イケメンってズルいと思う。

2

　……だから、俺は、こういうの慣れてなくて、だからワザと避けていたのに。

　隣の席に一ノ瀬が座った。
　周りには「仲良かった？」「珍しくない？」っていうような声と視線。

　テキスト忘れたと間を詰められて、同じ文字を追っている不思議。椅子に置いてた手に一ノ瀬の手が触れる。

　ワザとだ。絶対、反応見て楽しまれてる。

「……からかわれるの、嫌なんだって」

　すっと手を抜いて、一ノ瀬を睨む。
　視線が合って、どうしていいかわからなくなる。

「ほかにいっぱい友達いるだろ？　なんで俺？」

「気になるから」

「いや、迷惑だから」

　一ノ瀬のナンパな発言に白ける。3駅も離れた店に行くのは、日常生活でゲイバレしたくないからだ。

「もう声、掛けるなよ」

　俺がそう言うと、スマホを取り出している。

「連絡先教えろよ。そしたら声掛けねえでも会えるだろ？」

「嫌だ」

　一ノ瀬と会ってどうしろと？

「じゃあ、声かける」

　睨むとニヤッと笑われた。

「ハナでいいだろ？　他にもいっぱいいるんだろうし」

　あの日、ハナをお持ち帰りしたんだろ？　それとも別の誰か？
　接点もなく、すでに2年半を過ごして来ている。大学内での交友関係とか立ち位置とか、今更、変えたくないし、煩わしい。

「俺は別にゲイバレしても良いけど？」

　手を取られて、甲にキスされた。しかも少し舐められた。思わず手を引き、辺りに視線を向ける。みんな講義を聞いてるけど、見た人もいたかもしれない。

「迷惑」

「だったらライン教えろ」

　クッソーーーッと思う。内心イライラしながら、ラインを教える。

　登録した一ノ瀬は俺の後頭をクシャクシャに撫でた。

「やめろって」

　机に突っ伏して怒りに耐える。
　イケメンは無理。自分の行動の影響力をわかっていて行動している。

　それで相手が勘違いしても、そんな気なかったごめんで終われて、非難されるのは勝手に勘違いしたヤツ。

　あんたみたいなヤツが選ばれると思う？　そんなフツウの見た目で、特に何が得意ってでもなくて、金持ちでもない。付き合っても面白くないし。楽しくもない。

　イケメンの周りにいるヤツが嫌いだ。イケメンに選ばれたワタシは特別だと思っている。

　イケメンの隣にいて良い基準を設定している。

　その輪の真ん中で、我関せずとシラーッといられるヤツの気が知れない。

　分かり合える要素が見当たらない。

　一ノ瀬の待ち受け画像は黒猫だった。