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蜜月
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ツヴァイがシャルの様子を見に家に帰ると言うから、ミコトは宿にカレンを呼んで欲しいとお願いした。異世界の竜の渓谷。しかもシャルとツヴァイがいる次元に来られたのは、そうなったら良いなとカレンと話していたから、良かったのだけど、勝手のわからない竜人の世界だ。事前の打ち合わせが必要だ。
ツヴァイは家に戻り、嫌がるシャルからカレンを奪って来たそうだ。じゃないと膝の間にカレンを置いて、そのままずっと気が済むまでいただろうとツヴァイは言う。竜の執着心は半端ない。
「いらっしゃい」
テーブルには日本の食べ物が並べてある。って言っても宿の亭主は日本人だけど昭和の人だ。今風のものはないけど、かろうじてカツとかオムライスがある。それだけでもありがたい。というのも竜人が普段食べているのが虫と肉と聞いてゾッとしたからだ。
「ミコト」
カレンが可愛くなっている。シャルに愛されたからか? とミコトは思う。
「また迎えに来る。誰が来てもドアの鍵を開けるなよ」
ツヴァイはそう言ってドアを閉めると、重い音を立てて鍵が閉まった。ツヴァイも過保護だ。軟禁されている気分になる。
「お腹空いてねえ?」
「食べる」
部屋の中はクリーニングが終了している。今朝までの情事の形跡は全て消した。お風呂の湯も張り替えたし、安全な場所でカレンとゆっくりできるのは嬉しい。
可愛い姿でガツガツ食べるカレン。シャルに生活能力が無いのは神格の白銀の竜だから。しかも話を聞いて驚く。
「なーなー知ってる? さっきツヴァイに聞いたんだけどさ、シャルもツヴァイも働いたことがねえんだって! ありえねえよな?」
「え? じゃあ、ここの支払いとかどうするんだ?」
そこだよ! とミコトが身を乗り出した。
「彼ら神様ポジションだろ? 反対側の島の宗教団体からお布施もらってるんだとよ。年1でツヴァイが取りに行ってるって聞いてさ、すげえよな!」
「お布施か。本気で神様扱いなんだな」
カレンは納得している。
カレンもミコトも生きてきた状況の記憶はそのままだった。意外にもシャルとツヴァイの記憶が変わって来ている。双子島の向こう側に宗教団体など無かった筈だ。双子島に人は竜人の番い以外いないと聞いていた。なのに人の竜を崇める宗教団体があるのは、ナギが始めたからだと、カレンとミコトには想像できる。
「カレンはこれからどうする?」
「んー特に考えてないな」
カレンの気の抜けた返事に、ミコトはカレンの生き方を思い出してため息を吐いた。
「そうかカレンは元から竜の為だけに生きて来たんだったな! 俺は無理! ツヴァイとずっと閉じこもってるとかありえねえ!」
「どうする?」
「働く! 成人男性だったら普通だろ? お布施で生きるとか考えられねえ」
カレンは食事を終えて一息ついている。キョロキョロしてお風呂を見つけて、入って良い? と言った。
「どこで働く? ツヴァイが許すかな?」
「この宿、日本人が経営してる。ここで働くか、こういう店出すとか、良くねえ? とにかく何もせずダラダラ暮らすとか無理だから、俺!」
カレンはバスタブの側で服を脱いでシャワールームに入った。ミコトも追いかける。
「体平気?」
シャワールームに一緒に入って一緒に体を洗う。双子島の竜の渓谷にいた時、泉の冷たい水で体を洗っていたのは最近の話だ。
「うん、大丈夫」
カレンのお腹の傷に触れる。そうしたらカレンが笑った。
「キスマークがいっぱいだ」
カレンがミコトの肩に触れる。丸い火傷の痕とキスマーク。愛された証拠。
「カレンだって愛されたんだろ?」
カレンの体は綺麗だ。シャルが気を使ったのだろう。
「うん」
カレンの顔が赤いのはシャワーのせいか、照れたせいか。
シャワーを出て湯船に浸かる。カレンは久しぶりのお風呂だったようだ。事後の処理はどうしたのかとは聞かない。
「のんびりしたらさ、お昼寝する?」
「うん、いいね」
双子島の竜の渓谷に行っても次元の繋がりは無かった。絶望を味わったあの時。生きる気力さえ失いそうだったあの時。耐えられたのは二人だったからだ。絶対に迎えに来る。限界だって思うまで待って来なかったら、向こう側へ戻ろう。戻ってここで生きよう。そう言ってお互いに勇気付け合った。割と人らしく生活出来たのは、泉があったこと、小屋があったこと、食料に困らなかったことが大きい。
竜の渓谷で時間を測るのは難しい。1週間だったのか、1月だったのか、わからない。でも来てくれた。もう一度会えた。愛してくれた。愛せた。
ツヴァイは家に戻り、嫌がるシャルからカレンを奪って来たそうだ。じゃないと膝の間にカレンを置いて、そのままずっと気が済むまでいただろうとツヴァイは言う。竜の執着心は半端ない。
「いらっしゃい」
テーブルには日本の食べ物が並べてある。って言っても宿の亭主は日本人だけど昭和の人だ。今風のものはないけど、かろうじてカツとかオムライスがある。それだけでもありがたい。というのも竜人が普段食べているのが虫と肉と聞いてゾッとしたからだ。
「ミコト」
カレンが可愛くなっている。シャルに愛されたからか? とミコトは思う。
「また迎えに来る。誰が来てもドアの鍵を開けるなよ」
ツヴァイはそう言ってドアを閉めると、重い音を立てて鍵が閉まった。ツヴァイも過保護だ。軟禁されている気分になる。
「お腹空いてねえ?」
「食べる」
部屋の中はクリーニングが終了している。今朝までの情事の形跡は全て消した。お風呂の湯も張り替えたし、安全な場所でカレンとゆっくりできるのは嬉しい。
可愛い姿でガツガツ食べるカレン。シャルに生活能力が無いのは神格の白銀の竜だから。しかも話を聞いて驚く。
「なーなー知ってる? さっきツヴァイに聞いたんだけどさ、シャルもツヴァイも働いたことがねえんだって! ありえねえよな?」
「え? じゃあ、ここの支払いとかどうするんだ?」
そこだよ! とミコトが身を乗り出した。
「彼ら神様ポジションだろ? 反対側の島の宗教団体からお布施もらってるんだとよ。年1でツヴァイが取りに行ってるって聞いてさ、すげえよな!」
「お布施か。本気で神様扱いなんだな」
カレンは納得している。
カレンもミコトも生きてきた状況の記憶はそのままだった。意外にもシャルとツヴァイの記憶が変わって来ている。双子島の向こう側に宗教団体など無かった筈だ。双子島に人は竜人の番い以外いないと聞いていた。なのに人の竜を崇める宗教団体があるのは、ナギが始めたからだと、カレンとミコトには想像できる。
「カレンはこれからどうする?」
「んー特に考えてないな」
カレンの気の抜けた返事に、ミコトはカレンの生き方を思い出してため息を吐いた。
「そうかカレンは元から竜の為だけに生きて来たんだったな! 俺は無理! ツヴァイとずっと閉じこもってるとかありえねえ!」
「どうする?」
「働く! 成人男性だったら普通だろ? お布施で生きるとか考えられねえ」
カレンは食事を終えて一息ついている。キョロキョロしてお風呂を見つけて、入って良い? と言った。
「どこで働く? ツヴァイが許すかな?」
「この宿、日本人が経営してる。ここで働くか、こういう店出すとか、良くねえ? とにかく何もせずダラダラ暮らすとか無理だから、俺!」
カレンはバスタブの側で服を脱いでシャワールームに入った。ミコトも追いかける。
「体平気?」
シャワールームに一緒に入って一緒に体を洗う。双子島の竜の渓谷にいた時、泉の冷たい水で体を洗っていたのは最近の話だ。
「うん、大丈夫」
カレンのお腹の傷に触れる。そうしたらカレンが笑った。
「キスマークがいっぱいだ」
カレンがミコトの肩に触れる。丸い火傷の痕とキスマーク。愛された証拠。
「カレンだって愛されたんだろ?」
カレンの体は綺麗だ。シャルが気を使ったのだろう。
「うん」
カレンの顔が赤いのはシャワーのせいか、照れたせいか。
シャワーを出て湯船に浸かる。カレンは久しぶりのお風呂だったようだ。事後の処理はどうしたのかとは聞かない。
「のんびりしたらさ、お昼寝する?」
「うん、いいね」
双子島の竜の渓谷に行っても次元の繋がりは無かった。絶望を味わったあの時。生きる気力さえ失いそうだったあの時。耐えられたのは二人だったからだ。絶対に迎えに来る。限界だって思うまで待って来なかったら、向こう側へ戻ろう。戻ってここで生きよう。そう言ってお互いに勇気付け合った。割と人らしく生活出来たのは、泉があったこと、小屋があったこと、食料に困らなかったことが大きい。
竜の渓谷で時間を測るのは難しい。1週間だったのか、1月だったのか、わからない。でも来てくれた。もう一度会えた。愛してくれた。愛せた。
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