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2章

17 裏山の森

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 王城裏の城壁下に通用口があり、内側から鍵で開ける仕様になっているが、これも錠前だ。たたき落とす事が可能という何とも張り合いの無い気分に苛まれる。だがこれも兵がいないからこそで、たたき落とす音に誰も反応しない。する者がいないのだが。
 城の表側から声が響いて来ている。雄叫びのような歓声のような。お祭りのワクワク感が伝わって来るような熱気がそちら側にある。

「ヨウ、この先には大型の飼獣が放されている。襲って来るかもしれない」

「殺して良い?」

 それが一番手っ取り早いのだが。

「出来れば殺さないで欲しい」

「了解」

 ニアより先に出て、辺りを確かめ、ニアを招く。王城裏は森になっていて薄暗い。地面も草が生えているし、木々に絡んだ蔦が通る邪魔をしている。一切手入れがされていないのは、張り巡らされている蜘蛛の巣で分かった。
 サバイバルナイフで道を作って歩いて行く。ニアとは距離を開けないように気を張りながら。この狭い状態では獣の方が有利だ。

「どんなタイプのヤツ?」

「大型の犬っぽいの」

 じゃあ木には登れない。最悪、蜘蛛の巣が嫌だが、木に登り、枝を伝って行く方法もあるかと思いを巡らせていると、遠くから足音が近づいて来る。

「ニア、登れる?」

 首を振られた。黒豹なのに? と思わなくも無いが、長い間、奴隷だったのだ。体力もないだろうし、こういう経験もないのだろう。ぽやんとしているニアを背中に担ぎ、木を登る。犬っぽいヤツが唸りながら走り来て、木の下を囲んで見上げている。鳴き声はワンだ。でも見目は狼の顔に長い牙と四本の角がある。背に硬そうな毛があって、ハリネズミみたいに逆立てている。犬より凶暴だ。

「何が起こっている?」

「クーデター」

 ニアは日本語を話している。何となくそう思った。

「誰が誰を?」

「兄が王を。首謀者はアニエス。……ヨウ、聖気の気配がする」

 後半部分を小さく呟かれ、首に回る腕がギュッと締められ、肩におでこがすり寄せられる。
 こんな面倒な状況で無ければ、抱き寄せて言い訳をしたい衝動に駆られ、枝を伝って移動している下を付いて来る犬モドキを邪魔だと思う。でも殺さないでと言われている。ニアを悲しませたくはない。

「現在地は王城裏の城壁と外壁のあいだだよな? 外壁を抜けて裏へ出るのは?」

「ヨウ、帰りたい」

 ギュッとしがみ付いたままのニアは話が通じないらしい。背に手を回し、トントンとあやしてやる。どこへ? とは聞かない。とにかくこの虫の多い木の上から脱出したい。毒蛇とかムカデとかいそう。蛭とか毛虫とか……森は厄介事が多すぎる。
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