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双子島
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ナギはカレンの体を診察し、今後の為の知識とした。
それはカレンも望んでいたことなので、進んで協力していたけど、診察台に横になり、診察を受けるのはどうやらトラウマになっているようで、特に下着を脱いで診られるのは体が震えるほど嫌だった。
「悪いな、どうにもならない」
今日も診察を受ける為にベッドに横になろうとしたが、ベッドの上に腰かけて、下を脱ごうとすると体が震える。ナギが強要している訳ではない。トラウマが残り続けると嫌だから、カレンが自らを試している。
「大丈夫ですよ。お腹を診せてください。触診は大丈夫のようですから」
ナギは優しい。見た目も儚さがある。元々は病弱で早死にが予想されていたが、師匠との出会いが運命を変えたらしい。今でも激しい運動や急激な感情の起伏は体に障るらしいが、それでもそれさえ気を付けていたら、寿命を全うできるそうだ。師匠って人はすごい。遥か未来からやって来た人らしいが、ナギの運命も竜の運命も変えてしまった。
「そういえば、竜の歴史は始まったばかりだと言っていたが」
診察を受けながら、カレンは疑問を口にした。前にナギが言った言葉がカレンの中にずっとあった。カレンが知る竜の歴史の中では、竜は絶滅している。竜人が創られたのはもっと後の話だ。しかも絶滅してからかなりの年月を経て、双子島に竜人が現れる。白銀の竜が始まりで、他の竜のことは語られない。白銀の竜の守護として黒竜がいる。でもその存在の経緯は語られない。これは伝承なので綻びがあるのだろうと思っていたが、実際に目にした状況とはかけ離れている。
「そうですね。私ではなく師匠から聞いた話なのですが、今回の竜殲滅戦争は始まりに過ぎません」
「っていうことは、まだこの先にもあるということか? 竜が絶滅するのに?」
カレンはナギの手がお腹から離れたタイミングで服を下ろし、ベッドの外に足を出して腰かける。ナギはカルテに何やら書き込みながら、カレンの質問に答えた。
「そもそも今回の竜殲滅がなぜ行われたかと言うと、とある組織が竜を独占する為なのです」
「独占?」
カレンは驚いてナギを見ている。ナギはカルテに何やらを書き終わると、顔を上げてカレンを見た。
「そうです。この後、とある国が独占で竜の研究をし、兵器としての竜を創る。その竜の誕生がこの後、何年かかるのかはわかりませんが、兵器としての竜が人を襲うことになります。それがカレンさんのおっしゃる竜戦争だと思うのです」
「えっと、……理解が追いつかない。人は竜を恐れて絶滅させるんじゃないのか?」
カレンは髪を乱すようにして、頭を抱えた。ナギは悲しそうに笑う。
「民間への説明はそうされています。ですが水面下で情報を操作している者がいるのです。すでに実験用に竜が捕獲されています。それ以外の竜を絶滅させるのは、単に同じ考えを持つ者が現れないようにする為でしょう」
「竜を兵器に? それはここの竜たちも知っているのか?」
「ええ」
と、ナギは頷いた。
「兵器利用される竜に感情はありません。竜ではなく兵器なのです。ですから師匠と私はそうされる前に研究施設をこちらへ移し、竜人を創りました。ひとつには竜兵器を止める為、もうひとつは竜兵器から人を救う為です」
「ちょっと待て、それは今、その組織を潰すってのは無理なのか? 竜兵器なんて非常識なもの、創られる前に……」
「それは私も師匠に進言しました。ですが無理だそうです。その事件に関わる者たちは、歴史に影響力のある者ばかりだそうです。ですから竜兵器が創られない未来は、この次元の歴史ではなくなってしまう。そこまでの干渉はいくら師匠でも許されないそうです」
「過去への干渉……」
カレンは怖くなる。カレンがここで卵を産むことにより、未来のシアへ命を繋ぐことしか考えていなかった。ここで生きる竜にはさらなる試練が待っている。カレンはお腹の中の卵を想い、腹を撫でた。
それはカレンも望んでいたことなので、進んで協力していたけど、診察台に横になり、診察を受けるのはどうやらトラウマになっているようで、特に下着を脱いで診られるのは体が震えるほど嫌だった。
「悪いな、どうにもならない」
今日も診察を受ける為にベッドに横になろうとしたが、ベッドの上に腰かけて、下を脱ごうとすると体が震える。ナギが強要している訳ではない。トラウマが残り続けると嫌だから、カレンが自らを試している。
「大丈夫ですよ。お腹を診せてください。触診は大丈夫のようですから」
ナギは優しい。見た目も儚さがある。元々は病弱で早死にが予想されていたが、師匠との出会いが運命を変えたらしい。今でも激しい運動や急激な感情の起伏は体に障るらしいが、それでもそれさえ気を付けていたら、寿命を全うできるそうだ。師匠って人はすごい。遥か未来からやって来た人らしいが、ナギの運命も竜の運命も変えてしまった。
「そういえば、竜の歴史は始まったばかりだと言っていたが」
診察を受けながら、カレンは疑問を口にした。前にナギが言った言葉がカレンの中にずっとあった。カレンが知る竜の歴史の中では、竜は絶滅している。竜人が創られたのはもっと後の話だ。しかも絶滅してからかなりの年月を経て、双子島に竜人が現れる。白銀の竜が始まりで、他の竜のことは語られない。白銀の竜の守護として黒竜がいる。でもその存在の経緯は語られない。これは伝承なので綻びがあるのだろうと思っていたが、実際に目にした状況とはかけ離れている。
「そうですね。私ではなく師匠から聞いた話なのですが、今回の竜殲滅戦争は始まりに過ぎません」
「っていうことは、まだこの先にもあるということか? 竜が絶滅するのに?」
カレンはナギの手がお腹から離れたタイミングで服を下ろし、ベッドの外に足を出して腰かける。ナギはカルテに何やら書き込みながら、カレンの質問に答えた。
「そもそも今回の竜殲滅がなぜ行われたかと言うと、とある組織が竜を独占する為なのです」
「独占?」
カレンは驚いてナギを見ている。ナギはカルテに何やらを書き終わると、顔を上げてカレンを見た。
「そうです。この後、とある国が独占で竜の研究をし、兵器としての竜を創る。その竜の誕生がこの後、何年かかるのかはわかりませんが、兵器としての竜が人を襲うことになります。それがカレンさんのおっしゃる竜戦争だと思うのです」
「えっと、……理解が追いつかない。人は竜を恐れて絶滅させるんじゃないのか?」
カレンは髪を乱すようにして、頭を抱えた。ナギは悲しそうに笑う。
「民間への説明はそうされています。ですが水面下で情報を操作している者がいるのです。すでに実験用に竜が捕獲されています。それ以外の竜を絶滅させるのは、単に同じ考えを持つ者が現れないようにする為でしょう」
「竜を兵器に? それはここの竜たちも知っているのか?」
「ええ」
と、ナギは頷いた。
「兵器利用される竜に感情はありません。竜ではなく兵器なのです。ですから師匠と私はそうされる前に研究施設をこちらへ移し、竜人を創りました。ひとつには竜兵器を止める為、もうひとつは竜兵器から人を救う為です」
「ちょっと待て、それは今、その組織を潰すってのは無理なのか? 竜兵器なんて非常識なもの、創られる前に……」
「それは私も師匠に進言しました。ですが無理だそうです。その事件に関わる者たちは、歴史に影響力のある者ばかりだそうです。ですから竜兵器が創られない未来は、この次元の歴史ではなくなってしまう。そこまでの干渉はいくら師匠でも許されないそうです」
「過去への干渉……」
カレンは怖くなる。カレンがここで卵を産むことにより、未来のシアへ命を繋ぐことしか考えていなかった。ここで生きる竜にはさらなる試練が待っている。カレンはお腹の中の卵を想い、腹を撫でた。
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