上 下
59 / 66
3章

15 奪い合い

しおりを挟む
 初日に訪れた温室には宴会用の絨毯が敷かれていたが、そのスペースに今は檻がある。それは観賞用らしく、強固な鉄製とは違い、華奢な針金に煌びやかな宝石が通された美しいもので、日の光を浴びて輝きを放っている。

「貴方は十分に役割を果たしてくれました。もう用済みです。ニアの事は忘れて下さい」

 志津木の前に立ったのはヴォルフだ。
 檻の中で倒れているニアを愛しそうに見つめて、次に志津木に向かい、冷めた表情をする。

 ニアは眠っているのか。志津木の気配に気づいていない。志津木はヴォルフを警戒している。ニアを側にと思うのなら、檻に閉じ込めず、説得して見せるべきだ。

「用済みかどうかはニアが決める」

 志津木がそう言うと、ヴォルフは嘲笑う。ニアを欲する者はみな、志津木を下に見る。権力者の奢りだろう。まともな者を見た試しがない。ヴォルフといい、アニエスといい、傲慢さが見て取れる。

「たかがお情けで聖気を得ただけのおまえが?」

「それは別にどうでも良い」

 志津木にとってあれはいつも通り、合意の上の性欲処理だ。それに勝手に付属を付けられた。それ以上の意味はない。
 だが志津木のどうでも良いと言う態度を見たヴォルフは怒りを見せる。

「聖気だ! 簡単に手に入るものではない! ましておまえのような人族の底辺が!」

 怒りのままに怒声を上げたヴォルフを見て、志津木は笑う。喉を鳴らして笑い、ヴォルフを見やる。

「その底辺がマティアスを抱いた。国名にするほど偉大なのだろう? 悪かったな、そんなに怒られる事だとは知らなくて」

「うるさい! 黙れ!」

「纐纈翠はおまえにとって何なの? おまえだって聖気を持つひとりなんだろ? 翠だけじゃ足りなくてニアも欲しいの? それってワガママじゃねえ?」

 ヴォルフは顔を赤らめて怒っている。まるで子供だ。おもちゃを取り上げられそうになって必死になっている。そうとしか思えない。

 志津木が一歩一歩近づけば、ヴォルフは下がって行く。戦いに不慣れなのか? 志津木は感覚的にそう思い、一気に間合いを詰めた。華奢な檻だが結界があるのか、ヴォルフの背が檻に付いても崩れる事はなく、志津木の手は檻の無い部分に付いている。手のひらには平らな面の感触がある。

「ニアを渡して貰おうか」

 顔を寄せ、息のかかる距離で凄みを効かせる。軽い電流を手のひらに感じ、背後からの殺気に、気づくより先に体が動いた。

「さすがに気づくか」

 咄嗟に体を返し、数歩分の距離を横に取った。ヴォルフを奪い返すように攻撃をして来たのは翠だ。小型ナイフが檻に当たり、軽い音を上げて床に落ちる。
 低い姿勢を取り、次の攻撃に構えながら、どうしたものかと考える。出口のない檻、結界が張られている。軽い電流も流れていて、無理にこじ開けようとすると電圧が上がる仕組みだと推測できる。

 ヴォルフは翠の腕の中に収まっていて、その表情は見えない。だが翠にとって大事な者なのだとは分かった。
 別に志津木はヴォルフを口説いていた訳では無いが、先ほどの体勢は誤解を招いたのかもしれないと、翠の目に嫉妬を感じ、志津木は苦笑した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

愛弟日記1

けい兄たん
BL
お互いに信頼しあって愛し合っている俺とションたんの物語

何故か僕が溺愛(すげえ重いが)される話

ヤンデレ勇者
BL
とりあえず主人公が九尾の狐に溺愛される話です

婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》

クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。 そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。 アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。 その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。 サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。 一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。 R18は多分なるからつけました。 2020年10月18日、題名を変更しました。 『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。 前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話

あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは マフィアのボスの愛人まで潜入していた。 だがある日、それがボスにバレて、 執着監禁されちゃって、 幸せになっちゃう話 少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に メロメロに溺愛されちゃう。 そんなハッピー寄りなティーストです! ▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、 雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです! _____ ▶︎タイトルそのうち変えます 2022/05/16変更! 拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話 ▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です 2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。   ▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎ _____

【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)

サイ
BL
目が覚めたら、裸で見知らぬベッドの上に縛られていた。しかもそのまま見知らぬ美形に・・・! 右も左もわからない俺に、やることやったその美形は遠慮がちに世話を焼いてくる。と思ったら、周りの反応もおかしい。ちょっとうっとうしいくらい世話を焼かれ、甘やかされて。 そんなある男の異世界での話。 本編完結しました よろしくお願いします。

処理中です...