3 / 24
3 惰眠後の来客
しおりを挟む
休日を惰眠で燻らせていた。
そんなことはよくある事で、昼まで寝て、起きて早々、酒を飲む日もある。
酒は良い。
酔っている間は思考を手放すことが出来る。ただ翌日の倦怠感は自己嫌悪に苛まれる要因なのだが。
玄関のドアがノックされる。
通常であれば、マンションの入り口で足止めされ、インターホンが鳴り、対応をする。それを全てスルーするのは、各部屋に用のある宅配業者か。
特に何も注文をした記憶はないが、ごくたまに生活を心配する祖母から食材が送られて来ることがある。またそれか? と思い、ドアスコープを覗き、誰も見当たらなくて首を傾げた。
あれか? 置き配達か? と思いながらドアを開けた。
視線を下げると、小さな耳付きの頭が見えて、すっと頭を上げて、視線が合うと、ぱあっと笑みを見せた。
「マールさんにお仕事を紹介してもらいました。孤児院から来ました。ミルルと言います」
寝起きの、さらに寝過ぎの鈍い思考で、答えになかなか辿り着かないうちに、ドアの隙間を縫うように中に入られてしまった。
「わぁ、汚いですね」
振り返って、満面の笑みで、非常に堪える一言を貰う。
「あーー……すまないが、他人に部屋に入られるのが嫌いでね。悪いが——」
「だいじょうぶですよ? お片付けは得意です。マールさんには2時間分のお給料を頂いていますから、2時間だけ我慢して下さいね?」
小首を傾げられ、可愛く笑まれて、断る事への罪悪感に襲われる。
子どもだ。
働きに出るくらいだから16~成人を迎える前の歳くらいを想像していたが、見目だけでは13、4歳に見える。
身長が私の胸元までしかないのも要因か。いや、キラキラした目の輝きかもしれない。小ぶりで柔らかそうな唇のせいか。それとも細く華奢な体つきか。
頭の上部に丸くて小さな耳はあるが尾はなく人型を保てている。でもシャツの胸元にふわふわの毛が見えていて、どこまで残されているのかと思わなくもない。
まだ未成年の小柄で頼りなげな見た目に、言い分を叶えてあげなくてはという、同情の念が湧き上がり、数秒で可愛さに堕とされている自分に観念した。
「……わかった。2時間だけだ。掃除をお願いするが、物の位置を変えるな。何も捨てなくて良い」
「わかりました! ありがとうございます」
可愛い。
これはマールが絆されるわけだと思う。とりあえず簡単な外出着に着替え、外に出た。
盗まれる物もない簡易な生活だ。
それにもし盗みを働くような相手だったら、マールの目を覚まさせる材料になる。だが、そうであって欲しくないと思う自分がいる。
孤児院の出ということは、親に捨てられたか、亡くしたか。孤児院に引き取られ、育てられただけマシだとは思うが、性格の根本がねじ曲がった者が多い。それが私の評価だったのだが。
近くの店に入り、コーヒーと軽い食事を頼んだ。2時間を潰す為に、雑誌を手に取る。
朝にしては遅く、昼にしては早い休日の店内は、私と同じように暇を持て余す者が多い。
この店が元々のんびりした雰囲気の店だからもあるが、それでも昼食時には混み合って来る。2時間はその前に出られる程よい時間かもと思い、雑誌のコラムに視線を落とした。
そんなことはよくある事で、昼まで寝て、起きて早々、酒を飲む日もある。
酒は良い。
酔っている間は思考を手放すことが出来る。ただ翌日の倦怠感は自己嫌悪に苛まれる要因なのだが。
玄関のドアがノックされる。
通常であれば、マンションの入り口で足止めされ、インターホンが鳴り、対応をする。それを全てスルーするのは、各部屋に用のある宅配業者か。
特に何も注文をした記憶はないが、ごくたまに生活を心配する祖母から食材が送られて来ることがある。またそれか? と思い、ドアスコープを覗き、誰も見当たらなくて首を傾げた。
あれか? 置き配達か? と思いながらドアを開けた。
視線を下げると、小さな耳付きの頭が見えて、すっと頭を上げて、視線が合うと、ぱあっと笑みを見せた。
「マールさんにお仕事を紹介してもらいました。孤児院から来ました。ミルルと言います」
寝起きの、さらに寝過ぎの鈍い思考で、答えになかなか辿り着かないうちに、ドアの隙間を縫うように中に入られてしまった。
「わぁ、汚いですね」
振り返って、満面の笑みで、非常に堪える一言を貰う。
「あーー……すまないが、他人に部屋に入られるのが嫌いでね。悪いが——」
「だいじょうぶですよ? お片付けは得意です。マールさんには2時間分のお給料を頂いていますから、2時間だけ我慢して下さいね?」
小首を傾げられ、可愛く笑まれて、断る事への罪悪感に襲われる。
子どもだ。
働きに出るくらいだから16~成人を迎える前の歳くらいを想像していたが、見目だけでは13、4歳に見える。
身長が私の胸元までしかないのも要因か。いや、キラキラした目の輝きかもしれない。小ぶりで柔らかそうな唇のせいか。それとも細く華奢な体つきか。
頭の上部に丸くて小さな耳はあるが尾はなく人型を保てている。でもシャツの胸元にふわふわの毛が見えていて、どこまで残されているのかと思わなくもない。
まだ未成年の小柄で頼りなげな見た目に、言い分を叶えてあげなくてはという、同情の念が湧き上がり、数秒で可愛さに堕とされている自分に観念した。
「……わかった。2時間だけだ。掃除をお願いするが、物の位置を変えるな。何も捨てなくて良い」
「わかりました! ありがとうございます」
可愛い。
これはマールが絆されるわけだと思う。とりあえず簡単な外出着に着替え、外に出た。
盗まれる物もない簡易な生活だ。
それにもし盗みを働くような相手だったら、マールの目を覚まさせる材料になる。だが、そうであって欲しくないと思う自分がいる。
孤児院の出ということは、親に捨てられたか、亡くしたか。孤児院に引き取られ、育てられただけマシだとは思うが、性格の根本がねじ曲がった者が多い。それが私の評価だったのだが。
近くの店に入り、コーヒーと軽い食事を頼んだ。2時間を潰す為に、雑誌を手に取る。
朝にしては遅く、昼にしては早い休日の店内は、私と同じように暇を持て余す者が多い。
この店が元々のんびりした雰囲気の店だからもあるが、それでも昼食時には混み合って来る。2時間はその前に出られる程よい時間かもと思い、雑誌のコラムに視線を落とした。
11
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~
四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。
ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。
高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。
※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み)
■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)
王子様のご帰還です
小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。
平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。
そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。
何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!?
異世界転移 王子×王子・・・?
こちらは個人サイトからの再録になります。
十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。
EDEN ―孕ませ―
豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。
平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。
【ご注意】
※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。
※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。
※前半はほとんどがエロシーンです。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
婚約破棄は計画的にご利用ください
Cleyera
BL
王太子の発表がされる夜会で、俺は立太子される第二王子殿下に、妹が婚約破棄を告げられる現場を見てしまった
第二王子殿下の婚約者は妹じゃないのを、殿下は知らないらしい
……どうしよう
:注意:
素人です
人外、獣人です、耳と尻尾のみ
エロ本番はないですが、匂わせる描写はあります
勢いで書いたので、ツッコミはご容赦ください
ざまぁできませんでした(´Д` ;)
男娼ウサギは寡黙なトラに愛される
てんつぶ
BL
「も……っ、やだ……!この、絶倫……!」
・・・・
獣人の世界では、過去にバース性が存在した。
獣としての発情期も無くなったこの時代に、ウラギ獣人のラヴィはそれを隠して男娼として生きていた。
あどけなくも美しく、具合の良いラヴィは人気があった。
でも、人気があるだけ。本気でラヴィを欲しがる者はいない事を、彼は痛い程知っていた。
だけどそう――たった一度だけ自分を抱いた、あのトラ獣人だけは自分に執着を示していたのだ。
干支BL。
オメガバ事前知識有前提のゆるい設定です。
三が日の間に完結したいところ。
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる