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本編
19 おむかえ
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隣国からの使者は、飛竜に乗って来たから、僕が話を聞いた次の日にやって来た。
僕はまた、王座の前にいる。でも今度はアルブの後ろに控えるのではなく、高そうな服を着せられ、騎士団を背後に置き、アルブが僕の隣に立ち、人型になった竜が僕を見守っている。
とても重々しい雰囲気の中、僕は隣国に連れられて行くのだ。
父さまに挨拶もできていない。ずっと守られる為に空の竜の家にいた。どこから刺客が入って来るのかわからないから、空の方が安全っていうのはわかる。でも父さまに挨拶はさせて欲しかった。
隣国の使者が入って来る。
隣国の制服に身を包んだ竜騎士たち。その先頭に国を代表する王族がいる。ヴァイス王子ではなく、もっと小さな子ども。メイよりも小さい。たぶん12,3歳くらいだろうか。堂々とした態度で先頭を歩いている。
王座の前に立つと、胸に手を当て、王に挨拶をした。堂々とした態度は崩れることなく、臆することもない。
僕はその光景をぼんやりと見ていた。だから急に抱きかかえられてびっくりした。思わず声を上げそうになる耳元に、ジルの声が聞こえて、ジルに寄り添った。気分の悪いふりをしてください。それがジルの言葉だった。
アルブが一歩を踏み出し、隣国の使者に礼をする。
「緊張のあまり気分が悪くなったようです。しばらくお時間を頂きたい」
王がアルブの訴えを聞き、急遽、休憩が入れられることとなった。
僕は良くわからないまま、ジルに抱きかかえられ、王城奥の舞台に連れて行かれ、竜化したジルの背に乗って、空の竜の家に連れて行かれた。たぶん人にも聞かれたくない話があったのだろう。
竜化を解いたジルに抱き締められた。
状況の呑み込めない僕はジルにされるがままだったけど、ジルが戻って来た後を竜たちが追って来て、竜化を解いて僕によって来る。
「あの小さな者から黒竜の血の匂いがしている」
ジルが僕の前に膝を付き、僕を見上げるようにしてそう言った。
僕は初め、どういう意味かと思った。黒竜の血の匂い。だってヴァイス王子は内乱を治めに行ったのだ。血を流すこともあるだろう。あんな小さな王子なんだから、ヴァイス王子がかばって血を受けたとか、そういう想像しかできない。僕はきょとんとしていたのだろう。竜たちが心配そうに見ている。
「血の匂いには二通りある。血に負の感情がないもの、負の感情に彩られたものだ。あの王子に付きまとう血の匂いは、黒竜の負の感情がある。あの王子が黒竜に何らかの傷を負わせたということだ」
「大丈夫だよ、メイ、人は知らないかもしれないけど、あの王子は黒竜だから、多少の傷で死んだりしない。傷が深くて動けないことはあるかもしれないけど、大丈夫、会えるよ」
フィンがそう言って背を撫でてくれる。
「どうする? メイ、俺たちにはわかるが、人はあいつらの思惑などわからない」
レンが僕に問いかけて来る。でも僕には返す言葉がない。まだ話せない。とてももどかしい。
「あの国の竜にもヴァイス王子が竜であることがわかっている。それなのに王子と共にメイを迎えに来るということは、何らかの力で従えられているのだと思う。信用はしない方が良い」
ジルはそう言って、最悪の事態だとつぶやいた。
「でもあの竜の中に王族がいたよね? 王族がいるのに、薬を使われているとは思えないけど?」
フィンがそう言うと、レンが後を継ぐ。
「王族を薬で従えたら、同じ系列の王族には異変を察知できる。それを知ってそのままにする王族はいない。ということは、あの竜たちは薬ではなく、自身の思惑で彼らに従い、メイを引き取りに来たと思えるけど?」
「そうかもしれない」
ジルは深く頷いた。
僕はみんなの話し合いを聞いても、着いて行かないという選択はできないと思った。
僕の知らないところで、ヴァイス王子が傷ついている。それを知っているのはあの小さな王子だ。少なくとも彼らに着いて行けば、ヴァイス王子に近づくことができる。
僕は着いて行くと言う意思表示を、隣国の方に指をさして示した。
「行くの?」
フィンが言う。
僕はこくんと頷く。
「どうして? 怖い目に合うかもしれないよ? 竜がぜんぶ優しいとは言えないんだよ?」
フィンが心配してくれているけど、それを見て首を振った。
僕は閉じ込められて、何日も食事を取らなくても、蹴られたり、首を絞められたりしたけど、死ななかった。だから大丈夫。痛いけど、我慢できる。それよりも今も傷ついているかもしれないヴァイス王子が気になる。もしかしたらぜんぶ嘘で、ちゃんと僕を待っていてくれるのかもしれない。ただ怪我をして動けないだけかもしれない。
「メイが決めたのなら私たちに止める権利はない。ただメイに何かあった時は、私たちだけではない、竜の谷の者たちも、メイを助けに行くだろう。そうなれば、隣国だけではない。全世界の竜が人を見限る。そういう機会になることを覚えておいて欲しい」
ジルは真剣にメイに向き合っている。
僕は竜の王族らしい。竜化もできないし、言葉さえも話せない。でも竜には僕がそう見えているし、そう見えるから優しく接してもらえている。
アルブだって、この国の王様だってそうだ。僕が特別だって思っているから、僕を保護してくれている。
僕の存在が危ういことは、以前のアルブとジルの会話からもわかっている。
僕が迂闊なことをしたら、世界の均衡が崩れてしまう。そういうことだと思う。
でも僕はヴァイス王子に会いたい。
もうずっと待ってる。
本当は飛んで行きたい。竜化できない自分がもどかしい。自分で行けたら、こんなに皆を巻き込むことはなかった。僕が中途半端な存在なばかりに。
僕はまた、王座の前にいる。でも今度はアルブの後ろに控えるのではなく、高そうな服を着せられ、騎士団を背後に置き、アルブが僕の隣に立ち、人型になった竜が僕を見守っている。
とても重々しい雰囲気の中、僕は隣国に連れられて行くのだ。
父さまに挨拶もできていない。ずっと守られる為に空の竜の家にいた。どこから刺客が入って来るのかわからないから、空の方が安全っていうのはわかる。でも父さまに挨拶はさせて欲しかった。
隣国の使者が入って来る。
隣国の制服に身を包んだ竜騎士たち。その先頭に国を代表する王族がいる。ヴァイス王子ではなく、もっと小さな子ども。メイよりも小さい。たぶん12,3歳くらいだろうか。堂々とした態度で先頭を歩いている。
王座の前に立つと、胸に手を当て、王に挨拶をした。堂々とした態度は崩れることなく、臆することもない。
僕はその光景をぼんやりと見ていた。だから急に抱きかかえられてびっくりした。思わず声を上げそうになる耳元に、ジルの声が聞こえて、ジルに寄り添った。気分の悪いふりをしてください。それがジルの言葉だった。
アルブが一歩を踏み出し、隣国の使者に礼をする。
「緊張のあまり気分が悪くなったようです。しばらくお時間を頂きたい」
王がアルブの訴えを聞き、急遽、休憩が入れられることとなった。
僕は良くわからないまま、ジルに抱きかかえられ、王城奥の舞台に連れて行かれ、竜化したジルの背に乗って、空の竜の家に連れて行かれた。たぶん人にも聞かれたくない話があったのだろう。
竜化を解いたジルに抱き締められた。
状況の呑み込めない僕はジルにされるがままだったけど、ジルが戻って来た後を竜たちが追って来て、竜化を解いて僕によって来る。
「あの小さな者から黒竜の血の匂いがしている」
ジルが僕の前に膝を付き、僕を見上げるようにしてそう言った。
僕は初め、どういう意味かと思った。黒竜の血の匂い。だってヴァイス王子は内乱を治めに行ったのだ。血を流すこともあるだろう。あんな小さな王子なんだから、ヴァイス王子がかばって血を受けたとか、そういう想像しかできない。僕はきょとんとしていたのだろう。竜たちが心配そうに見ている。
「血の匂いには二通りある。血に負の感情がないもの、負の感情に彩られたものだ。あの王子に付きまとう血の匂いは、黒竜の負の感情がある。あの王子が黒竜に何らかの傷を負わせたということだ」
「大丈夫だよ、メイ、人は知らないかもしれないけど、あの王子は黒竜だから、多少の傷で死んだりしない。傷が深くて動けないことはあるかもしれないけど、大丈夫、会えるよ」
フィンがそう言って背を撫でてくれる。
「どうする? メイ、俺たちにはわかるが、人はあいつらの思惑などわからない」
レンが僕に問いかけて来る。でも僕には返す言葉がない。まだ話せない。とてももどかしい。
「あの国の竜にもヴァイス王子が竜であることがわかっている。それなのに王子と共にメイを迎えに来るということは、何らかの力で従えられているのだと思う。信用はしない方が良い」
ジルはそう言って、最悪の事態だとつぶやいた。
「でもあの竜の中に王族がいたよね? 王族がいるのに、薬を使われているとは思えないけど?」
フィンがそう言うと、レンが後を継ぐ。
「王族を薬で従えたら、同じ系列の王族には異変を察知できる。それを知ってそのままにする王族はいない。ということは、あの竜たちは薬ではなく、自身の思惑で彼らに従い、メイを引き取りに来たと思えるけど?」
「そうかもしれない」
ジルは深く頷いた。
僕はみんなの話し合いを聞いても、着いて行かないという選択はできないと思った。
僕の知らないところで、ヴァイス王子が傷ついている。それを知っているのはあの小さな王子だ。少なくとも彼らに着いて行けば、ヴァイス王子に近づくことができる。
僕は着いて行くと言う意思表示を、隣国の方に指をさして示した。
「行くの?」
フィンが言う。
僕はこくんと頷く。
「どうして? 怖い目に合うかもしれないよ? 竜がぜんぶ優しいとは言えないんだよ?」
フィンが心配してくれているけど、それを見て首を振った。
僕は閉じ込められて、何日も食事を取らなくても、蹴られたり、首を絞められたりしたけど、死ななかった。だから大丈夫。痛いけど、我慢できる。それよりも今も傷ついているかもしれないヴァイス王子が気になる。もしかしたらぜんぶ嘘で、ちゃんと僕を待っていてくれるのかもしれない。ただ怪我をして動けないだけかもしれない。
「メイが決めたのなら私たちに止める権利はない。ただメイに何かあった時は、私たちだけではない、竜の谷の者たちも、メイを助けに行くだろう。そうなれば、隣国だけではない。全世界の竜が人を見限る。そういう機会になることを覚えておいて欲しい」
ジルは真剣にメイに向き合っている。
僕は竜の王族らしい。竜化もできないし、言葉さえも話せない。でも竜には僕がそう見えているし、そう見えるから優しく接してもらえている。
アルブだって、この国の王様だってそうだ。僕が特別だって思っているから、僕を保護してくれている。
僕の存在が危ういことは、以前のアルブとジルの会話からもわかっている。
僕が迂闊なことをしたら、世界の均衡が崩れてしまう。そういうことだと思う。
でも僕はヴァイス王子に会いたい。
もうずっと待ってる。
本当は飛んで行きたい。竜化できない自分がもどかしい。自分で行けたら、こんなに皆を巻き込むことはなかった。僕が中途半端な存在なばかりに。
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