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28 神官会議

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 久しぶりに会議に出る。
 白い部屋に二列に並べられた卓に、椅子が並んでいて、白い装束に身を包んだ神官が座っている。

 入り口から遠い奥位置に大神官が座っている。反対側、下座の御簾の奥が神子の位置だ。

「傷が癒えてようございました」

 大神官の声が聞こえる。
 ティアは声を発しない。神託は紙に書いて先に大神官に渡してある。ティアが出席する意味はあまりないのだが、御簾の中に神子がいるといないとでは、神官の意義が違うらしい。

「神子様がこうして健やかにお過ごしくださっているお陰で、大陸はずいぶん落ち着いて参りました。有難いこと」

 大神官の声が続き、机の上に配膳が行き届いて行く。会議は昼食時が多く、神子が同席する印に喜びを意味して鯛の煮付けが出るらしい。

 本気で悔しい。なぜ神子は食事を取れないのか。鯛の煮付け、食べたい。

「神子様には今期、我が国の王子の教育まで担って頂くとのこと。末長い繁栄をお願い致します」

 ザッと神官が礼を取った音が聞こえた。王子の教育と聞き、何のことかと考える。そういえば身受け候補の中に王子がいたことを思い出し、何の礼だよっと恥ずかしくなる。

 ティアは居た堪れなくなって席を立った。ティアが末席にいるのは、行動が自由だからだ。あとは顔を隠す為、最後に入って先に出る為でもある。

 部屋を出て、聖域に向かう。最近は部屋に戻らず、聖域にいる。

 聖域に行くと風景が変わる。
 本当に嫌なくらい、ティアの心にリンクして来る風景は、フォルセト山の湖になっている。

「そりゃあ楽しかったし、前世思い出してはしゃいだよ? でも別に安らぎの場所ではないと思うよ」

 むしろ気持ちの逸る場所だ。
 風景を見ていると、あの日の事を思い出す。あの時の感覚を思い出す。

 勝手にテレてジタバタする。でもだからって、なんでもない。

 まだ神子になって僅かな時間しか過ごしていない。先は長い。一つ一つに反応して心を揺らすのは間違っている。これは義務だ。気持ちはいらない。むしろアシュが正解だ。

 5年後、誰に身受けされるのかわからないから、気持ちはフラットのままが良い。そう考えるとのだけど、フラットのまま5年暮らしたら、きっと心が死んでしまう。

 そうしてふと思う。
 ティアには前世の記憶がある。記憶があるから、神との対話も、神託によって変わって行く世界も、ゲーム感覚でいられる。

 では今までの神子はどうなのかと思う。思って震えが来た。

 兄はきっと狂う寸前だった。

 この世界には男女がいて、子を成し、世代を継いでいる。男色もあるのかもしれない。でも一般的ではなさそうだ。

 そんな世界の中で、突然、神子ですと言われ、男に抱かれる。しかもその日ごとに違う相手を据えられ、暴力も変態行為も咎められない。全て神の意だと言えば許される場所にひとり。

 狂う。

 兄はあの時、世間の誹謗中傷もあった。そして無償の愛として存在した弟から突き放される。

 あの時、エインで無ければ、兄を連れ出せなかった。エインだから国よりも兄を選べた。

 震えが止まる。
 兄は生きている。エインと一緒に。それはきっと神に勝ったのだろう。

 そして5年に一度、身受けされているはずの神子を、誰も見たことのない不思議。もし無事に市井に帰れているのなら、元神子の絵姿が出回っても良いし、囃し立てられても良いはずだ。なのにそんな話は聞いたことがない。

 生きられない。
 神子は5年も保たずに狂う。
 神殿から解放され、5年も食も排泄もしていない体が元に戻るものなのか。

 5年抱かれ続けた体を誰が欲するのか。

 身受けが名誉なことで、国の繁栄をもたらすとか、程の良い嘘だ。

 食欲はあるのに腹は減らず、飲水さえ必要ない。それなのに出血はする。唾液も出るし、精子も出る。尿に近い分泌液まで出る。

 自分の体でさえ疑わしく思う。
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