筋肉が好きすぎて騎士を目指したのに僕ってそうなの?

サクラギ

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本編

5 筋肉いっぱい

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 っていうか、ここは天国ですか!!
 なぜか王城警備隊の見習い兵士になったはずが、銀獅子部隊の早朝練習の見学をしているではないか!!

 丸い形の闘技場だろうか、観客席と砂地のある場所で、銀獅子部隊の若手達が、半身裸体で訓練をしている。筋肉、筋肉、どこを見ても素敵な筋肉たちがいる。少々残念なのは、本命とも言える隊長陣が、着衣のまま指導に当たっている点だ。

 僕はまだ見習いにも満たない年齢だそうで、訓練にも入れてもらえない。だったらなぜ採用したんだっていう話なんだけど、そこはまぁ、間近を走り抜けて行く筋肉達に免じて目を瞑ることにする。

 僕は土の訓練場を仕切る柵の上に座っているのだけれど、なぜか隊長って呼ばれている人が隣に立っている。俺のお気に入りの筋肉の量よりもかなり育っている筋肉の持ち主は、グレーの短髪で男らしい精悍な顔つきをしていて、左頬の真ん中を縦に裂くように傷跡がある。瞼の上を通っているから、この怪我は失明もありえた危険なものだったのだろうと推測できる。でもなんでリフィではなく、隊長のアルブなのだろうか。

「おまえ、なぜリフィエルに付きまとっているんだ?」

 とアルブが言う。
 一瞬、何を言われているのかわからなかった。いやいや、僕が利用されているんですけどね? 知らないでしょうけど。
 僕は柵から降りて、アルブと向き合った。っていうか、この人身長幾つよ? 僕はまだ成長期で150くらいしかないけど、アルブは絶対190を超えている。間近に迫ったあまりの筋肉の量に恐れを成す。

「失礼しました。僕は王城警備隊の見習いになったばかりのメインデルトです。リフィエル所長にお世話頂き、今日は見学をさせて頂いております」

「おまえ、いくつ?」

 くう、悪かったなちびで。

「今年16歳になります」

「まだ未成年か」

 そう言ったアルブは、僕の髪をぐちゃぐちゃに撫でて笑った。
 いやいやいや、めっちゃ子ども扱いでしょ。っていうかこの人絶対リフィを狙っているでしょ。残念でした。僕をけん制しても仕方がないんだよ。僕を見て僕の背後を想像しなくちゃね。

「隊長、その子を虐めないでやってください。まだこちらに慣れていないのです」

 僕がアルブに絡まれていると思ったのだろう。別の隊を指導していたリフィが僕の方に来た。

「これ、おまえのなに? いくらおまえのところの新人だとしても、ウチの練習の見学なんてさせねえだろ」

「この子は私の息子になる予定ですから、特別に扱うのは当然のことです」

 ……え? 今なんて?
 思わずリフィを見た。食い入るように見た。そうしたら頬を染めたよ、えっと、それってどういうこと?

「息子っておまえ、こいつの親と婚姻でもする気か? いつのまにそんな……」

 っていうか、本気なんですね? 本気で父さまを落しにかかっていると。
 補足しておきますが、この国では男性同士の婚姻も許されています。同性婚をした方は大抵養子を取り、家を継がせることが多いようです。

「時間など関係ありません。ちなみに私の息子となれば、騎士養成学院に入学させることが可能です。なにせ私は爵位持ちですから。従って何れ彼は我が隊への入隊が可能ということになります」

 えっと、リフィエルさま? それはものすごく先走りすぎではありませんか? しかも僕にそんな大それた能力なんてありませんよ? いくら同じ孤児だからといって、リフィエルさまは特殊で、僕は平凡なごく普通の能力しか持ち合わせておりませんが、大丈夫ですか?

「こいつが養成学院? 無理だろ」

 ええ、ええ、その通りです隊長さま。変なひいき目はよして頂きたい。僕はここで筋肉を眺めてのんびり過ごしているのが一番素敵な時間なんです。確かに軍学校に通って優秀な銀獅子部隊に入りたいと夢見た幼い頃もありました。でも現実はそうではない。まだ未成年だけどそこは学んだ。人には越えられない壁がある。

「大丈夫、私の想い人の息子なのです。必ず銀獅子部隊に入隊できます」

 ああ、この人はまだ知らないのだ。僕が孤児であること。父さまと血がつながっていないこと。こんな大それたことを言いだして、大丈夫なのだろうか。

「想い人の息子だぁ? 血の繋がりが何だって言うんだ? 獅子の子が猫に成り下がることだってあるだろ? こいつが獅子に化けるだと? ありえねえよ」

「別に、隊長に認めてもらいたいわけではありませんから、失礼します」

 リフィは僕の肩に手を置き、アルブに背を向けた。

「メインデルトって言ったか?」

「あ、はい」

 振り返るとアルブは不敵な笑みを見せていた。

「養成学院卒業は正規に行って3年か? それまでは俺も隊長をやっていてやるから、せいぜい頑張って追って来てみろ。無事に顔を見ることができたら、入隊祝いをくれてやるよ」

「あ、ありがとうございます?」

 えっと、これは本当になる話なの? 僕は別に今のままで良いのだけど。
 胸に手を当てて礼を取ったけど釈然としない。なんでこんな話になっているのだろうか。
 とりあえず、リフィの後ろを着いて行くのだけど、練習中に抜け出して大丈夫なのかな。もう出勤の準備をするのかな? 一応、王城警備隊詰所の方へ向かっている。

「済まなかったね、いらぬことを言ってしまったようだ」

 ええ、本当に。あなたは僕の想い人だったのに。振られるのはわかっていたけど、まさか父さまに取られるとは少しも思っていなかったよ。

「いいえ、それはまぁ、父さまとリフィエル所長とのことなので。ただ、ひとつ問題が……」

「なんだい?」

 リフィは僕と肩を並べて歩いている。これも普通ではありえないこと。だってリフィは銀獅子部隊の隊員だし、王城警備隊詰所の所長だし、爵位も持っていると言っていた。本当なら庶民の僕はリフィ隊長の後ろを歩くのさえ不敬に当たる。

「さっき父さまと僕との血の繋がりの話になっていましたけど、僕、父さまと血は繋がっていません。もし父さまと婚姻されたとしても、僕は書類上の問題で家族にはなれません」

 リフィが足を止めた。だよね、知らなかったよね。
 でも予想に反してリフィは満面の笑みだ。緩んでるよ、軍人にはあるまじき緩さだよ。

「ありがとう、メイくん」

 リフィは僕を抱きしめて来た。わーすごい、布越しだけど生筋肉が僕の頬に触れてる。はぁ、夢にまで見た筋肉なのに、これはもう父さまのものになるのか。

「私を受け入れてくれるんだね、ありがとう」

「父さまが幸せなら僕はそれで良いけど」

 胸に抱かれてもごもご言うと、やっと抱擁から解放された。
 っていうか、これ見られたら変な誤解を生みそうなんだけど。隠し子とか言われるんだろ、歳の差から言って。ここが恋人とは見られない悲しさだよね。

「さっきの血の繋がりも関係ないよ。私も孤児だ。でも功績で手に入れた爵位がある。ウィルフレッドさまと婚姻後、メイくんを養子に迎えれば良いだけの話だからね。ウィルフレッドさまとメイくんを引き離すようなことは絶対にしないから、安心してほしい」

「うん、わかってる」

 父さまが選んだのなら僕は何も言わない。今はまだ少し寂しい気持ちがするけど、あと何年かしたら僕は父さまの傍を離れることになるのだから、誰かが傍にいてくれた方が良いに決まっている。しかもこんなに綺麗な人で地位を自分で掴み取った僕の憧れの人だ。反対する訳がない。

「良かった、では明日から養成学院の受験の為に、私と訓練をしよう」

 ……え? そういうこと? 僕の意見は聞きもしないの? もうすでに諦めた夢なんですけど?
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