12 / 24
12 理性の制御は難しい
しおりを挟む
すごいな、と思う。
自分のテリトリーの奥深くに、好きな子がいて、とても安心しきった表情で眠っている。
私の種族的には冬眠を要するのだが、体質も加味して来るようで、私にはさして必要がない。
だがそこにミルルがいると思うと、暇を見つけてはミルルの側にいて、本を読んだり、一緒に眠ったりして過ごしている。
これがとても良い。
なんとも言えない幸福感が私を包んでいる。
「起きる?」
時折、ごそごそ動くミルルに声を掛けると、そのまま寝る時もあるし、目覚めてぼんやりすることもある。
「ミルル、ユートくんが心配していると聞いたから、ここで冬眠する話を伝えておいたよ。それで、悪いのだが……目覚めたらいくらでも弁解する。ミルルを私の恋人だと説明してもらったよ。でなければ皆の反感をかうだろうから」
半分眠っているミルルに話しかける。
うん、って小さく頷いてくれた。
それが嬉しくて頭を撫でたら、その手にすりっと頬を寄せてくれて、何だろうな? 可愛い以外の語録が失われる。
「ほん、よんでるの?」
「あぁ、そうだよ」
「ねない?」
「寝てほしい?」
ずっと右手がミルルの頬に押し付けられている。その手に頬擦りされたのか、頷いたのか。
あまりに可愛くて、本を置いて、ミルルの背中側に寝転ぶと、私の腹に背中を寄せて来て、体の上から回した右手がまたミルルの頬に寄せられる。息が手に当たる。くすぐったい。
「孤児院でいつもこんな感じ?」
いつもこんな感じで眠っているのなら、マールの家で寂しく思うはずだ。
でもミルルはううんっと首を振る。
「ひとりだよ。たまにゆーちゃんがこうやってくれるの」
「そうか」
ゆーちゃん、人族の子か。
その子がミルルに依存して生きて来たのかと思ったが、どうやら違うらしい。どちらかといえばミルルの方なのかもしれないと思う。
「ゆーちゃんはずっと、ぼくをまもっていてくれてる」
手に涙の雫が落ちる。
背中が震えるから、濡れた頬を撫でて、肩を撫でて宥めた。
「ゆーちゃんはすごくて、いじめられても、むかっていって、いっぱいけがしても、だいじょうぶで……ぼくはいつも、かくれてるだけで、せんせいを、よんで、とめてもらう、しかできない」
とてものんびりした口調で、眠さに引き寄せられながら、抗っている。
「ゆーちゃんは、ぼくのこと、すごいって、だいすきって、いってくれるけど……ぼくは、ゆーちゃんががんばってるの、すごいっておもうけど、だいすきだけど、きらいに、なったらどうしようって、こわいよ」
ヒクヒク喉が鳴っている。
ミルルの心情の吐露は、とても可愛らしいものだ。
「ミルルは良い子だよ」
私の言葉に首を振り、ううっと鼻声で唸っている。本当はずっと泣きたかったのだろうと思う。いつも誰かがいる環境にいたし、ミルルにはユートしかいなかったから、弱音を吐く相手がいなかったのだろう。
「ぼくは、よわくて、わるいこ、だよ」
腹に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。震える体が愛おしい。
「だって、ゆーちゃんみたいに、いやだっていえない。いやなこと、わらって、だいじょうぶだって。とおりすぎてくの、まってるだけで、よわいの、もういやなのに」
「ミルルは、ユートくんを守っていたのだろう?」
でなければ、人族がたったひとりで獣人の孤児院で暮らして行けるはずがない。
「まもられてたの、ぼくだよ」
「ミルルがいたから、ユートくんは強くいられたんだ。自分のことを大切に想ってくれている人がいるから強くあれるんだよ」
私もそうだ。
ミルルがいるから、生きていく意味を感じられる。ひとりでは得られない感情がある。
「今はユートくんがひとりになって頑張っているから、ミルルは置いて行かれた気がしているんだよ。大丈夫。嫌いになんてならないよ。冬眠が明けたら、いっぱい話をすると良い」
「だいじょうぶ? きらいに、ならない?」
「あぁ、大丈夫だ。みんなミルルのことが大好きだよ」
ミルルが振り返って、向かい合う位置に体を移動させた。
間近で顔を見られている。
眠そうな目が私を見ていて、ふっと笑った。
「アレスさん、ゆーちゃんみたい」
可愛すぎる。
ふわっとした笑みに吸い寄せられて、キスしてしまった。
また視線を合わせると、びっくりした表情をしながら、触れた唇に指を這わせていた。
そういう仕草はずるい。
意図してやっている訳じゃないことはわかる。でも煽られる。まだ未成年の男の子の魅力に負け、理性も制御できない悪い大人だ。
「きす、した?」
ああ、もう、どうしてやろうか。
自分のテリトリーの奥深くに、好きな子がいて、とても安心しきった表情で眠っている。
私の種族的には冬眠を要するのだが、体質も加味して来るようで、私にはさして必要がない。
だがそこにミルルがいると思うと、暇を見つけてはミルルの側にいて、本を読んだり、一緒に眠ったりして過ごしている。
これがとても良い。
なんとも言えない幸福感が私を包んでいる。
「起きる?」
時折、ごそごそ動くミルルに声を掛けると、そのまま寝る時もあるし、目覚めてぼんやりすることもある。
「ミルル、ユートくんが心配していると聞いたから、ここで冬眠する話を伝えておいたよ。それで、悪いのだが……目覚めたらいくらでも弁解する。ミルルを私の恋人だと説明してもらったよ。でなければ皆の反感をかうだろうから」
半分眠っているミルルに話しかける。
うん、って小さく頷いてくれた。
それが嬉しくて頭を撫でたら、その手にすりっと頬を寄せてくれて、何だろうな? 可愛い以外の語録が失われる。
「ほん、よんでるの?」
「あぁ、そうだよ」
「ねない?」
「寝てほしい?」
ずっと右手がミルルの頬に押し付けられている。その手に頬擦りされたのか、頷いたのか。
あまりに可愛くて、本を置いて、ミルルの背中側に寝転ぶと、私の腹に背中を寄せて来て、体の上から回した右手がまたミルルの頬に寄せられる。息が手に当たる。くすぐったい。
「孤児院でいつもこんな感じ?」
いつもこんな感じで眠っているのなら、マールの家で寂しく思うはずだ。
でもミルルはううんっと首を振る。
「ひとりだよ。たまにゆーちゃんがこうやってくれるの」
「そうか」
ゆーちゃん、人族の子か。
その子がミルルに依存して生きて来たのかと思ったが、どうやら違うらしい。どちらかといえばミルルの方なのかもしれないと思う。
「ゆーちゃんはずっと、ぼくをまもっていてくれてる」
手に涙の雫が落ちる。
背中が震えるから、濡れた頬を撫でて、肩を撫でて宥めた。
「ゆーちゃんはすごくて、いじめられても、むかっていって、いっぱいけがしても、だいじょうぶで……ぼくはいつも、かくれてるだけで、せんせいを、よんで、とめてもらう、しかできない」
とてものんびりした口調で、眠さに引き寄せられながら、抗っている。
「ゆーちゃんは、ぼくのこと、すごいって、だいすきって、いってくれるけど……ぼくは、ゆーちゃんががんばってるの、すごいっておもうけど、だいすきだけど、きらいに、なったらどうしようって、こわいよ」
ヒクヒク喉が鳴っている。
ミルルの心情の吐露は、とても可愛らしいものだ。
「ミルルは良い子だよ」
私の言葉に首を振り、ううっと鼻声で唸っている。本当はずっと泣きたかったのだろうと思う。いつも誰かがいる環境にいたし、ミルルにはユートしかいなかったから、弱音を吐く相手がいなかったのだろう。
「ぼくは、よわくて、わるいこ、だよ」
腹に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。震える体が愛おしい。
「だって、ゆーちゃんみたいに、いやだっていえない。いやなこと、わらって、だいじょうぶだって。とおりすぎてくの、まってるだけで、よわいの、もういやなのに」
「ミルルは、ユートくんを守っていたのだろう?」
でなければ、人族がたったひとりで獣人の孤児院で暮らして行けるはずがない。
「まもられてたの、ぼくだよ」
「ミルルがいたから、ユートくんは強くいられたんだ。自分のことを大切に想ってくれている人がいるから強くあれるんだよ」
私もそうだ。
ミルルがいるから、生きていく意味を感じられる。ひとりでは得られない感情がある。
「今はユートくんがひとりになって頑張っているから、ミルルは置いて行かれた気がしているんだよ。大丈夫。嫌いになんてならないよ。冬眠が明けたら、いっぱい話をすると良い」
「だいじょうぶ? きらいに、ならない?」
「あぁ、大丈夫だ。みんなミルルのことが大好きだよ」
ミルルが振り返って、向かい合う位置に体を移動させた。
間近で顔を見られている。
眠そうな目が私を見ていて、ふっと笑った。
「アレスさん、ゆーちゃんみたい」
可愛すぎる。
ふわっとした笑みに吸い寄せられて、キスしてしまった。
また視線を合わせると、びっくりした表情をしながら、触れた唇に指を這わせていた。
そういう仕草はずるい。
意図してやっている訳じゃないことはわかる。でも煽られる。まだ未成年の男の子の魅力に負け、理性も制御できない悪い大人だ。
「きす、した?」
ああ、もう、どうしてやろうか。
11
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる