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1章

22 最終判断

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 海岸へ着ければ何とか逃げられる。そう思いながら気持ちが疲弊している。本名がバレているという事は、実家が人質という事だ。どうやって調べた? 過去の一切を捨てた。写真も手紙も残っていない。可能性があるとすれば、実家側から志津木を探したのか。顔は変えていない。写真を持って探していたとすれば、見つかる可能性はある。でも死んだという連絡が入ったはずだ。遺体も偽装されたはず。考えても答えに辿り着かない。こうなってしまうと大事なものが多すぎる。過去の精算だろうか。罪を犯したぶんの償いをさせられている。組織の言う通りに動いただけなんだけどな。そうしないと生きられなかった。そういう言い訳だ。

「なぜ怪我をしているのですか?」

 後ろにニアが立ってた。血を失って軽く記憶が飛んでいたのかもしれない。

「かすり傷だよ、ニア。もう少し隠れてて? 追手が来てる。俺が飼い主の責任を持って逃してあげるからね、ごめんね」

「ばかですか? 僕を突き出せば良かったんだ。どこへ行っても同じなのに。どうして怪我をしてまで庇うんです? そうしなければ、僕は……僕は……」

「ごめんね。格好良く守ってやりたかったんだけど、ちょーっと想定外が多すぎて、参るよ、だからさ、せめてニアを守って死なせてくれない? 人生最高潮だって思えるから」

 息が苦しい。マジで死が目前だ。いったい何を信じれば良い? このまま生き残った所で、組織に追われて、親友に裏切られて、ニアが側にいない。なんて生きる意味のない日々か。

「ヨウは格好良いです。でも死んだらダメです。一緒に……一緒にいたいです。まだ4日です。査定の7日にも満たないのに。もう捨てるんですか?」

 船に水上バイクが近づく。陸側から来られたから沖へ逃げる。大型船の停泊する位置より離れているが、沖へ行けば大型船も追って来る。逃げ場がない。どうする。

「ニアはわかる? せめて身の安全が確保される所に」

「ヨウも一緒です」

 銃声がする。こっちは弾切れだと言うのに、容赦がない。視界が霞む。

「逃げらんねえよ、船停めろ」

 水上バイクが船尾に衝突し、スクリューが止まる。その衝撃を利用してシェンエンが乗り込んで来た。その後ろにはクリスの乗る船がある。数々の銃口が志津木を向いている。ニアが守るように立ってくれている。震えながら、泣きながら。

「撃たないで下さい。僕はどこへでも行きます。どこへ行けば良いですか?」

「俺の事守ってくれてありがとうな。ごめん、一緒にいられなくて、ごめん」

「一緒にいたいですか?」

 ニアが志津木の手を握る。血がニアの手を汚している。

「好きだ、ニア、笑った顔、見ていたかった」

 ニアの前で死ぬのは嫌で、さらには海に落ちて生還したニアの話も脳裏にあった。一瞬を突いてニアを抱え、デッキから海へ一緒に身を投げた。


◇◇◇

1章 完
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