筋肉が好きすぎて騎士を目指したのに僕ってそうなの?

サクラギ

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本編

4 王都バルド

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 王都バルドの大門が近づいて来る。

 王都の街は、王城を中心に円を描くように造られていて、中心部に近づくほど大貴族の屋敷となる。街の円を囲うように壁がある。大門は東西南北の四か所にあり、その間には兵用の通用門が造られている。大門は通れる時間が決められていて、通るのには身分証明書が必要となる。あとは王都で暮らす場所のない者は宿泊先か訪問先、用途を告げなければならなかった。

 俺たちには、王都にある王城警備隊詰所内からの呼び出し書類があるから、大門の入都審査はすぐに終わった。でも審査をする兵は何度も書類を見直していたし、不正がないか厳しく見ていた。どうせ僕の見た目が場所にそぐわないと思われていたのだろう。だけど仕方ない。呼び出したのは向こうだ。

 王都に入ると街の景色が一変する。
 同じ白い素材で出来た建物が連なり、その間が道になっている。一見、どれも同じ建物に見えるが、一階部分の商店や飲食店が違うし、角々に建物を示す番地が書かれている。道にも名前がついていて、王城の大門から南へ延びる一本道には、現王の名を付けたランドルフ通り、東西の大門を繋ぐ一本道を、創始の王の名、トゥッリオ通りとなっている。

 王城警備隊詰所は、王城内に存在する。だから城壁にある門も通らなければならない。
 王城の周りにはお堀があり、跳ね橋が架かっている。その両端には門兵がいて、腰には剣、手には長い槍がある。鉛色の甲冑はみなお揃いだが、背にマントを付けている者が上位であるらしい。しかもマントの裏に家紋が入れられている。それは貴族を表していて、兵の中に家柄の上下関係があるのだと知れる。

 ちょっと面倒だな王都、と思っていると、馬車止めに馬車が置けないという事態になった。要するに庶民のボロい馬車なんて王城内に置いて行くなということなんだろう。それが国のやり方だというなら仕方ない。こちらは田舎から出て来たばかりの庶民だ。お貴族様に逆らっても良いことなんてひとつもない。

 父さまは気を利かせて、僕だけを下ろして城を出ると言ってくれた。でもそれも困るんだよね。だって城の外に出ても知り合いがいる訳でもない、頼る場所がある訳でもないから、王都の貴族街では待っている場所さえないのだ。

「王都、怖い。父さま、僕くじけそう」

 最初から拒まれたら気も削がれるというものだ。

「大丈夫さ、メイ、きっとうまく行くよ」

 父さまも困り顔なのに、しっかり親としての立場を守ろうとしている。でも王都怖いよね? くじけちゃうよね?

「ウィルフレッドさん」

 王城の方から馬が駆け寄って来る。
 陽日にキラキラと輝く金髪。軍人なのに透明感溢れる白い肌。光り輝く白い毛並みの馬。
 馬は僕たちの近くで止まり、鼻を鳴らした。
 馬上の人は軽やかな仕草で馬から降り、僕たちににっこり笑いかけると、僕たちを止めていた馬車係の者へ厳しい視線を見せた。馬車係は怯えた様子で去って行く。

「すみません、遅くなってしまいました。どうぞこちらへ」

 僕は甲冑を付けていない彼の体に目が釘付けだ。あの日から10年も経っているのに何一つ変わらない。記憶って都合よく補正されるっていうけど、全然されていない。むしろ輝きが増した気さえする。

「リフィエルか? どうして俺たちがここに来るって知っているんだ?」

「とにかくまず馬車を移動させましょうか」

 僕たちのボロ馬車がリフィ先導で王城の奥へ入って行く。周りの人の視線が痛い。場違いこの上ないが仕方ない。リフィが楽しそうに連れて行くのだから。

「こちらへお停めください」

 そこはきっと王城警備隊詰所だ。お客様が停めて良い場所じゃないと思う。なのに馬車を停めさせたリフィは馬車から馬を外して、馬の係りの者だろうか、彼に自分の馬とウチの馬を、明らかに同等として連れて行かせている。きっと手入れをしてくれて、休ませてくれるのだろうと思うのだけど、見るからに格が違う。ウチの馬はやせていて貧弱だ。でもかわいい子ではある。ずっと一緒に旅をして来たのだからね。

 リフィの先導で、今度は僕たちが案内されている。王城警備隊詰所の中へ。白い四角い建物は、とても機能的な造りをしていると思う。父さまの役所の造りに似ているかもしれない。

 中の応接室へ通された僕たちは、その部屋内の機能性重視なのだろう。整頓された綺麗さに驚いた。書類もきっちり角まで揃える。物の配置はここ。埃一つ見逃さない。そういう感じのする部屋だ。旅の汚れを付けたまま来た僕たちはとっても身の置き場がないと感じている。父さまも気後れを感じているって顔をしている。

「遠いところから良く来て下さいました。私はこの王城警備隊詰所の所長をしております、リフィエル=アーリンです。ウィルフレッドさんのおかげで、こうして役職に就けるまで成長させて頂きました」

 ソファに座ると、隊員がお茶を持って来てくれた。とても恐縮です。っていうか、これってやっぱ父さまの過去の親切の代価なんじゃないか。見るからにリフィは父さまを尊敬のまなざしで見ている。チェッ、つまらない。僕が会いたいって思っていた相手が父さまを見ている。僕が働くのにな。僕なんてついでなんだろう。

「いえ、そんな。私はただ働き先を紹介しただけですから。とても立派になられて、見違えてしまいました。これもリフィエルが頑張った結果です。私などなにも」

 父さまが言った言葉をリフィは嬉しそうに聞いている。はあ、そうなんですか。もう見ているだけでわかるよ。わかりたくないのに、わかるよ。

「あなたがメインデルトくんですね。私があなたの直属の上司になります。これからよろしくお願いします」

「はい、メインデルトです。よろしくお願いします」

 ソファから立ち上がって礼をする。胸に右手を当て、左手は後ろの腰に添わせる。頭は下げず、視線だけを下げる礼は、剣術を学んだ時にも挨拶として使っていた。これがこの国の簡易な礼になる。本来の礼は片膝をついて剣を置き、手の位置は同じだが、背中を曲げた角度で顔を伏せる。目上の人が前に立てば、許されるまでその姿を保たなければならない。

 ああ、僕への興味なんて一瞬だ。そうでしょうとも。

「ウィルフレッドさんはもう住む場所を決められていますか?」

 なんだ、ネックレスのお礼も言いたかったし、もっと話をしたかったのにさ。

「いえ、まだ王都に着いたばかりで。知人もいませんから、これから探そうかと思っています」

「でしたら家においでください。小さいですが、王都に家を持っています。ひとり暮らしですし、私はほとんどこちらの宿舎に詰めておりますので。それに家の経理を見て頂けると助かるのですが」

「それはぜひ受けさせて下さい。とても助かります。ありがとうございます」

 父さまよ、もう少し遠慮をした方が良いのではないのか? っていうか、父さまよ、顔が赤い気がするんですが? ああ、そうだよ、父さまにイイヒトが出来たら良いな~って思っていたよ。でもそれはないだろ。僕の理想の筋肉を! 父さまが手にするのか? ああ、もっと早く生まれたかった!
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