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028 ティムの秘密の告白

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私は久しぶりにルイスの診察を受けたいを思った。

「宮廷医のルイスを呼んで頂戴」

 執務室から自室に戻って、侍女のローレンに頼んだ。



 暫く待っていると、何とティムが入って来た。



(ティム!)

 思わず胸が熱くなり、泣きそうになってしまった。泣く訳にはいかないので、ぐっと涙を堪えた。



「王妃陛下には、長のお暇を頂き、誠にありがとうございました。また、改めてお仕えさせて頂きます」

「十日だと言っていたのに……」



「はい。思ったより準備に時間がかかりまして。王子様の紹介の儀に間に合って良かったです」



(準備?それにもう紹介の儀の事を知っているの?)



「お父様に聞いたの?」

「王子様のご体調の事もありますので、後ほど診察がてらご相談させてください」



(あら、逃げたわね)

「エドワードは最近とても体調がいいわ。紹介の儀にも十分耐えられると思います」



 紹介の儀は、夜会の開催とともに行われる。未成年の王子である事がほとんどなので、冒頭に王子が、主要な重臣の挨拶を受けるというものだ。時間にしたら、数十分くらいだ。



 ウィリアムの時も五歳だったので、前宰相の私の祖父が手をつないだと聞いている。



「王妃様、ご体調はいかがですか?」

「良くはないわ」

「そうですか。魔力の調整をいたしましょう。お部屋で行う事は出来ませんので、医務室にお越し下さい」



 私は侍女のローレンと連れ立って、ティムと医務室に行った。私が医務室に通うのは、宮殿ではもう見慣れた光景だ。

「王妃様ようこそ」

 ルイスが迎えてくれて、いつもの通りルイスの執務室で脈を診て、薬を調合してくれる。その間に、ティムが両手を取り、魔力を細く流してくれた。瑞々しい魔力が心地良い。



(ああ、ティム癒されます)



「塊が無数に出来ています」

 目をつむって魔力を調整しているティムが、苦い顔をした。



「色々あったの……」

 体全体が涼やかな風に吹かれたように、さっぱりとした。体重が半分になったように軽くなった。すると、ルイスとローレンが意外な事を言った。



「では、王妃様。我々はこちらの部屋で控えておりますので……」

 ルイスの執務室の中は、診察室と控えの間がある。ルイスの書籍や医療器具などがあるようだ。この部屋が廊下から隔てて一続きとなっている。ティムがルイスなしで診察を行う事を、以前ウィリアムから咎められており、私とティムが二人きりにならないように彼らがいるのだ。廊下からは分からないので、黙っていれば分からないが、立場的にまずい。



 私が怪訝な顔をすると、ローレンがまた妙な事を言った。

「公爵様からお許しを得ております。お話が終わりましたらノックして下さいませ」

 執務室のドアを閉めると、声が聞こえない作りらしい。



「ティム、何か事前に皆で打ち合わせているのかしら?」

「ソフィア、いいかい。よく聞いて」

 このティムの言い方は、入り江で話した時と似ている。何かあったのだろうか。



「紹介の儀は危ない」



(え……?)



「紹介の儀でエドワード様の……お命が狙われる。君は王子を救おうと命を落とすんだ……!」



(ティム?何を言っているの?)

 話が全く分からない。



「君は死んでしまうんだよ……」

 ティムは診察台に座る私の手を握って、絞り出すような声で言った。



 私は深呼吸して、彼の言葉を頭の中で反芻した。父がこの話をする状況を許したという事は、父も知っているのだろうか?ティムがこんな縁起でもない冗談を言うとは思えない。



 私はさっきよりさらに深い深呼吸をした。

「詳しく話して……」



 ティムと二人でソファに腰かけて、驚くような話を聞いた。



「紹介の儀でエドワード様が毒を盛られる」

 私は、息を呑んだ!

「ウィリアム陛下が……お菓子を与えて、それに毒が入っていたのだ。血を吐いて倒れるエドワード様を見て、心臓が止まりかけたエドワード様に君が必死で魔力を送り込むんだ。そして、君の魔力が暴走する。エドワード様の心臓が動き出した時、君は自分の魔力の暴走で心臓が止まるんだ……」



 私は手が冷たくなり震えてきた。ティムが私に駆け寄り、手を握って魔力を流してくる。でも中々、心臓の速さが収まらない。



「ああ、ごめんよ。こんな話は聞かせたくなかった。俺が何とか裏でこの事件を解決したかったんだ。そのために戻って来たのに……」



「戻って来たって……?」

 震える声で尋ねた。



「俺は時を遡って来た。前回の紹介の儀の時は、直前に留学から帰って来たばかりだった。だから、君や王宮内の事情も知らず、目の前で君を失った。その時の俺の絶望と言ったら……」

 ティムは自分の髪を搔きむしり、声に涙が滲んでいる。



「俺がルイス医師から呼ばれて、王妃宮で君に挨拶した日の事を覚えている?あれば、『時戻し』を行った日、だったんだ」



(あの日?)



「事件の後、君が亡くなり王子も重症で目覚めない。菓子の出所は分からず、犯人は見つからなかった。王子は昏睡状態で、公爵様も捜索とエドワード様の心配で憔悴しきっていた。それなのに、そんな時にウィリアム王は……フローリアの懐妊を公表したんだ。王宮は騒然となった。ガーランド家が、その産まれたお子の後見になる事も発表された」



「どうしてっ!」

 私は小さく叫んだ。



「フローリアの仕業だ。俺は直感的にそう思った。そして、時を戻す事を選んだんだ。時戻しには交換条件がある。一年戻すには十年の寿命が必要だ。俺は自分の寿命を削って、一年前に戻って来た……」



「ティム!何てこと!」

「ふふ……。君のいない世界で苦しむくらいなら、十年早死にするなんて何でもないよ」



 私は声を出さずに号泣した。時戻しの秘法は聞いた事がある。魔塔でも禁忌とされる術のはずだ。ティムは優しく涙を拭いてくれて、話を続けた。



「あの、秋の日。生きている君に会って、本当に戻って良かったと思った。長生きなんてクソくらえだ。ただ、誤算だったのは、王子の体に君の魔力が残っている事だった。時は戻ったけれど、王子の体に君の魔力が渦巻いていたんだ」

「本来はない魔力だから……」

「そう。魔力がない体質なので、出口がないんだよ」

「大丈夫なの?」

「ああ、王子の体内の魔力は、俺がほとんど抜いたからね」



「私、どうすればいいの?」

「君と王子は、俺が守る。そう言ったでしょ?」



(でも……どうやって……?)

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