竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

文字の大きさ
上 下
59 / 68
白銀の竜

8

しおりを挟む
「ユイト、……ユイ・デ・アイル……ユアか」

 シャルが勝手にカレンの子に名前を付けた。カレンの子は不満げだったが、カレンはとても喜んだ。それがカレンの本名だとは知らずに。

「ユイ、ユア、可愛い。今日からユアだ」

 カレンが可愛くそう言ってユイに迫ったから、ユイも仕方なく納得したらしい。

「わかったよ、カレンがコイツを俺の親だっていうのなら、信じるよ。それでカレンが幸せならそれで良いよ」

 ユイがカレンを抱きしめる。そうするとシャルが嫉妬してカレンを引き離した。

「なんだよ、良いだろ? おまえはカレンを連れて行くんだろ? 少しぐらい甘えさせろよ」

 俺の産みの親だと言われたら、シャルも仕方がなくカレンを離す。でも手だけは繋いでおく。それがカレンには甘く思えて嬉しいようだ。

「カレン良かったな」

 ミコトはカレンたちを遠巻きにして見ていて、微笑ましいとニコニコだ。その横左右に黒竜がいる。腕を組んで不貞腐れた表情の二頭は、ミコトを挟んでけん制し合っている。

「カレンは元の場所に戻るんだろ? 俺は……」

 ミコトは左右を見上げる。どちらも好きだ。ミコトには選べない。

「おまえはツヴァイを選べ」

 シャルが勝手に横柄な態度でそう言った。白銀の竜の意見は命令だ。だがこの場合は二頭いる。ツヴァイは従うがアイに従う義務はない。しかもアイはユイの従者でもない。この中で全てを知るのは歴史を知っているシャルだけだ。

「俺はカレンを俺の次元の竜の渓谷へ連れて行く。だからおまえも一緒に来い」

 カレンは少しだけ竜の歴史を知っている。ナギに聞いたからだ。竜の歴史はまだ始まったばかり。これから様々な困難に出会い、打ち勝って行く。その先にシャルたちの存在がある。

「一緒に来て欲しい」

 カレンがアイには申し訳なさそうにして、そう言った。シャルが良く言ったとばかりにカレンの頬を撫でる。

「黒竜さんは本当に俺を受け入れてくれるのか?」

 アイが傷ついた顔をする。引き留めようと手を伸ばし、ツヴァイのけん制の視線を受けて手を止めた。

「名を呼べ、ミコト」

 ツヴァイはミコトを引き寄せて額にキスをした。

「アイごめんなさい」

 そう言ったのはカレンだ。

「アイにはやることがあると思う。ユイの本当の意味での黒竜を傍に置いて欲しいし、黒髪、黒い瞳の子を探してあげて欲しい」

 だってそうだよな? と、カレンはシャルを見上げる。始まりはカレンとシャルになる。だが歴史上はユイとユイの選ぶ相手が始祖の血となる。これは言葉にしないが、カレンには不安もある。これからユイとアイの世界には戦争が起こる。どういう形で行われるのかカレンは知らない。だが確実にある。だからそんな場所にミコトを置いては行けない。人の寿命は短いから、ミコトが生きている間に起こるかどうかはわからないが。

「アイにも素敵な相手がみつかる。俺は、……」

 ミコトが言葉に詰まり、ツヴァイを見た。それから覚悟を決めた表情でアイを見る。

「俺は、汚れてる。俺なんかよりも良いヤツ、いっぱいいる。アイなら大丈夫だ」

 強がりはミコトの癖だ。自分を下げるのも。でもミコトは本当にそうだと思っている。理不尽な状況からさんざん奪われ尽くした体だ。ツヴァイにだっていらないと思われても仕方がない。それなのにツヴァイは欲しいと言ってくれている。何もかも知っているのはツヴァイだ。ツヴァイとは体を繋いだだけじゃない。10年の間、カレンがシャルと会っていた間、ミコトはカレンよりも長い時間をツヴァイと過ごして来た。ツヴァイは聞き役に長けている。ミコトが何を言っても臆せず、寡黙に聞き流すから、カレンは好き勝手にいろいろ話して聞いてもらった。愚痴も、自分の嫌なところも、理不尽な出来事も。だから嫌われたと思った。不潔な体はもう抱けないと思われていたのかと思っていた。でも違う。違うと思えただけで嬉しかった。

「俺はミコトが好きだった。幸せにな」

 アイはミコトを抱きしめて、頬を寄せた。ツヴァイは嫌々ながら、それを見逃してやった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強面な将軍は花嫁を愛でる

小町もなか
BL
異世界転移ファンタジー ※ボーイズラブ小説です 国王である父は悪魔と盟約を交わし、砂漠の国には似つかわしくない白い髪、白い肌、赤い瞳をした異質な末息子ルシャナ王子は、断末魔と共に生贄として短い生涯を終えた。 死んだはずのルシャナが目を覚ましたそこは、ノースフィリアという魔法を使う異世界だった。 伝説の『白き異界人』と言われたのだが、魔力のないルシャナは戸惑うばかりだ。 二度とあちらの世界へ戻れないと知り、将軍マンフリートが世話をしてくれることになった。優しいマンフリートに惹かれていくルシャナ。 だがその思いとは裏腹に、ルシャナの置かれた状況は悪化していった――寿命が減っていくという奇妙な現象が起こり始めたのだ。このままでは命を落としてしまう。 死へのカウントダウンを止める方法はただ一つ。この世界の住人と結婚をすることだった。 マンフリートが立候補してくれたのだが、好きな人に同性結婚を強いるわけにはいかない。 だから拒んだというのに嫌がるルシャナの気持ちを無視してマンフリートは結婚の儀式である体液の交換――つまり強引に抱かれたのだ。 だが儀式が終了すると誰も予想だにしない展開となり……。 鈍感な将軍と内気な王子のピュアなラブストーリー ※すでに同人誌発行済で一冊完結しております。 一巻のみ無料全話配信。 すでに『ムーンライトノベルズ』にて公開済です。 全5巻完結済みの第一巻。カップリングとしては毎巻読み切り。根底の話は5巻で終了です。

涙は流さないで

水場奨
BL
仕事をしようとドアを開けたら、婚約者が俺の天敵とイタしておるのですが……! もう俺のことは要らないんだよな?と思っていたのに、なんで追いかけてくるんですか!

男前生徒会長は非処女になりたい。

瀬野みなみ
BL
王道全寮制男子校に、季節外れの転校生がやってきた。 俺様で男前な生徒会長は、周りの生徒会役員にボイコットされ、精神的にも体力的にもボロボロ…… そんな彼には、好きな人がいて…… R18/平凡攻め/結腸責め/メスイキ ※がついてる話はエロシーン含みます。 自サイト→http://nanos.jp/color04/ twitter→@seno_1998(裏話や細かい設定をボソボソ) 表紙は ソラ様(https://www.pixiv.net/member.php?id=454210)よりお借りしました。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

おっさん家政夫は自警団独身寮で溺愛される

月歌(ツキウタ)
BL
妻に浮気された上、離婚宣告されたおっさんの話。ショックか何かで、異世界に転移してた。異世界の自警団で、家政夫を始めたおっさんが、色々溺愛される話。 ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

EDEN ―孕ませ―

豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。 平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。 【ご注意】 ※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。 ※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。 ※前半はほとんどがエロシーンです。

「イケメン滅びろ」って呪ったら

竜也りく
BL
うわー……。 廊下の向こうから我が校きってのイケメン佐々木が、女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくるのを発見し、オレは心の中で盛大にため息をついた。大名行列かよ。 「チッ、イケメン滅びろ」 つい口からそんな言葉が転がり出た瞬間。 「うわっ!?」 腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。 -------- 腹黒系イケメン攻×ちょっとだけお人好しなフツメン受 ※毎回2000文字程度 ※『小説家になろう』でも掲載しています

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...