフィアと公子くらいだ……。





「じゃあ、ティモシー、言ってくるぞ!」

「頼んだぞ!」

 ダービルの魔法陣が軌道し、オートナムに向かった。人に見られないために、極力転移移動をすることになっている。



 ***



 俺の体の残滓を使って、時間軸の一斉捜索を行った。最初はフローリアの犯行だと当たりをつけてオートナムの調査を先に行っていた。彼女がドルテアだと分かり、媚薬や薬草の存在までは突き止めた。だが、どうやって王子に毒を盛ったのかが分からなかった。前の時間で俺が見た時は、既に王子が血を吐いて倒れていた。紹介の儀で重臣の挨拶を受ける時には、元気にしていたはずなのだ。



 それなのに、突然血を吐いた。



 解毒剤があっても、出来るだけ毒を飲ませたくない。まだ三歳の幼児だ。解毒しても重篤な後遺症が残る可能性もある。解毒剤は、あくまで命を救うための保険だ。



 時間調査をした時に、一度映像として具現化した像は保存が出来る。俺たちは紹介の儀から細かく時間を遡り、場所を変え、網羅的に宮殿を隈なく探索した画像を、壁の鏡に投影した。



「デルタ、コマ送りで宮殿中の映像を映し出してくれ」

「分かった」



 鏡に画像が細かく表示される。どこだ。王子に誰が毒を盛った?デルタが画像を次々に送り、映し出される画面が変わる。その時、俺はあるシーンが目に留まった。

「デルタ、止めろ」

「これ?」

 ウィリアム王とエドワード王子だ。控えの間だろうか……?王自ら何か小さな物を、王子の口に入れていた映像があった!



 王子は父親のウィリアムを信頼して口を開けた。そこに、子供の口に楽に入るサイズの丸い菓子?のような物を入れていた。あれは何だ?王子の顔がほころんだ。甘い物を口にしたような顔だ。おそらく菓子だ。毒見をしたとも思えない物を、王子の口に入れるとは……。



 何度も同じコマを前後して映した。



「ティモシー、あれ、何だろうね?」

「菓子か?子供が口に入れてあんな顔をするのは、甘いものだろうな……」

 側に王妃のソフィアの姿は見えない。側近や召使いの姿もない。少し待って、フォースリア公爵が部屋に入って来た。



「王と王子が二人きりか……」



「多分、あれが毒じゃないかな」

「……遅効性の毒って事か?」

「だろうね。王子様は、食べていきなり倒れた訳じゃないみたいだね」

「飲み物かと思ったんだけどな……」



「味、じゃない?毒草は大体苦い。子供って、苦い物苦手でしょ?あれは毒を避ける本能なんだよね。砂糖やクリームで味をごまかしているのかもね。飲み物だと苦味を隠すのが難しいんじゃないかな」



「ウィリアム王が自分の子供に毒を?」

 ヘルガが疑問を口にする。さすがに、俺もそれは信じたくない……。ソフィアに何て言えばいいんだ。



「知らなかったんじゃない?」

「そうね、デルタの言う通りかもしれない」



「待て。何か変だ……」

 何か気になる。この画面に違和感がある。



「あ!……乳母がいない……」

「乳母?」

「そうだ。貴族の子供の側には、必ず乳母がいるものだ。貴族の両親は立場があるので、いつも子供の側にいられない。その代わり、必ず乳母が側にいるものだ。まだ三歳の王子を、乳母が父親とはいえ王に任せるとは思えない」

ヘルガとデルタは貴族ではない。だから、この画面の違和感は貴族でないと気づかないのかもしれない。



「じゃあ、何で二人なんだろう?」

デルタはさらに前後の映像を確認していく。



 簡単には信じられないが、実行犯は父親のウィリアム王だ。俺たちは当日、絶対に王子と王を二人きりにしてはいけないんだ。

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