可愛い子が押し掛けて来たけど信用しても良いのだろうか

サクラギ

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13 ミルルとユートの幸せ

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「おまえ、顔、緩みすぎ」

 お昼休みにマールに言われ、努めて引き締めようと思うが、うまくいかない。

「良い子ができたらしいわね、おめでとう」

 とは、通りすがりに兎のディアに言われた。

「付き合ってねえのに」

 マールの悪態は嫉妬だ。

「わかっている。あの子はウチの冬眠設備を気に入って必要としてくれただけだよ。冬眠が明けて、まともに動けるようになったら、彼の意思の通りにするよ」

 それでも、嬉しい。
 冬眠中というのはデリケートなものだ。通常は家族か伴侶で過ごす。その貴重な時を一緒にいられることの幸せ。顔も緩む。

「まぁ、ミルルがおまえを選ぶなら仕方がない」

「そうなるように頑張るよ」

 キスはした。
 ぼんやりしているミルルに、伺いも立てずにだが。思い出すとニヤける。あれは反則だ。あの可愛さは罪深い。

「蜂蜜の宿には行かないのか? ユートが会いたいと言っていたが」

 マールのお弁当が豪華になってる。デスクには奥方と子どもの写真。絵に描いたような幸せの象徴だ。

「悪いが私は行かないよ。ミルルに会いたければ家に来ても良いが」

「いや、冬季はマスターがいないからね。エルゼを助けようと頑張っているようだ」

 エルゼとは、蜂蜜の宿のマスターの伴侶で、猫族。冬は煮込み料理を中心に提供している。

「年明けには祭りもあるし、宿が満員になる前に仕事を覚えるんだそうだよ」

「そうか、偉いな。ミルルに伝えておくよ」

 そう言うと、マールに睨まれる。

「伴侶気取りだな」

 マールの睨みに苦笑で返した。

「冬眠が明けるまでだ、許せ」

 その後を考えると怖い。ミルルが出て行くと言ったら。考えるだけで恐ろしい。

「そういえばウォルのことだが」

「あぁ、人族を身受けした。店に良くいると聞いていたが」

 ユートに身受けの話はしていないらしい。それこそ権力を使い、ユートの許可無く身柄を引き受け、宿に住み込みで働かせている。

 やり方は貴族らしい横暴ぶりだが、ユートの負担にならないようにする意味なので、見て見ぬふりを決め込んでいる。

 ユートは何も知らずに頑張っている。一生話すつもりはないと聞いているから、ミルルにも話す気はない。

「それがどうやら、つがいだったらしいよ」

 マールの言葉を聞いて、どう解釈すれば良いのかと箸を止めた。

「つがい? あの、あるのか、ないのかわからない、いにしえの伝承か?」

 つがいとは、好きという気持ちよりも強く、引き寄せられて、離さない、離れたくないという、強い絆のことで、お互いを引き寄せる香りがあるというもの。

「ウォルは先祖返りかと言われるくらいに能力が高いらしいよ」

「それで匂いを感じたと?」

 そうだとマールが頷いた。

 そんな話は聞いたことがない。強く相手を愛していて、そういう相手に対して「つがい」という言葉を使うことはある。だがいにしえの意味の「つがい」は聞いたことがない。

「狼族ではあるらしいよな?」

「あれはそういう種族だ。だがウォルは犬族だろ。……まぁ、それでうまく行くのなら、ユートにとっては良い話だとは思うが」

 ウォルがユートを伴侶とし、側に置くというのなら、ウォルが身受けした意味もある。こういったことは偶然が必然となる。運命を引き寄せると言うべきか。

「人族の男の子を伴侶とするのなら、それくらいの繋がりが無ければ無理かもな」

 マールがそう言って、ため息を吐く。
 人族といっても男女差は大きい。

 「つがい」が本当にあって、人族の男がその相手とするならば、運命として受け入れられるかもしれない。

 少なくともウォルにはその器がある。器があるからこそ選べる道だ。でなければ消し去る道にも繋がりかねない。

「そうだな、ユートが幸せになってくれたら、ミルルも喜ぶだろうな」

 ユートの幸せが、ミルルの幸せになれば良い。
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