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5 人生初の精一杯な告白
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これはどうしたものかと考える。
ミルルについている人族の匂いも気になるが、それを盾に交際を言い出すのも卑怯な気がしている。
なんだこれ。
久しぶりの感覚に、重い腰が上がらない。せめて私が20代前半であったなら、もう少し気軽に言えただろうに。
「……私ではダメだろうか」
お茶を置いて頭を伏せる。
気恥ずかしくてミルルを見れない。
「良いですよ?」
気軽に言われて、思わず顔を上げた。
可愛く笑んだミルルがいる。
どういうことだ? と思う。言われ慣れている? 体よく流された気がする。
「良いとは?」
不安になって聞き返せば、ミルルはにっこり笑って、エプロンを外し、ぴょんと椅子から下りて、私の横に立った。
混乱している私の手を引き、椅子に座ったままの私の体の向きを変え、手を伸ばされた先に気づき、ミルルの手を握って止めた。
きょとんとした視線が私を見る。
「これはどういうことだ?」
「慰めるお相手をして下さるのでしょう?」
「慰める?」
淡いとも言える恋心が別の色で塗りつぶされる。
「ごめんなさい。間違えてしまいましたか? でも、僕を望まれる方は、いつもこういうことで……」
「いや、違うよ、ミルル」
この子は孤児だと強く思わされる。
不快に思う前に、悲しい。
手を伸ばして、膝の上に乗せて、抱きしめる。ミルルの体が固まっている。それはそうだ。初対面の男に膝に乗せられて、警戒しない訳がない。
「いつもこんなことをしているのか?」
それをマールは知っているのか?
だから引き取ろうとしている。身元がしっかりしていれば、こういった性的な行為を強いられる場面が減るだろうから。
「……すみません。不快にさせてしまいましたか? でも、お金がいるから」
ミルルを抱きしめて、肩に顔を埋める。トントンと背中を叩けば、ゆっくりとミルルの力が抜けて行く。
ふふっとミルルが笑う。
「とても温かいです」
「ミルル、私の所に来ないか?」
「お掃除でしたら、毎週この時間に来られますよ?」
まるで人形のようにじっとして、私に抱きしめられているミルルに、私と同じ感情はない。
腕を緩めて、間近で目を見る。
茶色い瞳がくるりと輝く。
「成人を迎えたら、伴侶として、私と暮らして欲しい」
本気で求婚した。
それなのにミルルは笑う。
「まだ出会ったの、2時間前ですよ? 僕、貴方が思っているような子じゃないと思います。でも、嬉しいです。本当にそうなったらどんなに良いか」
ミルルがゴソゴソして、私の膝の上から降りた。
「ありがとうございます。来週のこの時間に、お掃除に来ますね」
ぺこっと頭を下げられて、ニコッと笑まれた。それが社交辞令であることは理解した。
「これを持って行って」
買って来た紙袋を渡した。
いろんな店のお菓子だ。
「孤児院のみんなにお土産だ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
荷物を持って、去って行くミルルの背中を見送る。
窓の外を見て、帰って行くミルルを見ていると、同じくらいの背の男の子が駆け寄っていて、一緒に並んで歩いて行った。
あれがミルルと一緒にいる人族の子か。遠目ではあるが、仲が良いのだとわかった。
私はこの先、どうしたら良いのか。自分の不甲斐なさに、ため息を吐いた。
ミルルについている人族の匂いも気になるが、それを盾に交際を言い出すのも卑怯な気がしている。
なんだこれ。
久しぶりの感覚に、重い腰が上がらない。せめて私が20代前半であったなら、もう少し気軽に言えただろうに。
「……私ではダメだろうか」
お茶を置いて頭を伏せる。
気恥ずかしくてミルルを見れない。
「良いですよ?」
気軽に言われて、思わず顔を上げた。
可愛く笑んだミルルがいる。
どういうことだ? と思う。言われ慣れている? 体よく流された気がする。
「良いとは?」
不安になって聞き返せば、ミルルはにっこり笑って、エプロンを外し、ぴょんと椅子から下りて、私の横に立った。
混乱している私の手を引き、椅子に座ったままの私の体の向きを変え、手を伸ばされた先に気づき、ミルルの手を握って止めた。
きょとんとした視線が私を見る。
「これはどういうことだ?」
「慰めるお相手をして下さるのでしょう?」
「慰める?」
淡いとも言える恋心が別の色で塗りつぶされる。
「ごめんなさい。間違えてしまいましたか? でも、僕を望まれる方は、いつもこういうことで……」
「いや、違うよ、ミルル」
この子は孤児だと強く思わされる。
不快に思う前に、悲しい。
手を伸ばして、膝の上に乗せて、抱きしめる。ミルルの体が固まっている。それはそうだ。初対面の男に膝に乗せられて、警戒しない訳がない。
「いつもこんなことをしているのか?」
それをマールは知っているのか?
だから引き取ろうとしている。身元がしっかりしていれば、こういった性的な行為を強いられる場面が減るだろうから。
「……すみません。不快にさせてしまいましたか? でも、お金がいるから」
ミルルを抱きしめて、肩に顔を埋める。トントンと背中を叩けば、ゆっくりとミルルの力が抜けて行く。
ふふっとミルルが笑う。
「とても温かいです」
「ミルル、私の所に来ないか?」
「お掃除でしたら、毎週この時間に来られますよ?」
まるで人形のようにじっとして、私に抱きしめられているミルルに、私と同じ感情はない。
腕を緩めて、間近で目を見る。
茶色い瞳がくるりと輝く。
「成人を迎えたら、伴侶として、私と暮らして欲しい」
本気で求婚した。
それなのにミルルは笑う。
「まだ出会ったの、2時間前ですよ? 僕、貴方が思っているような子じゃないと思います。でも、嬉しいです。本当にそうなったらどんなに良いか」
ミルルがゴソゴソして、私の膝の上から降りた。
「ありがとうございます。来週のこの時間に、お掃除に来ますね」
ぺこっと頭を下げられて、ニコッと笑まれた。それが社交辞令であることは理解した。
「これを持って行って」
買って来た紙袋を渡した。
いろんな店のお菓子だ。
「孤児院のみんなにお土産だ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
荷物を持って、去って行くミルルの背中を見送る。
窓の外を見て、帰って行くミルルを見ていると、同じくらいの背の男の子が駆け寄っていて、一緒に並んで歩いて行った。
あれがミルルと一緒にいる人族の子か。遠目ではあるが、仲が良いのだとわかった。
私はこの先、どうしたら良いのか。自分の不甲斐なさに、ため息を吐いた。
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