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 コンビニのバイト中。
 シフトが同じになった大学の後輩に聞いた。

「3回生の一ノ瀬って知ってる?」

「知りません」

 即答だった。
 えっと、世間の認識と俺の認識がずいぶん違うようだ。

 あれ?
 なんでだろう。

 掃除をしながら考える。
 最初に一ノ瀬を見たのはいつだった?

 きっと最初の講義の時。
 講義室ですれ違った。
 スカしたヤツがいる。
 でも友人といる時は笑ってる。
 普段は表情筋、死んでる。

 ……えっと、なんで?
 俺、一ノ瀬見てる。

 だって、目立つから。
 目立つ、よね?

「一ノ瀬って誰ですか?」

「俺の友達。昼に構内カフェで集まってるグループ、知らない?」

「知ってます」

 やっと話題に食いついて来た。

「私、咲先輩、すっごく好きで~」

「さき先輩?」

 今度は俺がキョトンとする。

「えー知らないんですか? 咲先輩ですよ? SNSで動画いっぱいあげてて、すっごく有名なんですよ?」

「……知らない」

「あのグループの何人かで動画載せてるから、見てくださいよ~咲先輩っすっごい可愛いから」

「……あ、はい」

 興味ない。
 でもスマホで検索してみる。
 っていうか、一ノ瀬も出てるの?

「見なくて良い」

 スマホを取り上げられて、驚く。

「一ノ瀬」

「誰ですか?」

「友達」

 あー面倒。
 付き合ってるなんて言える訳ない。
 のに、一ノ瀬の顔が怖い。

「一ノ瀬先輩、はじめまして~」

 ほら、やっぱり、本人目の前にすると、カッコいいって思うよね?
 態度、全然違う。
 すごい、媚び。

「ああ、」

 って、一ノ瀬、冷たい。
 バイトの後輩なんだから。
 その返しはイケメンだからできるヤツ。

「そろそろ上がる時間だろ? あとはやっておくから、帰って良いよ」

「はぁーい、ありがとうございます。おつかれさまでした」

 おじぎが斜めだ。
 ……まぁ良い。
 今はそんなことより、なぜ一ノ瀬がここにいるのか。

 約束はしてない。

「片付けして来る」

「待ってる」

 だろうね。
 交代、早く来れば良いけど。
 自動ドア開けて出て行く背中を見送る。

 レジ前に行くと、後輩がもう着替えて出てきた。

「さっきの人が一ノ瀬先輩ですか? すごいカッコいいです」

「……そう」

「おつかれさまでーす」

 すごい笑顔で出て行った。
 その背中を視線で追う。
 一ノ瀬がいる。
 向かいのガードレールに緩くもたれてる。そこに後輩。

 身長差。
 媚びた笑顔。

 一ノ瀬はバイだったかも。
 できそうだよな、器用だし。

 一ノ瀬は無表情。
 塩対応なんだろうけど。

 大学でもよく見る光景。
 一ノ瀬、友達には笑うから。
 対応も優しい。
 こういう、知らない人からのアプローチには塩対応。

 だからか。
 友達でもない同回生や後輩の受けが悪いの。
 隣で笑って、あの顔に見つめられて、優しくされて……やめよう。

 考えるだけで顔が赤くなる。
 変に気持ちだけ期待した。

 なんだかな。
 淡白だと思ってたのに。
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