竜の卵を宿すお仕事

サクラギ

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竜殱滅

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 10日後、カレンはミコトの手を借りることなく起き上がれるようになった。でもまだ走ったり、たくさん立っていることも苦しいようだった。

 ずっと部屋にいるのも窮屈だろうと、その日、ミコトはカレンを外に連れ出した。

 ミコトの言う通り、空に竜の飛ぶ姿がある。ミコトが借りた家は森の中にあり、木々に隠されている。家から坂を少し登り、木々の隙間から空を眺められる場所に座った。

 丘の反対側を見ると民家が並んでいた。でも崩壊している家もある。昼間なのに人の姿は見えなかった。

「数日前、軍人が来たんだ。でも俺たちには身分証もないし、ここにいる説明も難しいだろ? だから出て行かずに隠れていて、静かになったから出てみたら、もう誰もいなくなった後だったんだ」

「それってどういうことだ?」

 カレンにとって自然というのは、とても珍しいものだった。施設の島にも自然はあったが、放置された鬱蒼と茂る森で、生活感がまるでない場所だから、カレンにとっての島の自然は、毎日見る背景にすぎなかった。でもここは違う。人の通るみちがあるし、人の住みやすいように木々が間引かれている。枝に洗濯物でも干すのか、縄が張られた箇所もあった。

「戦争が起こるのかもしれない」

 ミコトがポツッと言葉にする。
 ミコトの言葉を聞き、カレンは飛び交う竜を見上げる角度を変える。ぼんやりと眺めていた体勢から食い入るように。

「ダメだ、ミコト、あれは襲って来る」

「どういうことだ?」

「ここは多分、竜避けの結界が張ってある。だから竜に見逃されている。でも時間の問題だと思う」

 カレンはミコトの手を借り、立ち上がると家の中へ急ぐ。部屋に入ると窓から距離を置き、机の下に身を隠した。良くわからないミコトも、カレンの隣に身を寄せる。

「ミコト、竜についての勉強は?」

 カレンが小声で問う。

「してねえよ、俺は施設に就職って形で入ったからな。竜の相手に選ばれたのは、この髪と目の色だからだ」

 ミコトは黒髪に青い瞳だ。そういう好みの竜がいたのだろう。白銀の竜が黒髪黒い瞳を選ぶように。

「竜人と純粋な竜には違いがあるんだ。実物を見比べたことはないけど、10年竜の渓谷を見てきたからわかる。ここの上を飛んでいる竜は純粋な竜だ。純粋な竜は人を襲う。過去には害獣とされ、殱滅された歴史がある」

 そう言ったカレンは、その後、考え込んだ。繋がっていた異空間には、純粋な竜などいなかった。竜殱滅作戦以降、竜は絶滅したとされた。しかし、竜を愛した科学者が、竜の遺伝子を持ち出し、とある島で竜と人とを掛け合わせることで竜人を生み出すことに成功し、その後、竜人として生きるか、竜として生きるかの選択をした。カレンは竜の歴史をそう教えられている。

「純粋な竜は、あの渓谷にいなかった。……いるはずないんだよ。だって竜は絶滅したのだから」

 カレンは自分の中に芽生えた恐ろしい考えに身震いをした。ミコトはカレンの呟くように語る歴史を聞き、良くわからないと首を傾げた。

「どういうことだ?」

 カレンは無意識にミコトの服の裾を掴んだ。

「戦争って、竜の殱滅が始まるんじゃないのか?」

 周りの民家が崩されていた。まるで重い物を上から乗せたように。方々に散らかる木の切れ端や家具は、竜が咥えて投げたり、蹴り飛ばしたからではないか。

「は? 竜の渓谷は静かな場所だっただろ? わざわざ時空を超えてセックスしに来るような奴らだぜ? よっぽど暇な奴らだって思ってたけど?」

「竜の渓谷はそうだ」

 カレンは額に手を当て、表情を歪めた。

「ここはあの竜の渓谷じゃない。……そうか、時空の歪みを通り抜けた。歪んで過去に抜けてしまった。そういうことか」

 カレンは髪をぐしゃぐしゃにして、叫びたい気持ちを抑えた。それからミコトを見る。キョトンとする年下の男を、宥めるように肩に手を置いた。

「これから竜の殱滅が行われる時代へトリップしたんだろう。大変だ。俺ら生きて竜戦争から逃れられるかな?」

 いっそ笑えて来る。白銀の竜に選ばれる為に、竜の生態や歴史を学んだ。幼い頃からずっと、カレンには竜が身近にあった。でもここは始祖の竜よりも過去の時代だ。竜の歴史を目の当たりにする。  

 但し、生きていられるなら。
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