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2章
9 黒狼の獣人
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溜まったモノを吐き出すと途端に冷静になる男の性を、朝日が昇る前に牛っぽい従獣の世話をして、いかにも早起きをして仕事をしていました風に装う意気地の無さよ。マティアスのように何もありませんでしたと聖人の顔で子どもたちと顔を合わせる事の出来ない志津木は、やってしまった感満載の背徳を抱えた。
ニアにもマティアスに手を出すなと言われた気がする。これは手を出した事になるのか? なるのか、なるのだろう。
問題はニアの事だ。婚姻が決まった。それは良い。獣人の国のいろいろを知らないけど、王族なのだから政略結婚も普通に思える。ただ相手がマティアスと秘密の夜を過ごしているヤツらのひとりというのは気になる所だ。あまり幸せな婚姻とは思えない。
「人がまだいるとはな」
背後から声が聞こえて驚いた。以前の世界では気を張って暮らしていて、物音ひとつも逃さない様に生きていたのに、関わりの薄い世界に来たせいか、感覚が麻痺している様だ。
「別にどうでも良いけど」
放牧した後の小屋の掃除をしていた。いつもは子どもたちと一緒で、今日は初めて一人で作業をしている。その隙を狙われたのか? と警戒をしたが、男は肩に飼葉を担いでいて、餌箱に慣れた様子で入れている。
「だれ?」
真っ当な質問をしたと思う。なのに冷たい視線を向けられた。
「おまえの前にヤッてただろ? レイモンド・クライシス。黒狼だ」
そういえば最後の客の尾が狼っぽいと思ったなと昨夜を思い出した志津木は、存在を知られていた事に気づいて気まずい。
「見つかったら即殺されるのかと思っていたよ。ヨウだ」
手を差し出してみたけど無視された。ここでは握手という挨拶はないらしい。それはそうか。基本は獣だ。
「マティアスを抱く意味も知らず、よく出来たな?」
一緒に掃除をしてくれるらしいレイモンドは、慣れた様子で手袋をはめ、獣舎に水を撒き始める。
「意味なんてあるのか?」
性欲発散以外に。そう心の中で続けたら、レイモンドは志津木を見て舌打ちをした。
「もったいねえ」
高い身長に筋肉質の体躯。焼けた肌と青い鋭い目。薄い唇の端から牙が見えている。動きやすそうなシャツと黒いパンツとブーツ。ガツガツと掃除して行く様も頼もしく見える。
「どういう意味?」
みるみる掃除が終わって行くのを見ながら、志津木も動き出す。いつもより倍以上のスピードで掃除が終わって行く。こどもたちもいないのに。けれど志津木の疑問を聞いたレイモンドは手を止めて舌打ちをした。
「マティアスが神の使いなのは?」
「……聞いてる」
「だったら分かるだろう?」
床の水洗いを終えたレイモンドは手袋を取り、面倒くさそうな表情で髪を掻く。
「俺らはマティアスと交わる事で聖気を得て、マティアスは精気を神に届けている」
“せいき”とは? まあ何となくは分からなくもない。世の神々は性的な交わりで力を得るとか、そういう類のマンガは良くある。エロマンガで、だが。あとは神話とか? 異世界にもあるのだろうか。エロが世界を救う神話が。
「お前は何も感じなかったのか?」
まさかレイモンドの脅威的な掃除スピードは、身体能力が強化された為か? いやいや流石に即効性の話じゃないよな?
「何もって……すげえ良かった——」
あれは反則だった。性器がもうそれ専用だ。受け入れて悦ばせる為の。レイモンドの馬鹿じゃねえの? という視線が志津木を辱めていた。
ニアにもマティアスに手を出すなと言われた気がする。これは手を出した事になるのか? なるのか、なるのだろう。
問題はニアの事だ。婚姻が決まった。それは良い。獣人の国のいろいろを知らないけど、王族なのだから政略結婚も普通に思える。ただ相手がマティアスと秘密の夜を過ごしているヤツらのひとりというのは気になる所だ。あまり幸せな婚姻とは思えない。
「人がまだいるとはな」
背後から声が聞こえて驚いた。以前の世界では気を張って暮らしていて、物音ひとつも逃さない様に生きていたのに、関わりの薄い世界に来たせいか、感覚が麻痺している様だ。
「別にどうでも良いけど」
放牧した後の小屋の掃除をしていた。いつもは子どもたちと一緒で、今日は初めて一人で作業をしている。その隙を狙われたのか? と警戒をしたが、男は肩に飼葉を担いでいて、餌箱に慣れた様子で入れている。
「だれ?」
真っ当な質問をしたと思う。なのに冷たい視線を向けられた。
「おまえの前にヤッてただろ? レイモンド・クライシス。黒狼だ」
そういえば最後の客の尾が狼っぽいと思ったなと昨夜を思い出した志津木は、存在を知られていた事に気づいて気まずい。
「見つかったら即殺されるのかと思っていたよ。ヨウだ」
手を差し出してみたけど無視された。ここでは握手という挨拶はないらしい。それはそうか。基本は獣だ。
「マティアスを抱く意味も知らず、よく出来たな?」
一緒に掃除をしてくれるらしいレイモンドは、慣れた様子で手袋をはめ、獣舎に水を撒き始める。
「意味なんてあるのか?」
性欲発散以外に。そう心の中で続けたら、レイモンドは志津木を見て舌打ちをした。
「もったいねえ」
高い身長に筋肉質の体躯。焼けた肌と青い鋭い目。薄い唇の端から牙が見えている。動きやすそうなシャツと黒いパンツとブーツ。ガツガツと掃除して行く様も頼もしく見える。
「どういう意味?」
みるみる掃除が終わって行くのを見ながら、志津木も動き出す。いつもより倍以上のスピードで掃除が終わって行く。こどもたちもいないのに。けれど志津木の疑問を聞いたレイモンドは手を止めて舌打ちをした。
「マティアスが神の使いなのは?」
「……聞いてる」
「だったら分かるだろう?」
床の水洗いを終えたレイモンドは手袋を取り、面倒くさそうな表情で髪を掻く。
「俺らはマティアスと交わる事で聖気を得て、マティアスは精気を神に届けている」
“せいき”とは? まあ何となくは分からなくもない。世の神々は性的な交わりで力を得るとか、そういう類のマンガは良くある。エロマンガで、だが。あとは神話とか? 異世界にもあるのだろうか。エロが世界を救う神話が。
「お前は何も感じなかったのか?」
まさかレイモンドの脅威的な掃除スピードは、身体能力が強化された為か? いやいや流石に即効性の話じゃないよな?
「何もって……すげえ良かった——」
あれは反則だった。性器がもうそれ専用だ。受け入れて悦ばせる為の。レイモンドの馬鹿じゃねえの? という視線が志津木を辱めていた。
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