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「なんで俺?」

 昼休み、コンビニで買ったパンを屋上で食べていたら一ノ瀬が来て隣に座った。

「良い場所知ってるな」

 絶対、後をつけられた。

「一ノ瀬はカフェ派だろ?」

「良く知ってるな」

 誰でも知ってる。
 一ノ瀬がカフェに行くと、友人が集まって行き、一角を陣取る勢いで席が埋まる。しかも派手な人が多くて目を惹く。

「一ノ瀬を知らないヤツなんていないだろ」

「そんなことねえよ」

 パキッとプルタブを開けてコーヒーを飲んでる。

「友達になれねえ?」

「……なれない」

 早くパンを食べ終えて帰ろうと思っているのに、面倒な質問をして来る。

「……なんで? そんなに嫌?」

 一ノ瀬が俺を見てショックそうな表情をしている。こっちがなんでと聞きたい。

「嫌っていうか、今更だろ? 就活始まるし、そんな遊ぶ気分でもないし」

「俺は逆」

 は? と、一ノ瀬を見ると笑っている。少しテレたように。思わずじーっと見た俺を見て、言い淀み、ため息をついてから、もう一度、視線が合う。

「俺はちゃんとした付き合いがしたい。就活あんのは俺も同じだし、遊んでられねえから、お互いに落ち着ける相手、欲しいと思ってる」

「見つければ良い」

 みつかるだろ、すぐ。
 別に俺じゃなくても良い。むしろ俺じゃない方が良い。

「おまえが良いって言ってる」

 また手を取られる。パン食べてるんだって。手取られたらバランス悪い。

「なんで? 2年半すれ違っても話したことないし、一ノ瀬、俺がゲイだってわかったって言ったろ? なんで今さら?」

「今だから。真夜とは遊びで付き合うって選択はなかった。遊びで付き合うの、しないと思ってたから」

「するよ」

 する。月2程度だけど、店に行ってテキトーに遊べるヤツとホテル行ってた。その時の相手によって受けも攻めもする。割り切った関係が楽だからだ。

「そうらしいな」

 指を絡められた。
 パクッとパンを齧る。
 屋上には誰もいない。給水塔の陰になっているから、別の建物からも見えない位置だ。

「けど、大学内のヤツとはしねえだろ?」

「それはまあ、そう」

「だろ?」

 だろって嬉しそうにされても、良くわからない。だからダメだってことだろ。

 一ノ瀬から手を奪い返して、食べ終えたパンの袋をコンビニの袋に入れる。ペットボトルの紅茶を飲んで、一ノ瀬がじっと見ていたのを知る。妙に恥ずかしい。

「ハナに真夜の話し聞いて、興味持ったの、最初。ずっと接点ねえなって思ってて、あの日会えて嬉しかった」

「ハナ?」

 それはどんな話し? 俺がハナを抱いてどうだったかっていう話し? 引くほど嫌ですけど。

「ハナとは一回だけだよ。可愛いけど、俺はもうちょっとガタイ良いヤツが好みだから。ハナに手出さないよ」

 ハナで良いだろ? 一ノ瀬にはハナみたいな可愛い子が似合う。

「俺は?」

「対象外」

「……冷てえ」

 一ノ瀬の不満顔を見ながら立ち上がる。天気が良い。伸びをして、一ノ瀬を見れば、まだ不満顔だ。思わず笑う。

「一ノ瀬だったら相手いくらでも見つかるだろ? 俺じゃなくても良いよ」

 じゃあなと背を向けた。
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