上 下
5 / 24

5 人生初の精一杯な告白

しおりを挟む
 これはどうしたものかと考える。
 ミルルについている人族の匂いも気になるが、それを盾に交際を言い出すのも卑怯な気がしている。

 なんだこれ。
 久しぶりの感覚に、重い腰が上がらない。せめて私が20代前半であったなら、もう少し気軽に言えただろうに。

「……私ではダメだろうか」

 お茶を置いて頭を伏せる。
 気恥ずかしくてミルルを見れない。

「良いですよ?」

 気軽に言われて、思わず顔を上げた。
 可愛く笑んだミルルがいる。
 どういうことだ? と思う。言われ慣れている? 体よく流された気がする。

「良いとは?」

 不安になって聞き返せば、ミルルはにっこり笑って、エプロンを外し、ぴょんと椅子から下りて、私の横に立った。

 混乱している私の手を引き、椅子に座ったままの私の体の向きを変え、手を伸ばされた先に気づき、ミルルの手を握って止めた。

 きょとんとした視線が私を見る。

「これはどういうことだ?」

「慰めるお相手をして下さるのでしょう?」

「慰める?」

 淡いとも言える恋心が別の色で塗りつぶされる。

「ごめんなさい。間違えてしまいましたか? でも、僕を望まれる方は、いつもこういうことで……」

「いや、違うよ、ミルル」

 この子は孤児だと強く思わされる。
 不快に思う前に、悲しい。

 手を伸ばして、膝の上に乗せて、抱きしめる。ミルルの体が固まっている。それはそうだ。初対面の男に膝に乗せられて、警戒しない訳がない。

「いつもこんなことをしているのか?」

 それをマールは知っているのか?
 だから引き取ろうとしている。身元がしっかりしていれば、こういった性的な行為を強いられる場面が減るだろうから。

「……すみません。不快にさせてしまいましたか? でも、お金がいるから」

 ミルルを抱きしめて、肩に顔を埋める。トントンと背中を叩けば、ゆっくりとミルルの力が抜けて行く。

 ふふっとミルルが笑う。

「とても温かいです」

「ミルル、私の所に来ないか?」

「お掃除でしたら、毎週この時間に来られますよ?」

 まるで人形のようにじっとして、私に抱きしめられているミルルに、私と同じ感情はない。

 腕を緩めて、間近で目を見る。
 茶色い瞳がくるりと輝く。

「成人を迎えたら、伴侶として、私と暮らして欲しい」

 本気で求婚した。
 それなのにミルルは笑う。

「まだ出会ったの、2時間前ですよ? 僕、貴方が思っているような子じゃないと思います。でも、嬉しいです。本当にそうなったらどんなに良いか」

 ミルルがゴソゴソして、私の膝の上から降りた。

「ありがとうございます。来週のこの時間に、お掃除に来ますね」

 ぺこっと頭を下げられて、ニコッと笑まれた。それが社交辞令であることは理解した。

「これを持って行って」

 買って来た紙袋を渡した。
 いろんな店のお菓子だ。

「孤児院のみんなにお土産だ」

「ありがとうございます。嬉しいです」

 荷物を持って、去って行くミルルの背中を見送る。

 窓の外を見て、帰って行くミルルを見ていると、同じくらいの背の男の子が駆け寄っていて、一緒に並んで歩いて行った。

 あれがミルルと一緒にいる人族の子か。遠目ではあるが、仲が良いのだとわかった。

 私はこの先、どうしたら良いのか。自分の不甲斐なさに、ため息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

【完結】この手なんの手、気になる手!

鏑木 うりこ
BL
ごく普通に暮らしていた史郎はある夜トラックに引かれて死んでしまう。目を覚ました先には自分は女神だという美少女が立っていた。 「君の残された家族たちをちょっとだけ幸せにするから、私の世界を救う手伝いをしてほしいの!」  頷いたはいいが、この女神はどうも仕事熱心ではなさそうで……。  動物に異様に好かれる人間っているじゃん?それ、俺な?  え?仲が悪い国を何とかしてくれ?俺が何とか出来るもんなのー?  怒涛の不幸からの溺愛ルート。途中から分岐が入る予定です。 溺愛が正規ルートで、IFルートに救いはないです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...