竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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竜殱滅

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 具体的にどうするかと言われても、カレンもミコトも戦闘経験などない。ただカレンは何れ異世界へ行くことになっていたので、剣術と武術は習って来た。だが習い事レベルだ。実際に戦闘を見せられたら足が竦む。

「夜の闇に紛れて行動ってベタだよな」

 ミコトが小声で言う。声を拾ったカレンは苦笑するしかない。

「授業で習ったことが本当なら、竜は夜に動かない。特に新月は」

「って、ガッツリ月出てるんですけど?」

「あれが月かどうかはわからないよね?」

「そりゃ異世界だからどうかもだけど、じゃぁ月ってなに? あってる? って話になるよね?」

 地上では竜を火葬している。赤々と燃える炎が空高く舞い上がり、黒煙が辺りを煙らせている。それを見守る軍人。砲台は空を狙っている。

「何万という竜が殺されて焼かれる。それでは足りなくて海に流された。潮の流れでとある島に流れ着いて、そこは竜の墓場と呼ばれていた」

「竜のお勉強の知識?」

 ミコトの言葉にカレンは頷いた。

「竜人の間で語り継がれて、次元が繋がった現代へ教えた。それが教科書になって、俺ら白銀の竜の相手をする子どもに教えられて来たんだ。何れ異世界で生きることになるからってさ」

 カレンはその知識がこんなことで役立つとは思っていなかった。もし仮に子を成して異世界で暮らしたとしても、過去の歴史や竜の生態を知って何になるのだろうと思っていた。単に長い時間を過ごす暇潰しか、テストをしたいが為に覚えさせられたのかと思っていたくらいだ。

「あとは? 使えそうな知識は?」

 ミコトは辺りを警戒しながら歩いている。カレンを走らせたくないから、できれば見咎められず、変に目立たず、人の中に紛れられたらと思っている。

「双子島があって、海を渡ると大陸がある。大陸には四季があって朝昼夜がある。大陸にはたくさんの国があり、王政、宗教政、代表政いろいろ。でも竜殱滅の時は大陸全土の国が協力して事に当たり、僅か10日で絶滅させた」

「10日? ってことはあと9日続くってこと? 竜っていう大きくて強い生物を大陸中?」

「教科書ではそうなっていた。この時代の竜は害獣だった。知識としての竜はごく普通の動物だ。仲間が傷つけられたら報復に来る。そこを狙われて一網打尽だ。メスはオスに守られている。オスを仕留めれば、メスは寝込みを襲われる。竜は子作りの時期がある。今はその時期じゃないのだろう。個体が増える前に殱滅行動を起こしている」

 カレンは竜擁護派だ。ずっと竜の渓谷を見守って来た。竜から竜人への変化を見たことはないが、変化前と変化後は見ている。あのシアが白銀の竜である姿を。

「恐竜みたいな感じ? 氷河時代にマンモス倒してたのとか」

「あれは食べる為だろ? これは虐殺だ。人化できる竜を知っているから、より凄惨に映るよ」

 森の中にも松明が見え始める。メスが潜んでいる場所を探しているのか。

「動くとメスに間違えられるかもしれない」

 カレンが足を止めてミコトを振り返る。木の根元に二人で座って、松明の動きをやり過ごす。

「いたぞ、こっちだ!」

 声が響き、その声の方へ松明が動く。
 銃声が聞こえ、地を揺らす咆哮が聞こえる。

 カレンとミコトは身を縮め、木の根元に隠れた。心臓が早鐘を打つ。足に地の揺れが伝わっている。硝煙の匂いと血の匂い。人の怒声。竜の動きも音と振動で伝わって来る。一頭ではない。数方向から音と振動、松明の揺らぎが見える。
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