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12 理性の制御は難しい

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 すごいな、と思う。

 自分のテリトリーの奥深くに、好きな子がいて、とても安心しきった表情で眠っている。

 私の種族的には冬眠を要するのだが、体質も加味して来るようで、私にはさして必要がない。

 だがそこにミルルがいると思うと、暇を見つけてはミルルの側にいて、本を読んだり、一緒に眠ったりして過ごしている。

 これがとても良い。
 なんとも言えない幸福感が私を包んでいる。

「起きる?」

 時折、ごそごそ動くミルルに声を掛けると、そのまま寝る時もあるし、目覚めてぼんやりすることもある。

「ミルル、ユートくんが心配していると聞いたから、ここで冬眠する話を伝えておいたよ。それで、悪いのだが……目覚めたらいくらでも弁解する。ミルルを私の恋人だと説明してもらったよ。でなければ皆の反感をかうだろうから」

 半分眠っているミルルに話しかける。
 うん、って小さく頷いてくれた。

 それが嬉しくて頭を撫でたら、その手にすりっと頬を寄せてくれて、何だろうな? 可愛い以外の語録が失われる。

「ほん、よんでるの?」

「あぁ、そうだよ」

「ねない?」

「寝てほしい?」

 ずっと右手がミルルの頬に押し付けられている。その手に頬擦りされたのか、頷いたのか。

 あまりに可愛くて、本を置いて、ミルルの背中側に寝転ぶと、私の腹に背中を寄せて来て、体の上から回した右手がまたミルルの頬に寄せられる。息が手に当たる。くすぐったい。

「孤児院でいつもこんな感じ?」

 いつもこんな感じで眠っているのなら、マールの家で寂しく思うはずだ。

 でもミルルはううんっと首を振る。

「ひとりだよ。たまにゆーちゃんがこうやってくれるの」

「そうか」

 ゆーちゃん、人族の子か。
 その子がミルルに依存して生きて来たのかと思ったが、どうやら違うらしい。どちらかといえばミルルの方なのかもしれないと思う。

「ゆーちゃんはずっと、ぼくをまもっていてくれてる」

 手に涙の雫が落ちる。
 背中が震えるから、濡れた頬を撫でて、肩を撫でて宥めた。

「ゆーちゃんはすごくて、いじめられても、むかっていって、いっぱいけがしても、だいじょうぶで……ぼくはいつも、かくれてるだけで、せんせいを、よんで、とめてもらう、しかできない」

 とてものんびりした口調で、眠さに引き寄せられながら、抗っている。

「ゆーちゃんは、ぼくのこと、すごいって、だいすきって、いってくれるけど……ぼくは、ゆーちゃんががんばってるの、すごいっておもうけど、だいすきだけど、きらいに、なったらどうしようって、こわいよ」

 ヒクヒク喉が鳴っている。
 ミルルの心情の吐露は、とても可愛らしいものだ。

「ミルルは良い子だよ」

 私の言葉に首を振り、ううっと鼻声で唸っている。本当はずっと泣きたかったのだろうと思う。いつも誰かがいる環境にいたし、ミルルにはユートしかいなかったから、弱音を吐く相手がいなかったのだろう。

「ぼくは、よわくて、わるいこ、だよ」

 腹に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。震える体が愛おしい。

「だって、ゆーちゃんみたいに、いやだっていえない。いやなこと、わらって、だいじょうぶだって。とおりすぎてくの、まってるだけで、よわいの、もういやなのに」

「ミルルは、ユートくんを守っていたのだろう?」

 でなければ、人族がたったひとりで獣人の孤児院で暮らして行けるはずがない。

「まもられてたの、ぼくだよ」

「ミルルがいたから、ユートくんは強くいられたんだ。自分のことを大切に想ってくれている人がいるから強くあれるんだよ」

 私もそうだ。
 ミルルがいるから、生きていく意味を感じられる。ひとりでは得られない感情がある。

「今はユートくんがひとりになって頑張っているから、ミルルは置いて行かれた気がしているんだよ。大丈夫。嫌いになんてならないよ。冬眠が明けたら、いっぱい話をすると良い」

「だいじょうぶ? きらいに、ならない?」

「あぁ、大丈夫だ。みんなミルルのことが大好きだよ」

 ミルルが振り返って、向かい合う位置に体を移動させた。

 間近で顔を見られている。
 眠そうな目が私を見ていて、ふっと笑った。

「アレスさん、ゆーちゃんみたい」

 可愛すぎる。
 ふわっとした笑みに吸い寄せられて、キスしてしまった。

 また視線を合わせると、びっくりした表情をしながら、触れた唇に指を這わせていた。

 そういう仕草はずるい。
 意図してやっている訳じゃないことはわかる。でも煽られる。まだ未成年の男の子の魅力に負け、理性も制御できない悪い大人だ。

「きす、した?」

 ああ、もう、どうしてやろうか。
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