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3 惰眠後の来客

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 休日を惰眠で燻らせていた。
 そんなことはよくある事で、昼まで寝て、起きて早々、酒を飲む日もある。

 酒は良い。
 酔っている間は思考を手放すことが出来る。ただ翌日の倦怠感は自己嫌悪に苛まれる要因なのだが。

 玄関のドアがノックされる。
 通常であれば、マンションの入り口で足止めされ、インターホンが鳴り、対応をする。それを全てスルーするのは、各部屋に用のある宅配業者か。

 特に何も注文をした記憶はないが、ごくたまに生活を心配する祖母から食材が送られて来ることがある。またそれか? と思い、ドアスコープを覗き、誰も見当たらなくて首を傾げた。

 あれか? 置き配達か? と思いながらドアを開けた。

 視線を下げると、小さな耳付きの頭が見えて、すっと頭を上げて、視線が合うと、ぱあっと笑みを見せた。

「マールさんにお仕事を紹介してもらいました。孤児院から来ました。ミルルと言います」

 寝起きの、さらに寝過ぎの鈍い思考で、答えになかなか辿り着かないうちに、ドアの隙間を縫うように中に入られてしまった。

「わぁ、汚いですね」

 振り返って、満面の笑みで、非常に堪える一言を貰う。

「あーー……すまないが、他人に部屋に入られるのが嫌いでね。悪いが——」

「だいじょうぶですよ? お片付けは得意です。マールさんには2時間分のお給料を頂いていますから、2時間だけ我慢して下さいね?」

 小首を傾げられ、可愛く笑まれて、断る事への罪悪感に襲われる。

 子どもだ。
 働きに出るくらいだから16~成人を迎える前の歳くらいを想像していたが、見目だけでは13、4歳に見える。

 身長が私の胸元までしかないのも要因か。いや、キラキラした目の輝きかもしれない。小ぶりで柔らかそうな唇のせいか。それとも細く華奢な体つきか。

 頭の上部に丸くて小さな耳はあるが尾はなく人型を保てている。でもシャツの胸元にふわふわの毛が見えていて、どこまで残されているのかと思わなくもない。

 まだ未成年の小柄で頼りなげな見た目に、言い分を叶えてあげなくてはという、同情の念が湧き上がり、数秒で可愛さに堕とされている自分に観念した。

「……わかった。2時間だけだ。掃除をお願いするが、物の位置を変えるな。何も捨てなくて良い」

「わかりました! ありがとうございます」

 可愛い。
 これはマールが絆されるわけだと思う。とりあえず簡単な外出着に着替え、外に出た。

 盗まれる物もない簡易な生活だ。
 それにもし盗みを働くような相手だったら、マールの目を覚まさせる材料になる。だが、そうであって欲しくないと思う自分がいる。

 孤児院の出ということは、親に捨てられたか、亡くしたか。孤児院に引き取られ、育てられただけマシだとは思うが、性格の根本がねじ曲がった者が多い。それが私の評価だったのだが。

 近くの店に入り、コーヒーと軽い食事を頼んだ。2時間を潰す為に、雑誌を手に取る。

 朝にしては遅く、昼にしては早い休日の店内は、私と同じように暇を持て余す者が多い。

 この店が元々のんびりした雰囲気の店だからもあるが、それでも昼食時には混み合って来る。2時間はその前に出られる程よい時間かもと思い、雑誌のコラムに視線を落とした。
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