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17 旅立ち
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ティアはすぐにアシュのマントに包まれることになり、そのまま竜の背に乗せられた。
「お前の姿は誰にも見られてはならないものだ。絶対にマントを深くかぶっていろ、いいな」
アシュの膝の前に乗せられ、腰がアシュと結びつけられた。そのまま飛翔をし、ティアは動揺を隠せない。
「アシュ様、アシュ様、これは、いったい」
混乱のまま言葉にすれば、アシュはティアの腰を強く抱き、耳元に顔を寄せる。
「おまえは神子だ。わかるか?」
「……兄さまと、一緒の?」
「そうだ、おまえが次の神子だ。俺が傍にいることがわかったうえで、神はあの瞬間に天啓を示したのだろう。俺におまえを神殿まで連れて行けということだ。クソッ」
「アシュ様?」
悔しそうな声が後ろから聞こえる。ティアはまだ混乱している。
状況はわかった。兄と同じ神子になる。これから行く先は神殿で、きっと兄と会っていた部屋に連れて行かれるのだろう。
「おまえが黒髪黒目から神がかりに色を変えた時、気づくべきだった。獣人国にだけ災害が起こらないことを怪しむべきだった。神はおまえが成人を迎える日を待っていたんだ。クソッ、どれだけ俺を翻弄すれば良いんだ」
「アシュ様? 僕は何の教育も受けていません。神官見習いの時だって、ほとんど講義を受けていませんでした。なのに神子になれるのでしょうか」
ティアは不安だ。兄のように長く神官として勤めていたわけではない。どちらかといえば軍人になれたら良いなと思うくらいで、やっと2年が過ぎたから、ひとりで生きて行こうと決めたばかりで……。
「神の意を聞くのが神子の仕事だ。神が選んだ。勤まるもなにも、おまえにしかできない仕事だ」
「……そうなんですか。これって名誉なことですか? なのになぜアシュ様は怒っているのでしょう」
ティアがそう言うと、アシュは一層強くティアの腰を抱いた。
「おまえはすでに天啓を受けた。だからもう神のものなんだよ。俺はおまえに何も告げることはできない。告げれば俺が罰せられる。ティア、俺はおまえの幸せを望んでいた。ごく普通に、ただの人として、好きな人と結ばれ、幸せに生きて行くのを見守ろうと思っていたんだ。なのに……」
アシュの後悔が背中に伝わる。
「アシュ様には本当に良くして頂きました。たくさんご迷惑を掛けてしまったのに、何も返せずにすみません。でもアシュ様は僕の身受け候補になってくれるのでしょう? この先も、会うことができますね」
ティアがそう言うと、アシュは苦しそうな声を出した。嗚咽だろうか、泣いているのだろうか。ティアは竜の飛翔により受ける風で、後ろを見ることができなかった。
「本当は会わない方が良いのかもしれない。だが、俺はひどい男だ。ティア、俺を嫌ってくれても構わない。もしそうであるなら、告げてくれ。すぐに候補を降りよう」
ティアの頬にアシュの唇が触れる。
上空の風に冷えた唇が、冷えた頬に触れた。
触れたのだろう。ティアには良くわからなかった。
「お前の姿は誰にも見られてはならないものだ。絶対にマントを深くかぶっていろ、いいな」
アシュの膝の前に乗せられ、腰がアシュと結びつけられた。そのまま飛翔をし、ティアは動揺を隠せない。
「アシュ様、アシュ様、これは、いったい」
混乱のまま言葉にすれば、アシュはティアの腰を強く抱き、耳元に顔を寄せる。
「おまえは神子だ。わかるか?」
「……兄さまと、一緒の?」
「そうだ、おまえが次の神子だ。俺が傍にいることがわかったうえで、神はあの瞬間に天啓を示したのだろう。俺におまえを神殿まで連れて行けということだ。クソッ」
「アシュ様?」
悔しそうな声が後ろから聞こえる。ティアはまだ混乱している。
状況はわかった。兄と同じ神子になる。これから行く先は神殿で、きっと兄と会っていた部屋に連れて行かれるのだろう。
「おまえが黒髪黒目から神がかりに色を変えた時、気づくべきだった。獣人国にだけ災害が起こらないことを怪しむべきだった。神はおまえが成人を迎える日を待っていたんだ。クソッ、どれだけ俺を翻弄すれば良いんだ」
「アシュ様? 僕は何の教育も受けていません。神官見習いの時だって、ほとんど講義を受けていませんでした。なのに神子になれるのでしょうか」
ティアは不安だ。兄のように長く神官として勤めていたわけではない。どちらかといえば軍人になれたら良いなと思うくらいで、やっと2年が過ぎたから、ひとりで生きて行こうと決めたばかりで……。
「神の意を聞くのが神子の仕事だ。神が選んだ。勤まるもなにも、おまえにしかできない仕事だ」
「……そうなんですか。これって名誉なことですか? なのになぜアシュ様は怒っているのでしょう」
ティアがそう言うと、アシュは一層強くティアの腰を抱いた。
「おまえはすでに天啓を受けた。だからもう神のものなんだよ。俺はおまえに何も告げることはできない。告げれば俺が罰せられる。ティア、俺はおまえの幸せを望んでいた。ごく普通に、ただの人として、好きな人と結ばれ、幸せに生きて行くのを見守ろうと思っていたんだ。なのに……」
アシュの後悔が背中に伝わる。
「アシュ様には本当に良くして頂きました。たくさんご迷惑を掛けてしまったのに、何も返せずにすみません。でもアシュ様は僕の身受け候補になってくれるのでしょう? この先も、会うことができますね」
ティアがそう言うと、アシュは苦しそうな声を出した。嗚咽だろうか、泣いているのだろうか。ティアは竜の飛翔により受ける風で、後ろを見ることができなかった。
「本当は会わない方が良いのかもしれない。だが、俺はひどい男だ。ティア、俺を嫌ってくれても構わない。もしそうであるなら、告げてくれ。すぐに候補を降りよう」
ティアの頬にアシュの唇が触れる。
上空の風に冷えた唇が、冷えた頬に触れた。
触れたのだろう。ティアには良くわからなかった。
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