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「だから、イヤなんだ」

 一ノ瀬の肩を押す。
 泣きたいくらい、嫌い。

「ごめん、真夜、俺が悪い」

 俺の日常が壊れた。
 完全に咲だ。
 でも、咲に情報を漏らしたのは一ノ瀬だ。
 でも、咲に情報を与えたのは、俺だ。

「俺、嫌だって言ったよね? 大学では静かにいたいって、言ったよね?」

 抱き締められたから、一ノ瀬の胸を叩く。
 涙が流れる。
 なんで?
 ひっそりみんなの見えないところで生きていたのに。
 人混みも嫌いだけど、人に噂されるのも嫌い。
 なんで? 男が好きってそんな、みんなに迷惑かけた?

「もうさ、近づかないでくれない? 一ノ瀬がいなかったら、卒業まで静かにいられた」

 八つ当たりだ、わかってる。
 一ノ瀬が傍にいて嬉しかった気持ち、ある。
 好きだって思った。
 ちゃんと言いたいって、思ってた。

「俺が悪いから、もう何も言われないようにするから、もう少し、時間くれないか?」

「嫌だ、おまえが咲って子と、付き合えば良いんだ。そうしたら、俺なんて見られないから」

 言いながら、嗚咽が漏れる。
 このぬくもりを手放す?
 もう二度と、会えない。
 傍にいる。傍にいたい。
 でも、胸の中のムカムカが酷くて、言葉が止まらない。

「咲に何を言われた? それだけでも教えてくれ」

「……そんなの、あの人に聞けば良いだろ? 幼馴染で大事なんだろ? あんな可愛い子、ずっと傍にいて、腕く組んで歩いてさ、すごい似合ってて、みんなも憧れてて、……もう、イヤなんだ、許して、一ノ瀬」

 一ノ瀬の力が抜けた。
 だから押した力で簡単に逃れられた。
 それでハッとする。
 本当に終わってしまう。
 その予感に鎖骨の辺りが軋むように痛んだ。

「……ごめん、俺のせいだ。そこまで真夜を傷つけてしまったんだな。本当にごめん。許してくれ」

 一ノ瀬が離れて行く。
 深夜のコンビニまで、会いに来てくれた。
 大学での異変に、構内では傍にいないのに、ちゃんと察知してくれて、こうして会いに来てくれたのに。

 去って行く一ノ瀬の背中が遠い。
 ここはいつも通り、強引にしてくれないのか?
 最後まで宥めて、お得意の巧みな言葉で言い包めて、ベッドに誘って、朝まで一緒に。

 もう、いい。
 普段に戻るだけだ。
 たったひと月の、ほんの短い付き合い。

 たったひと月、なんだな。
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