筋肉が好きすぎて騎士を目指したのに僕ってそうなの?

サクラギ

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本編

22 助け

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 目を覚ますと、すごい光景が広がっていた。
 僕は地面に寝かせられていて、頭をヴァイス王子の膝に乗せている。

「気づいたか」

 優しい眼差しがあった。
 うんって言って起き上がろうとして、体が痛くてたまらなくて、起き上がれなかった。

「すごいね、竜」

 上空に竜が何頭も舞っている。咆哮を上げ、怒りを露わにした竜たちが、王城の上空を旋回したり、屋根や塀の上に止まり、見下ろしている。

「おまえが怪我をしたから助けに来たんだ」

「僕のせい?」

 そう言ってヴァイス王子を見ると、僕の喉に手を触れさせて来た。

「声、初めて聞いた」

 そう言われて、普通に話していることに気づいた。喉に手を当てているヴァイス王子の手に触れ、あーって声を出したら、ヴァイス王子に笑われた。

「王子」

 って呼んだら、顔を顰められた。呼んだらダメだったのかなって悲しくなる。

「俺はもう王子ではないよ。ヴァイスで良い」

「バイス」

 って言ったらふふって笑われた。

「ヴィで良いよ」

 発音があるらしい。僕はその発音をうまくできなかった。だから笑ったのかって恥ずかしくなる。でもヴィって呼んで良いって言われて嬉しくなった。たぶん愛称で呼ぶの人は少ないと思うから。

「ヴィ」

 って言うと、膝に乗せている頭を支えられ、背を支えられ、抱き起されて膝に座らされた。
 強く抱え込まれて、体が痛かったけど、すごく嬉しい。やっと会えたって思った。

「怪我、酷くて驚いた。むちゃはしないでくれ」

「ごめんなさい、会いたくて、必死で」

 そう言うと、いったん手の力を抜いて、僕の顔を見ると、痛そうな顔をして、もう一度、抱き締めてくれた。

「ごめん、俺の不注意でこんなことになってしまった。本当はすぐに会いに行きたかった。おまえにこんな怪我をさせるなんてな、本当にごめん」

「ううん、大丈夫だよ、ヴィも怪我してる。大丈夫?」

 ヴィも殴られたり、蹴られたりしたのだろう。体にたくさん傷や打ち身がある。手は鎖でつながれていたから、紫に腫れていて、痕が残っている。

 ふたりで話していると、騎士がひとり、近づいて来た。その向こうには馬車が見える。
 騎士は膝をつき、騎士の礼をする。

「ヴァイス様、馬車のご用意ができました。国境までお送り致します」

「アシュリは?」

 ヴィがそう言うと、騎士は再度視線を伏せる。

「陛下が竜へ差し出しました」

「……そうか」

 竜が怒りを見せている。まだ怒りが治まらないと、上空を旋回している。
 そのうちの一頭が僕の傍に来て人型になる。
 水色の髪の竜だ。

「ごめんね、ごめんね」

 僕の横に倒れるように跪き、子どものように泣きじゃくった。
 その首に首輪はない。それが何を意味するのか、わかったけど言葉にはしなかった。

「行くよ」

 ヴィが僕を抱え、馬車の方へ歩き出す。僕は水色の竜に何も言えなかった。なんて言葉を掛ければ良いのかわからなかった。

 騎士が僕らを案内して、馬車に乗せてくれた。
 僕は馬車の中で、離れたくなくてヴィに抱き着いている。

「体、痛いんじゃないのか? 寝ていろ」

 僕は首を振る。まだ涙が溢れて来る。

「どうして鎖でつながれていたの?」

 そうやって聞けば、ヴィは僕の髪を撫でて、こめかみにキスをしてくれる。

「俺はアシュリを可愛いと思っていた。だから裏切られると思わず、隙を突かれてしまった。まだ幼いからとみなで甘やかしてしまったせいだろう。ゆがめてしまったのは大人の責任なのだろうに……」

 僕を閉じ込めて怪我をさせたリフィは処刑されてしまった。
 僕を物のように運び、運命の相手から遠ざけた。竜を従える首輪をつけ、僕を助けることをさせなかった。
 竜はアシュリを殺した。だから彼が従えていた竜の首から首輪が外れた。

「国ごと消されても仕方のない状況だった。だが陛下が尽力下さったのだろう。国は無事だ。それならもう良い」

 僕はヴィに抱き着いた。もう離れたくない。ヴィのぬくもりが嬉しい。
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