筋肉が好きすぎて騎士を目指したのに僕ってそうなの?

サクラギ

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本編

18 ひとりで待ってる

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 竜たちが騎士を背に乗せて飛び立って行った。
 僕は空の舞台の上に座って、飛んで行く彼らを見送った。

 空に星が瞬いているけど、月は見えない。新月の日に当たる今日に潜入の日を選んだのは、闇に紛れることができるからなのか、偶然なのか。
 王子はもう王城に入ったのだろうか。

 竜たちは伴侶となると感覚がつながるらしく、お互いがどこにいるのか、どんな感情なのかを離れていても知ることができるそうだ。
 僕はまだ王子が運命の相手だとわかっただけで、それ以上の関係にはなっていない。こんなことなら離れずに傍にいれば良かったのかなって思う。いったい伴侶になるっていうのがどういうことかわからないけど、傍にいて、王子が何を考えて、どんな表情をするのか、僕をどんな態度で受け入れてくれるのか、そういうのが知りたいと思う。それと僕が王子を前にして、どんな気持ちになるのかも。怖いけど、知りたいと思う。

 空の舞台から隣国までは見通せない。眼下も雲に邪魔をされて全部は見えない。
 陸から距離があるから、声も聞こえない。でも風は強く吹き付けて来る。耳にあるのは風が過ぎる音。ただそれだけ。

 すごく寂しい気持ちになるから、下に行って父さまに会いたいって思うけど、父さまはリフィとのことがあってから、僕のことを避けている。避けていると思うのは、僕に引け目があるからかもしれないけど、以前のように会いに行くことができなくなっている。

 僕が竜であることにも引け目を感じているかもしれない。
 僕のせいで婚姻相手を失ったこと。それがリフィの身勝手な行いからだとしても、僕がいなければこんなことにはならなかった。頭ではわかっている。でも気持ちはなかなか追いついて行かない。僕がそうなんだから、父さまはもっと苦しんでいる。だから甘えに行くことなんてできない。しかも、僕にだけ相手がいる。父さまからリフィを取り上げた僕が、そんなの言いに行けるはずない。

 朝の日が地平線から顔を出すまでずっと座っていた。
 一頭の竜が戻って来るのが見えた。こちらには上って来ない。人型になって王城内で待機なのだろうか。
 報告が聞きたかった。でもアルブは下にいる。上に用があれば、ジルが部屋から出て来るはずだ。

 どれだけ待ってもアルブからの連絡はない。
 苦戦しているから僕になんて構っていられないのかも。じゃあ、先陣を切って行った王子はどうなったの?

 本当にずっと連絡がないから、心配してエリルが見に来てくれて、一緒にごはんを食べたりくつろいだりしたけど、頭の中から王子のことが消えることはない。

 いつまで待ったら良いの? って、ジルに当たったけど、ジルも情報は明かせないらしく、大丈夫だから待って居ろって言われるだけだった。

 3日が経ち、5日が経ち、どうして僕は竜になれないのだろうともどかしくなる。
 何度かエリルに聞いて変化のやり方を教えてもらったけど、エリルは初めから竜で、幼少期に人型になることもできたらしく、変化したいと思ったらすぐに変化できるそうだ。ジルも同じ。竜と竜から生まれた子はだいたい同じらしい。

 王子も竜になれるのだろうか。王子が竜になったところは誰も見てないらしいのだけど。王子が竜になれるのなら、早く飛んで迎えに来て欲しいと思う。でも王子は会いたかったら自分で来いって言ってた。だから行きたいと思うのだけど、どんなに願っても竜に変化することはなかった。

 7日が経ち、10日が経った時、やっとアルブが来てくれた。

 僕は空の舞台でジルが来るのを待っていて、ジルの背にいるアルブを見て、出せない声が本当にもどかしく感じた。

 ジルから降りたアルブは僕を抱きしめてくれた。でもそれってどういうこと? 慰めが必要な状況ってこと? 僕はまた怖くなった。

 ジルが竜から人型に変化すると、ジルとエリルの部屋に移動した。
 僕はすぐにジルに運んでもらって、王子に会いに行けるのかと思っていたから、ますます混乱する。
 部屋に入ってソファに座ると、ジルがお茶を運んでくれたけど、僕はそんなのんびりしていたくなくて、そわそわしてアルブを見ている。

「皇太子が無事に王位を継いだ。凱旋も難なく終わったよ。国民も皇太子に協力的だったし、国の安定には時間がかかるようだが、メイが行く国として、とりあえずだが安心はした。ただ第二王子の行方は不明だ」

 王子が竜であることは秘密だ。だから竜なら王子の行方がわかっているんじゃないの? って言いたかったけど、隣のエリルが僕の手を取って宥めてくれた。

「それこそ国外の王族の事情だ。俺たちが深く追及することはできない。ただ、おまえを迎えには来るんだ。第二王子ではなく、国の使者が迎えに来る」

「渡すのですか?」

 そう聞いたのはジルだ。
 アルブはジルを見て頷いた。

「向こうの竜が一緒に来るらしい。俺らには向こうの竜がどういう地位にあって、どんな性質の者なのかわからない。だからジルにも受け渡しの日に来てもらう。ジルなら向こうの竜が信用に足る者なのか判断がつくだろう。ただ就いて行かせることはできない。おまえを失う訳には行かないからな」

 ジルは僕の方へ視線を向け、強く見つめていたけど、諦めたように視線を外し、アルブを見た。

「わかりました。相手国の竜の見極めは私が責任を持って務めます。ですが、私が否を唱えたところで、メイを渡さないという選択はできないのでは?」

 僕はじっとアルブを見る。僕はこの国に保護してもらっているだけで、運命の相手が隣国にいる、しかも王族なんだから、あちらが僕を望むのなら、行かないっていうのはおかしな話だ。

「確かにそうだ。だがメイが今後どういった扱いをされるのか、少しは知っておきたいと思うだろ? 竜が王族の竜に危害を加える可能性は?」

 アルブはジルを見る。ジルは暗い笑みを見せた。

「本来ならば王族に手を出すような種族はいません。特にメイの種族は竜に愛されていますからね。ただ、薬で繋がれている竜に関しては、私たちの想像の範疇から外れます。それは人であるアルブの方が詳しいのでは?」

 ジルに言い返され、アルブは困った様子だ。

「薬か、薬ね……」

 アルブの言葉の歯切れが悪くなる。考える素振りだけど、考えは悪いもののように見えた。

「正直に言って、俺ら人には、竜と竜騎士とのつながりが、契約なのか伴侶なのか、一目見ただけではわからない。そこに薬が使われているのか、どうなのかも同じだ。竜はそういったことを明かさないからな。口が軽いのはいつだって人だ」

「操られている竜のことは伝えていますよ。なにせ原因は人だ。我ら竜族は今もなお薬が使われている現状に怒りを募らせています。それがどういうことか、アルブは本当にわかっていますか?」

「わかっているよ。だが俺らにだってできる範囲がある。我が国のことならまだしも、他国、それも遠い国ともなるとどうにもできねえ。それによって俺らが竜との関係を断たれるなんてな。俺はまだ良いが、伴侶となっている奴らは一生の相手を失うことになる。だがな、今のところどうにもならねえ」

「もしメイを迎えに来た竜が薬に操られているようでしたら、私はメイを連れて行きます。竜の谷の協力を得て、王子を探すことは可能ですから」

 エリルが僕を宥めてくれる。大丈夫よって寄り添ってくれた。

「わかった。それは俺の胸に収めておく」

 僕はすぐに王子に会えると思っていた。すぐに会いに来てくれて、一緒に旅をして、仲良くなれると思っていた。なのにまだ会えない。まだ待たないとダメなの?
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