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1章

3 実験体説と転移説

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 獣人は人族の愛を請って人化を得たと伝承されている。けれど時を経て研究が進み、過去の人体実験の負の遺産だとする文献もあれば、異世界からの転移者が地上で繁殖したというSFじみた説もある。
 例えば異世界転移説を考えるとするのなら、逆に人が獣人の世界に転移していてもおかしくない。そうなれば、その人は獣人のペットとして飼われる運命なのだろうか。存在を否定され、即、消された可能性だってある。架空の小説で行けば恋に落ち、それが王子であったりして、何不自由なく愛に包まれて生きて行くとか、男なのに孕む説とか。架空の話は事勿れ主義で呆れるが。ただ思うのは、こちら側へ落ちた獣人の未来が明るいものであれば、向こうへ誘われた人が幸せでいられる可能性も高くなるのではないか。いつか自分が巻き込まれて彼方へ向かうのかわからない。そういう現実逃避だ。こちらの獣人は正しく現実で。現実から逃れられない志津木を不安に貶めている。

 クリスが寄越した資料によれば、志津木が適当に選んだ獣人は、25歳オス、ネコ科、身長182センチ、体重70キロ、目の色金緑、黒毛。写真の感じでは細身でしなやかな体つきのおとなしそうな青年だ。性格も穏やかとあり、ただ大陸からの移民という記述が気になる程度のプロフィールだった。が、志津木には厄介だ。もっと幼いか獣じみた容姿だったら良かったが、彼はどう見ても人と変わらない。例えば話す語尾に◯◯だにゃんとか、××ガオーとか言ってくれたら幻滅できるかもしれない。クリスのチョイスは志津木好みの男の子だった。

 ゲイが市民権を得てからずいぶん経つ。婚姻が男女のもので無くなってからもずいぶん経ったが、今は人と獣人の婚姻を嫌う者が多い世の中で、獣人を積極的に保護しろと言う割に、婚姻は選ばない矛盾さを、志津木は不服に思っている。いっそ30独身は獣人と婚姻しろと言われた方が積極性も増すかもしれない。だって現に獣人保護の筆頭理由に性的処理が含まれるからだ。獣人は人との子を成しにくいというのが一番の理由で、お金持ちのステイタスとして、美形の獣人を連れ歩くというものがある。獣人をベッドの相手とするのも道具の一つに分類されるという、志津木にとって最大の気持ち悪さを誇る法の在り方で、人を毛嫌いする理由にもなっている。
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