上 下
11 / 24

11 突然の訪問

しおりを挟む
 それからさらに1月後の事。

 部屋のドアがノックされた。
 鼓動が跳ねた。
 だがどうせ荷物だ。
 ミルルに出会った最初の日を思い出したが、そんな事はありえない。今はもう図書館に勤め出していて、マールに引き取られたと聞いている。

 ノックが部屋に響く。
 今日が土曜の午前中だというのも悪い。嫌でも期待する。

 ドアスコープを覗く。
 誰もいない。

 この流れも別に二度目ではない。
 置き配達も良くある。
 ドアスコープの覗ける範囲を知っている者は範囲を外れたりもする。

 ドアを開ける。
 トンッと軽いものが腰にしがみついた。

 弾みで数歩下り、ドアが閉まった。

 えっと……これはいったいどういう状況だ? 胸に顔を擦り付けられていて、濡れて冷たく感じる。

 ふわふわの綿毛のような髪が目の前で、小さな耳がピクピク動いている。

 撫でて良いのか?
 抱きしめても?

「……寒いの」

 見上げて来た目には涙がいっぱい溜まっていて、瞬きですっと流れた。

「マールの家は?」

 ふるふると首を振る。

「ダメなの?」

 また、ふるふると首を振った。

「とても、良くしてもらっています。冬眠用に部屋も用意して下さって、……でも」

 ミルルの肩を抱いて、奥の部屋に連れて行く。

 冬眠は特殊な行動だ。
 猫族のマールにはわからない。

「入って」

 私の家には冬眠用の空間がある。それは寝室とは別で、木の洞をイメージしていて、その空間から温もりを逃さない場所にトイレが併設されていて、食料の保存場所も付けてある。

 薪ストーブに火を入れる。といっても本物の薪ではない。電気ストーブなのだが、見目は薪ストーブという物だ。

「寂しかった?」

 洞に入り、ミルルと肩を並べて座る。
 暖色系のクッションを背もたれに、毛布を被せる。

 うん、と頷くミルルは、庇護欲を駆立てる。

「いつも冬眠の時は仲間と一緒だったから」

「この場所、知ってた?」

 うん、と頷く。

「ごめんなさい。最初に来た日、いっぱい見てまわりました。……珍しくて」

「いや、良いよ。私はそれほど冬眠しないのだが、本格的に寒くなると、この場所があるだけで精神的に楽でね」

「すごく、良いなって、思ったんです。こういう場所のある家に住みたいなって思ったから、ここに来たいって思ってしまって……」

「良いよ、嬉しいよ。ずっといてくれて良いよ? 図書館も冬季休暇があるんだろ? 安心してお休み」

 部屋が暖まって来たから、眠いのだろう。クッションを枕に、手足を縮こめて寝転ぶミルルの上に毛布を被せる。

 ストーブの温度管理に気を配り、手の届く場所に水と軽食を用意した。

 まだ冬眠といっても早い段階だ。
 うつらうつらして、目覚めてぼんやりして、また眠ってを繰り返す。

 ミルルが眠っている間に、マールに連絡を入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...