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10 嫉妬と未練で胸が傷む
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それから1月後の事。
蜂蜜の宿に人族の子が入ったと街中に噂が流れた。
「ミルルは大丈夫なのか?」
いつものお昼休み、マールに聞く。
蜂蜜の宿にはマスターとウォルがいるらしい事は、先日、マールから聞いていたが。
「正直、本心はわからないが。ユートくんが孤児院を出て最初の数日は通っていたようだが、今はもう行っていないらしい。いつも通り、週5で俺の家に通ってくれて、子どもの面倒を見てくれているよ」
「笑っているか?」
そう聞いて、それは意味のない事だと思った。ミルルの笑顔は社交辞令だ。
「ああ、いつもとても可愛いよ」
嫉妬だ。
あの笑顔が社交辞令だろうが、何だろうが、側で見ていられるマールが羨ましい。
「それなら良かった」
泣いていないか?
誰もいない所で、ひとりで。
いじめられていないか?
心配ばかりしているが、私に出来る事は何一つない。
ウォルだったらうまく誘導して、ミルルを守ってくれたかもしれない。
蜂蜜の宿の仕事は、接客だけでなく、宿の掃除や荷物運びもある。体の小さなミルルには不向きだが、人族の子と一緒であれば働けたのでは?
私が無理を言い出したばかりに。
「そうだ、マール。2区画先に子ども用の図書館が建設されているだろう? そこの求人が出ていたよ。ミルルに似合うと思わないか?」
本を扱うのも力を用するが、子どもの扱いに慣れているミルルだったら上手く働けそうだと思った。
「あぁ、それならもう面接を受けに行って、合否の連絡待ちだそうだ」
「大丈夫なのか?」
「あぁ、こういったのもコネが必要だろ?」
マールがニヤリと口角を上げた。
「ウォルか」
私がそう言うと、マールが頷く。
「ウォルは王族にも顔が利くらしいよ」
「王族の口添えか?」
もう嫉妬レベルではない。悔しいと思うのも間違っている。身分差社会だが、それ以上に能力差がある。日々、退屈だと思いながら、身動きひとつしない私だ。比べる事さえ烏滸がましい。
「職が決まったら、身受けの話をしようと思っているよ。成人まで待って独り立ちすれば良いのだろうが、ああいった場所は早く出るに限るからね」
「あぁ、私もその方が良いと思っていた」
孤児院から獣人の子を引き取る際は、両親が揃っている家庭の方が有利だ。マールの家にはお手伝いに入っている。より許可が下りやすいだろう。
「冬眠の事を気にしていた。気にかけてあげてくれ」
「あぁ、わかっている」
心配でならない。
マールは冬眠しない。もちろん奥方も。
私が適任なのでは? と思い、ミルルに首を振られた表情を思い出す。
目にいっぱい涙を浮かべて、頬を赤らめて、必死に見上げていた。
抱きしめたい。
だが、出来ない。
蜂蜜の宿に人族の子が入ったと街中に噂が流れた。
「ミルルは大丈夫なのか?」
いつものお昼休み、マールに聞く。
蜂蜜の宿にはマスターとウォルがいるらしい事は、先日、マールから聞いていたが。
「正直、本心はわからないが。ユートくんが孤児院を出て最初の数日は通っていたようだが、今はもう行っていないらしい。いつも通り、週5で俺の家に通ってくれて、子どもの面倒を見てくれているよ」
「笑っているか?」
そう聞いて、それは意味のない事だと思った。ミルルの笑顔は社交辞令だ。
「ああ、いつもとても可愛いよ」
嫉妬だ。
あの笑顔が社交辞令だろうが、何だろうが、側で見ていられるマールが羨ましい。
「それなら良かった」
泣いていないか?
誰もいない所で、ひとりで。
いじめられていないか?
心配ばかりしているが、私に出来る事は何一つない。
ウォルだったらうまく誘導して、ミルルを守ってくれたかもしれない。
蜂蜜の宿の仕事は、接客だけでなく、宿の掃除や荷物運びもある。体の小さなミルルには不向きだが、人族の子と一緒であれば働けたのでは?
私が無理を言い出したばかりに。
「そうだ、マール。2区画先に子ども用の図書館が建設されているだろう? そこの求人が出ていたよ。ミルルに似合うと思わないか?」
本を扱うのも力を用するが、子どもの扱いに慣れているミルルだったら上手く働けそうだと思った。
「あぁ、それならもう面接を受けに行って、合否の連絡待ちだそうだ」
「大丈夫なのか?」
「あぁ、こういったのもコネが必要だろ?」
マールがニヤリと口角を上げた。
「ウォルか」
私がそう言うと、マールが頷く。
「ウォルは王族にも顔が利くらしいよ」
「王族の口添えか?」
もう嫉妬レベルではない。悔しいと思うのも間違っている。身分差社会だが、それ以上に能力差がある。日々、退屈だと思いながら、身動きひとつしない私だ。比べる事さえ烏滸がましい。
「職が決まったら、身受けの話をしようと思っているよ。成人まで待って独り立ちすれば良いのだろうが、ああいった場所は早く出るに限るからね」
「あぁ、私もその方が良いと思っていた」
孤児院から獣人の子を引き取る際は、両親が揃っている家庭の方が有利だ。マールの家にはお手伝いに入っている。より許可が下りやすいだろう。
「冬眠の事を気にしていた。気にかけてあげてくれ」
「あぁ、わかっている」
心配でならない。
マールは冬眠しない。もちろん奥方も。
私が適任なのでは? と思い、ミルルに首を振られた表情を思い出す。
目にいっぱい涙を浮かべて、頬を赤らめて、必死に見上げていた。
抱きしめたい。
だが、出来ない。
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