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11 突然の訪問
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それからさらに1月後の事。
部屋のドアがノックされた。
鼓動が跳ねた。
だがどうせ荷物だ。
ミルルに出会った最初の日を思い出したが、そんな事はありえない。今はもう図書館に勤め出していて、マールに引き取られたと聞いている。
ノックが部屋に響く。
今日が土曜の午前中だというのも悪い。嫌でも期待する。
ドアスコープを覗く。
誰もいない。
この流れも別に二度目ではない。
置き配達も良くある。
ドアスコープの覗ける範囲を知っている者は範囲を外れたりもする。
ドアを開ける。
トンッと軽いものが腰にしがみついた。
弾みで数歩下り、ドアが閉まった。
えっと……これはいったいどういう状況だ? 胸に顔を擦り付けられていて、濡れて冷たく感じる。
ふわふわの綿毛のような髪が目の前で、小さな耳がピクピク動いている。
撫でて良いのか?
抱きしめても?
「……寒いの」
見上げて来た目には涙がいっぱい溜まっていて、瞬きですっと流れた。
「マールの家は?」
ふるふると首を振る。
「ダメなの?」
また、ふるふると首を振った。
「とても、良くしてもらっています。冬眠用に部屋も用意して下さって、……でも」
ミルルの肩を抱いて、奥の部屋に連れて行く。
冬眠は特殊な行動だ。
猫族のマールにはわからない。
「入って」
私の家には冬眠用の空間がある。それは寝室とは別で、木の洞をイメージしていて、その空間から温もりを逃さない場所にトイレが併設されていて、食料の保存場所も付けてある。
薪ストーブに火を入れる。といっても本物の薪ではない。電気ストーブなのだが、見目は薪ストーブという物だ。
「寂しかった?」
洞に入り、ミルルと肩を並べて座る。
暖色系のクッションを背もたれに、毛布を被せる。
うん、と頷くミルルは、庇護欲を駆立てる。
「いつも冬眠の時は仲間と一緒だったから」
「この場所、知ってた?」
うん、と頷く。
「ごめんなさい。最初に来た日、いっぱい見てまわりました。……珍しくて」
「いや、良いよ。私はそれほど冬眠しないのだが、本格的に寒くなると、この場所があるだけで精神的に楽でね」
「すごく、良いなって、思ったんです。こういう場所のある家に住みたいなって思ったから、ここに来たいって思ってしまって……」
「良いよ、嬉しいよ。ずっといてくれて良いよ? 図書館も冬季休暇があるんだろ? 安心してお休み」
部屋が暖まって来たから、眠いのだろう。クッションを枕に、手足を縮こめて寝転ぶミルルの上に毛布を被せる。
ストーブの温度管理に気を配り、手の届く場所に水と軽食を用意した。
まだ冬眠といっても早い段階だ。
うつらうつらして、目覚めてぼんやりして、また眠ってを繰り返す。
ミルルが眠っている間に、マールに連絡を入れた。
部屋のドアがノックされた。
鼓動が跳ねた。
だがどうせ荷物だ。
ミルルに出会った最初の日を思い出したが、そんな事はありえない。今はもう図書館に勤め出していて、マールに引き取られたと聞いている。
ノックが部屋に響く。
今日が土曜の午前中だというのも悪い。嫌でも期待する。
ドアスコープを覗く。
誰もいない。
この流れも別に二度目ではない。
置き配達も良くある。
ドアスコープの覗ける範囲を知っている者は範囲を外れたりもする。
ドアを開ける。
トンッと軽いものが腰にしがみついた。
弾みで数歩下り、ドアが閉まった。
えっと……これはいったいどういう状況だ? 胸に顔を擦り付けられていて、濡れて冷たく感じる。
ふわふわの綿毛のような髪が目の前で、小さな耳がピクピク動いている。
撫でて良いのか?
抱きしめても?
「……寒いの」
見上げて来た目には涙がいっぱい溜まっていて、瞬きですっと流れた。
「マールの家は?」
ふるふると首を振る。
「ダメなの?」
また、ふるふると首を振った。
「とても、良くしてもらっています。冬眠用に部屋も用意して下さって、……でも」
ミルルの肩を抱いて、奥の部屋に連れて行く。
冬眠は特殊な行動だ。
猫族のマールにはわからない。
「入って」
私の家には冬眠用の空間がある。それは寝室とは別で、木の洞をイメージしていて、その空間から温もりを逃さない場所にトイレが併設されていて、食料の保存場所も付けてある。
薪ストーブに火を入れる。といっても本物の薪ではない。電気ストーブなのだが、見目は薪ストーブという物だ。
「寂しかった?」
洞に入り、ミルルと肩を並べて座る。
暖色系のクッションを背もたれに、毛布を被せる。
うん、と頷くミルルは、庇護欲を駆立てる。
「いつも冬眠の時は仲間と一緒だったから」
「この場所、知ってた?」
うん、と頷く。
「ごめんなさい。最初に来た日、いっぱい見てまわりました。……珍しくて」
「いや、良いよ。私はそれほど冬眠しないのだが、本格的に寒くなると、この場所があるだけで精神的に楽でね」
「すごく、良いなって、思ったんです。こういう場所のある家に住みたいなって思ったから、ここに来たいって思ってしまって……」
「良いよ、嬉しいよ。ずっといてくれて良いよ? 図書館も冬季休暇があるんだろ? 安心してお休み」
部屋が暖まって来たから、眠いのだろう。クッションを枕に、手足を縮こめて寝転ぶミルルの上に毛布を被せる。
ストーブの温度管理に気を配り、手の届く場所に水と軽食を用意した。
まだ冬眠といっても早い段階だ。
うつらうつらして、目覚めてぼんやりして、また眠ってを繰り返す。
ミルルが眠っている間に、マールに連絡を入れた。
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